考えたサービスで利用者さんのQOLが上がる喜び/介護リレーインタビュー Vol.34【管理者・サービス提供責任者 岩崎絵里さん】#2
介護業界に携わる皆様のインタビューを通して、業界の魅力、多様な働き方をご紹介する本連載。前回に続き、訪問介護サービスを提供している「株式会社のそら」で、管理者・サービス提供責任者として働く岩崎絵里さんにお話をお聞きします。
後編では、岩崎さんが介護のお仕事に感じるやりがいや、訪問介護の現場で求められる素質についてお聞きします。
お話を伺ったのは…
「板橋のそら」管理者・サービス提供責任者 岩崎絵里さん
ヘルパー2級、介護福祉士。小学校事務員を経て、介護業界へ転職。グループホームに勤務後、結婚を機に退職。出産・育児期間を経て、訪問介護事業所で1年間ヘルパー業務に従事。2012年、株式会社のそらにパートタイマーとして入職。2016年、社員になり資格を取得。現在は管理者・サービス提供責任者として活動中。高校生と中学生のママ。
人生の大先輩と接する現場は興味深いことだらけ
——岩崎さんが感じるお仕事の楽しさは?
ご利用者様は高齢の方が多いのですが、関っていると基本的に全部興味深いんですよね。私たちが経験したことがないことをお話してくださったり、実際に体験してらっしゃったりする方たちがたくさんいらっしゃいますから。私は管理者・サービス提供責任者ですが、現場に入るのが仕事のなかで一番好きです。
最初に入ったグループホームで働き始める前は本当に何もわからなくて、私の場合は「介護=過酷な現場」というイメージもありませんでした。そして実際に働き始めると、想像以上に楽しくておもしろいことの方が多かったんですよね。排せつケアもしますが、それがツラいとも思わないし、むしろキレイになって嬉しいとか、うまくオムツの位置がおさまったときの喜びのほうが大きいです(笑)。
——お仕事の魅力、やりがいは?
自分が考えたサービスで利用者様の生活の質が上がったと感じると、嬉しいし楽しいですね。例えばサービスに入る前は荒れ放題だったご自宅が、徐々に片付いて生活動線ができたときは「よし!」と思いますし、傷ができてしまった利用者様が少しでも改善傾向になればすごく嬉しいです。
生活の中に何かしら滞りがあったり、あるいはこれからその心配があるからご依頼いただいているので、私たちがサービスに入ることでその滞りや心配が解消されて、生活が上手く回るようになるのが一番のやりがいだと思います。
——高齢者の方と接するときに大切にしていることは?
まずは清潔感。あと馴れ馴れしくならないようにしています。現場では一対一で関わる分、友達感覚になってタメ口で話してしまいやすいので、そこは気を付けてバランスを取るようにしています。人生の大先輩ですから。
自分の意見を押し付けず命の危険がないようにサポート
——お仕事が大変だなと感じることはありますか?
働き始めたころは、やっぱり苦労しました。利用者様宅に1人で行くのは緊張しますし、何をしたらいいのかな、これでいいのかなと不安もありました。利用者様との距離感の縮め方にも悩みましたね。
ずっと変わらず大変だと感じるのは、「人それぞれ感覚が違う」ということです。例えば掃除ひとつでも、「散らかっている」とか「きれいになっている」というのは感覚が違いますし、食事でも賞味期限の考え方や購入する量なども全然違います。そういう感覚の違いはスタッフ同士でも違うので、同じケアでもやり方がちょっと違っていたりします。どこまで任せて、どこまで口を出すか、というのは難しいところです。
——岩崎さんはどう対応されるんですか?
自分の意見を押し付けないようにしています。スタッフ同士の場合は、何人かの意見を聞き、間をとってすり合わせていきます。
利用者様との場合は「命の危険がないか」を基準にしつつ利用者様の意思を最大限尊重するようにしています。基本的には利用者様のご希望に合わせながらも安全を確認しさらに念のため引継ぎの報告はしておく。本当に危ない場合は、関係各所に連携しながら安全な方向にできるように尽力しています。
——肉体労働な面もあるかと思いますか、そういった大変さは?
体がつらいときはありますね。自転車移動ですし、重いものを持つことも多いですから。そういうときは音楽を聴きながらお風呂でゆっくり体の疲れを取ります。
感謝を求めず、当たり前のことをさせてもらっているという感覚で
——介護業界を目指す人にアドバイスをお聞きします。現場で求められる人材とは?
パニックにならず、冷静に判断ができる人です。訪問介護の現場では一対一ですぐそばに仲間がいるわけではないので、何が起きてもある程度は自分で対処しなければなりません。もちろんその都度バックアップできる体制は取っています。でも本当にいろんなハプニングが起きることがあるので(笑)
また、仕事と割り切れる人のほうが、長く働けると思います。感謝されたいとか、自分の感情が出すぎてしまう人は、あまり続かないし疲れてしまう。私たちの仕事は、利用者様がやりたいことを実現するために、いかにサポートできるかという黒子のような存在です。主人公はあくまで利用者様なので、「私がやってあげているんだから」という気持ちのない方のほうが向いているのかなと感じます。
感謝を求めるのではなく、していることは感謝の手前。日常生活を支えるという当たり前レベルのことをしている認識なので、「やってあげている」ではなく「やらせて頂いている」なんですよね。そこに「ありがとう」と言ってもらえるなんて、逆にすみませんという感じ。人生の大先輩にいろいろ教わる機会でもあるので、「こちらこそありがとうございます」なんです。そういう感覚を持つことは大切なことかなと思います。
——最後に今後の目標を教えてください。
ひとつひとつのサービスの質を日々向上させていきたいですね。例えば足浴や掃除ひとつでも「のそらさんは違うね」と言われるようになれたらと思います。管理者として、その目標をヘルパーさんたちとも共有しながら、これまでの経験を大切に成長していきたいです。
ヘルパー業務のさまざまな場面でお仕事の楽しさを見出している岩崎さん。今回のインタビューで、訪問介護の「大変そう」というイメージががらりと変わりました。
「主婦にとって当たり前と思っているスキルが活かせる仕事なので、ベテラン主婦の方にぜひ興味を持って欲しいです。一般的な介護のイメージとは違う、面白い世界が待っていますよ」(岩崎さん)。
取材・文/山本二季
撮影/米玉利朋子(G.P.FLAG)