地方で事業展開をしていくには人材を大切にすることが重要【あい・グループ 中井良祐さん】#2
地方でヘルスケア事業に携わっている方に、集客や売上アップのための取り組みについてインタビュー。
前回に続き、大阪、京都、兵庫で27店舗を展開する「あい・グループ」のマネージャー兼「あい鍼灸院・接骨院 阪急高槻市駅院」院長の中井良祐さんにお話をうかがいます。
後編では、地方でのグループ院展開では欠かせない「人材の育成」にフォーカス。「あい・グループ」の人を大切にする教育についてお聞きします。
お話をうかがったのは…
「あい鍼灸院・接骨院 阪急高槻市駅院」院長 中井良祐さん
大学卒業後、2016年新卒で「あい・グループ」に入社。2018年5月、院長に就任し、新人育成にも力を注いでいる。2022年4月、マネージャーとして3店舗を管轄し、店舗運営のサポートも行う。
「人」を優先した事業展開で離職率も低下
――「あい・グループ」は人材に力を入れているそうですが、事業展開にも関係していますか?
社長がよく言うのは、店舗展開が先ではなく、人が育ったから新しく店舗を出すんだよということです。例えば何店舗まで増やしたいからといって、まだ育っていない人を院長に当て込んでも、結果として対応の質が悪くなってしまったりする。それでは、その地域の人にいいことではないので、ちゃんと院長を任せて大丈夫と思える人が育ったからこそ新しい店舗を出すという「人」ありきの店舗展開をしています。
とは言え、人によって院長になりたい人もいれば、そうではない人もいます。だから、それぞれの希望に合わせて、店舗展開や事業拡大を行っていくというかたち。せっかく人材が増えても店舗が増やせなければ、院長になりたい人がなれないということになりますから、増やせる準備はしておく、という感じですね。
――そういった環境があると離職率が低そうですね。
昨年度の離職率は約5%でしたね。でもそうなったのはここ数年で、昔は「みんな院長になろう」みたいな風潮があったんです。でも社長が「一人ひとりに合わせた働き方を」ということを伝えて続けてくれて、だんだんと全社的にスタッフが大事という考えになりました。
そもそもお客さんをよくするには、スタッフがいないとできないので、出勤してくれるだけでもありがたいというか(笑)。いっぱいお客さんが来たいと言ってくれても、僕1人では限界がありますから。
スタッフが気持ちよく働ける院は売上もアップする
――人材育成をする上で大切にしていることはありますか?
一番は「承認」です。ただ褒めるだけではなくて、失敗したとしても「この前はこうだったけど、今回はこんな風にしていたね」「そこがちょっと難しかったから、次はこうしてみようか」という伝え方をすると、本人はちゃんと見てくれていると認識してくれるんです。ただ単純に「すごいね」と言うだけで端的すぎると、「本当に見てるのかな」と思うだろうから、より具体的に伝えることが大事だと思っています。
またコミュニケーションも、とても大事ですね。例えば院内の雰囲気作りを考えるとき、一番上の僕がオペレーションしやすい空気ではなく、一番年数の若いスタッフがどうしたら治療に入りやすい雰囲気なのか、働きやすい環境なのかなというのを日々考えています。
――ふだんからスタッフのことをよく見ていないと難しいですね。
そうですね。でも僕自身も承認欲求が高い方なので(笑)、「ここを見てくれていたら嬉しい」というところはわかりますから。ただ怒られるだけだと嫌な人は多いけど、自分のしていることを見て認識してくれていることに腹が立つ人はいないと思うんです。
――そういったスタッフとのやりとりが店舗の売上に繋がったことはありますか?
スタッフ間の雰囲気が悪いと、やっぱり売上は下がるんです。だから部下が働きやすくなれば、店舗全体の雰囲気もよくなり、そこが売上アップにもつながっているかなと思います。
本当に人って大事なんですよね。いるだけでありがたい。僕の院は4月まで治療スタッフ3人だけだったんですけど、中旬ごろから受付にアルバイトの子が入ってくれたんです。それだけで治療スタッフが施術を抜けたりお客さんを待たせる時間が減り、売上が1割くらい上がりました。治療するスタッフが集中できる環境が整ったことで、来てくれるお客さんが増えたんですよね。
さらに5月には新卒の子が2名入ってくれて。今までいた子が1人院長になって抜けたんですが、それでも来院数は4月の2割増になりました。売上も今月の着地見込みは過去最高ベースになります。
やっぱり3人でできることには限界があるけど、1人増えたらその分可能性は広がるんですよね。選択肢が増えてありがたいです。人は活躍の場ができればやってくれるし、その結果が来院数や売上面に反映されるのかなと思います。
現場を考えた教育の結果、即戦力になる新人の育成に成功
――新卒で入られた方々の活躍のお話がありましたが、即戦力になるための教育があるんでしょうか?
「あい・グループ」では4月に入社後、1カ月間の研修があるんです。本社の研修施設で座学やコンプライアンス、保険の取り扱いなどについて学び、3週目からは配属予定の院での実習を通して研修と現場との差がないようにすり合わせを行います。その後、また研修で改善に取り組むので、店舗に配属されたときには1人のお客様に最初から最後までつける状態になっているんです。
配属後に1から覚えるのではなく、そこまで研修してから来てくれるので、現場としては本当にありがたいなと思います。院長以上には研修のスケジュールも共有してもらえるので、実習中もいろいろ伝えやすかったり確認しやすかったりするんです。その分、すごく成長が早いと思います。僕の1年目と比べて、すごく早いですね。
――ではそういった体制が整ったのはここ最近なんですね。
今のかたちになったのは5・6年前からかなと思います。僕の時は午前中に座学や実技をして、午後は各々いろんな院に行って現場実習で受付まわりを覚え、残って練習したければ院長にお願いして22時くらいまでやって…。月曜から金曜までは1日診療して、土曜は昼まで。
でも研修が整ってからは時間も決まっているし、土日もお休みなんですよね。やっぱり新しい環境に入ったばかりって疲れるので、徐々に慣れてもらうためにも基本は早く帰ってしっかり休んでもらう。そうしたほうが、結果として成長が早かったんです。そこから徐々にカリキュラムも改善していって、今のかたちになりました。
――教育体制が整ったのは店舗運営としてもすごく大きかったですね。
そうですね。僕の院にいる1年目のスタッフは、僕よりお客さんをみるときもありますよ。ちょっと時間のかかりそうなお客様がいらしたら僕が担当するんですが、その間にたくさん対応してくれるので、本当にすごいなと思います。
――地方での経営に悩むヘルスケア事業者の方にアドバイスするとしたら?
地方の場合、人材はグループ院に流れやすい面があります。人が来て欲しくても来ない。でも人がいなければ、売上は上げられません。
だからこそ、一緒に働いてくれる人がすごく大事なんですよね。スタッフを大切にできるかによって、結果お客さんにも影響があります。院長が常にイライラしていてスタッフが委縮していたら、お客さんも心配になるじゃないですか。
院長がスタッフにできることって、働きやすい環境の提供しかない。日々改善して、より良い環境をスタッフに提供するということが一番大事なのかなと思います。
ヘルスケア事業に欠かせない「人材の確保」は、地方では今後大きな問題になるはず。限られた人材を適切に育てていくことが、売上アップにおいても大切なことがわかりました。今後も人を大切にする「あい・グループ」の事業展開に注目です!
取材・文/山本二季