「無痛整体」で、子どもからお年寄りまで負担の少ない施術を可能に!【もっと知りたい「ヘルスケア」のお仕事Vol.66 柔道整復師/西 正博さん】#1
「ヘルスケア業界」のさまざまな職業にフォーカスし、その道で働くプロに、お仕事の魅力や経験談を語っていただく連載企画「もっと知りたい! ヘルスケアのお仕事」。
今回お話を伺ったのは、
洲本接骨院の院長で柔道整復師の西 正博さん。
痛みのない「無痛整体」で、これまで40万人以上の患者さんを施術し、その悩みを改善。同業者のかたからも厚い信頼を寄せられています。
前編では、柔道整復師になったきっかけや、接骨院を開業したときのお話を伺います。
脊椎側弯症の痛みに悩んだ子ども時代。
1人の先生に助けられて、自らも柔道整復師の道へ
――柔道整復師になったきっかけを教えてください。
実は僕、中学生の頃に「脊椎側弯症(せきついそくわんしょう)」という成長期の子どもが発症する病気になってしまったんです。これは痛みの出る子、出ない子がいるのですが、僕はかなり痛みが出るタイプで……。毎日湿布を貼って生活していました。
もちろんいろんな整形外科や接骨院に行ったんですが、これって未だに原因がはっきりしていないんですよ。どこに行っても「湿布を貼って経過をみましょう」としか言ってもらえなくて、すごく辛かったです。そんな時、兄の紹介で福岡の先生に診てもらって。この先生が、背中を直接触らず膝から下だけで全ての背骨を動かすっていう、すごい先生だったんです。今までどんな病院に行っても改善しなかったのに、その先生のところで随分痛みが楽になりました。
この時の驚きが、いつまでも僕の中に残っていたんでしょうね。高等専門学校を卒業後、柔道整復師の専門学校に進学しました。
――柔道整復師は国家資格だと思うのですが、受験勉強は大変でしたか?
すごく大変でした。というのも、僕が受けたのが柔道整復師の国家試験の第1期だったんです。なので過去問がなくて、試験対策で具体的に何を勉強したらいいのかわからなくて……。とにかく医師や看護師の国家試験の過去問を参考に勉強しました。
――無事合格して、晴れて柔道整復師に。ご自身で接骨院を開業されたのが?
2003年です。19年前ですね。当時はお金のやりくりが大変で、最初の何年かは自転車操業でしたね。
しかも、開業して1〜2年の頃、この辺りに大規模な水害があったんです。この建物自体に大きな被害はなかったのですが、周りの家は全部水に浸かっていました。そうなると、患者さんも来られないですよね……。水害の被害が落ち着くまでの数ヶ月、患者さんがすごく減ってしまって。本当にお金に関する悩みは尽きませんでしたね(笑)。
――ちなみに、初めから「無痛整体」の施術をされていたんですか?
いえ、もともとはバキバキ系のカイロプラティックでした。いろいろ勉強していくなかで「疲労回復整体」っていう、疲労回復協会というところが教えている整体に出会ったんです。とはいえ、今僕が行っている施術は他の技もいろいろ組み合わさっているので、原型は崩れていますが(笑)。
――オリジナルの施術なんですね! どうして「無痛整体」を目指したんですか?
カイロプラティックをやっている時、治せる患者さんと治せない患者さんがいて。どうしたら幅広い人をケアしてあげられるんだろうって考えたら、疲労回復協会の痛みの少ない治療に行きつきました。これなら患者さんの負担も少ないので、小さい子こどもからお年寄りまで治療することができます。
できないことはできない、わからないことはわからない。
現状を正しく伝え、真摯に向き合う姿勢を大切に
――患者さんに満足してもらうために大切にしていることはありますか?
これはもう「真摯に向き合う」のみです。というのも、僕が脊椎側弯症で苦しんでいた時、どこに行っても「湿布貼って経過をみよう」としか言われなかったのが辛くて……。今となっては、原因がわからず治療法がないのも知っているので、そうとしか言いようがなかったのも理解できるのですが、本人、とくに子どもからしたら「もっとちゃんと診てよ」と思うのは仕方ないと思うんです。
なので僕は、わからないことや治せないものは、はっきりと伝えるようにしています。嘘をつかないのは当たり前ですが、言葉を濁したような言い方も避けて、状況を的確に言いますね。
あと、言葉だとピンとこない患者さんもいるので、できるだけビジュアルというか、模型や図解などを見せて「ここがこういうふうになっているから、ここに痛みが出ている」と、わかりやすく伝えるようにしています。
――たしかに、原因や改善方法がわからなくても、どうして痛みが出ているのかっていう状況がわかるだけでも、少し安心するかも。
ちゃんと説明すると、みなさん納得してくれますし、安心してくれる。患者さんは「痛みの改善」が目的で接骨院に来ているとはいえ、やっぱり症状が出ている理由も知りたいですよね。自分の体ですから(笑)。
あと、「真摯に」って言っている以上、わからないことを「わからない」と伝えるだけなのも、違うと思います。
――というと?
世間的に原因もわからない、治療法もわかっていない、という症状なら別ですが、「僕が」わからないものに関しては、僕自身ちゃんと勉強する必要があるなと。
実は僕が診ている患者さんに、クラシックバレエをやっている女の子がいるんです。初診の頃は、まだ中学生だったかな? この子の施術をする際に、「体を柔らかくするだけじゃダメなんだ」って言われたんです。
というのも、本来体の痛みや不調って、体を緩めて筋肉を柔らかくしてあげれば改善するものがほとんどなんですが、クラシックバレエをしている子は、緩めるだけじゃダメなんです。ピタッと動きを止める「静」の状態も維持しなくちゃいけないので、柔軟さだけを求めると、痛みは取れても踊れなくなってしまうみたいで。
――なんだか難しいですね。
初めそれを言われたとき、僕もピンとこなくて。「ごめんなさい、わからないです」って伝えました。でもそれで終わってしまったら、「真摯」じゃないなと。なので「次回までに勉強してきます」と伝えて、その日すぐクラシックバレエの本を何冊も買って、読み漁りましたね。
――それは、患者さんも喜んでくれたでしょう!
はい。「私のために、時間をつくって調べてくれてありがとう」って言ってくれました。でも、真摯に向き合うって、そういうことだと思うんです。おかげで僕も勉強できたし、その子にも納得してもらえる施術ができて、高校生になった今でも通ってくれています。
もちろん、それで全ての患者さんが解決するわけではないのですが、できるだけたくさんの人を改善させてあげたい。そのためにも、「真摯に」。スタッフにも、とにかくこれを徹底して伝えています。
「無痛整体」で知られる西先生ですが、まさか最初はバキバキ系のカイロプラティクスの施術をされていたとは驚きでした。確かに「無痛整体」なら、子どもでも受けられますね。洲本接骨院には保育園に入る前の子も通っているそうで、脇をこちょこちょくすぐって遊びながら、気づかれないように施術しているんだとか! 患者さんに負担の少ない施術は、「真摯に向き合う」先生のやさしさから生まれたんですね。
後編では、YouTubeをはじめたきっかけや、これからこの業界を目指す人たちへのアドバイスを伺います。
取材・文/児玉知子