民間救急の仕事内容とは?消防救急・介護タクシーとの違いや必要な資格もご紹介
一般的に救急と聞くと、119番の救急を思い浮かべるのではないでしょうか。それとは別に存在する、民間救急というものをご存知でしょうか?
民間救急は、消防救急の補完的な役割を担っており、高齢化に伴って利用が増えると予測されています。しかし、119番の救急と民間救急では、それぞれ特徴が異なります。
この記事では、民間救急の仕事内容や消防救急・介護タクシーとの違い、必要資格などをご紹介します。
民間救急とは
民間救急とは、緊急性の少ない患者を病院や社会福祉施設などへ搬送する民間事業者のことを指します。正式には、「一般乗用旅客自動車運送事業(患者等搬送事業)」と呼ばれており、サービスを提供する民間事業者は、国土交通省の許可と所轄消防署の認定を受けています。
民間救急が利用される場面
民間救急を利用する場面の例をご紹介します。
・入院先の病院から別の病院へ移る
・退院や病院で治療を終えて自宅へ帰宅する
・救急車を呼ぶほど緊急でない時
・イベント参加や旅行での移動
民間救急は、主に患者を病院へ搬送しますが、それ以外の目的で利用されるケースもあります。提供されるサービスの内容は、事業所によって異なります。
消防救急との違い
消防救急と民間救急は名前だけが異なり、基本的な特徴は同じだと誤解している方がいるかもしれません。しかし、消防救急と民間救急では、異なる点が多くあります。両者の主な違いを5つご紹介します。
1.搬送料金がかかる
消防救急は税金で賄われている公共サービスのため、利用する分には料金が発生しません。一方、民間救急では利用料金がかかります。主に料金が発生するのは、運賃・機材利用・介助です。運賃に関しては、時間または距離で料金が設定されており、金額は事業所によって異なります。
2.緊急走行ができない
緊急搬送を必要とする消防救急は、法律で緊急走行、いわゆる赤色の警光灯をつけてサイレンを鳴らすことが認められています。しかし、民間救急で使用される搬送用自動車には、サイレンや赤色灯の設置が認められていません。そのため、民間救急では緊急走行ができません。
3.原則医療行為を行わない
民間救急では、原則として医療行為を行いません。しかし、患者の病状悪化を防止するために、気道確保や体位管理などの応急手当は行わなければいけません。これらの応急手当を行うために、乗務員は患者等搬送業務員基礎講習を受講し、適任証を携帯することが義務付けられています。
患者を搬送している間に容態が急変した場合は、消防救急へ乗り替えを要請します。
4.資格や対応人数
消防救急と民間救急では、必要な資格と対応する人数が異なります。消防救急では、常時3人の救急隊員が乗務しなければいけません。また、救急救命士の資格を有している者が最低1人必要です。
一方、民間救急は2人以上の乗務員が必要になります。乗務員は、患者等搬送適任証を持っていなければいけません。
5.基本的に予約が必要
民間救急を利用するには、基本的に予約が必要になります。また、利用する際には、予約料金がかかり、当日の救急搬送だと追加で料金が発生する場合があります。予約が不要・利用料金がかからない消防救急とは、大きく異なる点と言えるでしょう。
介護タクシーとの違い
自力での移動が困難な方を搬送するサービスには、民間救急以外にも介護タクシーがあります。両者の違いは、消防署の認可の有無や車両、乗務員の特徴などです。
まず、民間救急は市区町村の消防署で患者等搬送事業者の認定を受けなければいけませんが、介護タクシー事業はこの限りではありません。また、介護タクシー事業所によってはセダンなどの一般車両を用いる場合がありますが、民間救急は福祉車両を使用します。
介護タクシーでは、患者等搬送適任者証の取得が義務ではなく、看護師や救急救命士が同乗することを求められません。
民間救急で働くには
民間救急は、消防救急に比べて緊急性の低い患者さんを対象にサービスを提供するため、命に大きく関わるといった場面は少ないでしょう。
民間救急では、車両乗務員が2人以上と義務付けられています。2人の場合は、乗務員と運転手に分かれます。これから民間救急で働くことを検討している方へ向けて、乗務員と運転手それぞれの仕事内容と、必要な資格をご紹介します。
乗務員の仕事内容
乗務員として民間救急で働く場合は、患者の乗降サポートや観察、応急手当を行います。また、車内の清掃や機材の消毒もします。事業所によっては、運転業務を行う場合があるため、求人をよく確認しておくようにしましょう。
乗務員に必要な資格
民間救急の乗務員になるには、患者等搬送乗務員基礎講習を修了して適任証の交付を受けなければいけません。しかし、助産師・保健師・看護師・救急救命士などの医療資格を有している場合は、受講する必要がありません。この講習は、各都道府県で開催されています。開催される時期は、各自治体によって異なるため、確認しておきましょう。
民間救急の求人によっては、救急救命士や看護師などの資格を必須としている場合があるため資格要件もチェックしておくようにしましょう。
運転手の仕事内容
民間救急の運転手の仕事は、病院や福祉施設など指定された場所へ患者を送迎するために福祉車両を運転することです。また、患者の乗降サポートや車両点検、車内清掃、資器材の消毒等を行います。
運転以外の業務は、乗務員と分担しながら行います。事業所によっては、兼務で働く場合もあるため、求人に書かれている仕事内容はチェックするようにしましょう。
運転手に必要な資格
民間救急は、利用者から運賃を受け取り運送するため、第二種運転免許が必要になります。第二種免許は、合宿・教習所へ通学・一発試験で合格することで取得することができます。運転免許以外にも、運転手は乗務員と同様に適任証の交付を受けなければいけません。
民間救急の開業方法
民間救急を開業するためには、消防庁の認定基準を満たさなければいけません。認定を受けるためには、事業を行う場所の自治体消防局へ申請します。ここでは、東京消防庁を例に、認定表示制度をご紹介します。
1.介護タクシーなどの営業許可を取得する
民間救急を開業するためには、介護タクシー等の営業許可を取得しなければいけません。東京消防庁が公表している案内資料を引用します。
⑴ 一般貸切旅客自動車運送事業(道路運送法第三条第一号ロ)
⑵ 一般乗用旅客自動車運送事業(道路運送法第三条第一号ハ)
⑶ 特定旅客自動車運送事業(道路運送法第三条第二号)
⑷ 自家用有償旅客運送(道路運送法第七十八条第二号)
引用元:東京消防庁|東京消防庁患者等搬送事業者認定表示制度のご案内
これらの内、介護タクシーは(2)に該当します。申請書に必要事項を記入して、営業所在地を管轄する運輸支局へ提出します。審査に通過すると、営業が許可されます。
2.患者等搬送乗務員講習を受講する
乗務員や運転手に必要な資格で説明したように、業務にあたる従業員は患者等搬送乗務員講習を受講して、適任証の交付を受けなければいけません。この講習は、各都道府県によって開催されている時期や回数が異なるため、開催日を確認しておきましょう。
営業所在地が東京の場合は、公益財団法人東京防災救急協会が講習を開催しているため、詳細は公式ページをご覧ください。
3.患者等搬送用自動車の設備基準を満たす
民間救急で用いる患者等搬送用自動車には、構造や必要な設備が定められています。定められている5つの事項をご紹介します。
・サイレンや赤色灯を付けない
・ストレッチャーや車椅子が1台以上収容、乗務員が応急手当ができるスペースを設ける
・ストレッチャーや車椅子が固定できるようにベルト等を付ける
・換気装置や冷暖房を設置する
・緊急連絡ができるように無線機などの機器を設置する
ストレッチャーとは、傷病者を乗せて運搬できる器具で、いわゆる担架のことをいいます。民間救急を始めるためには、これらの事項に沿うようにしましょう。
4.患者等搬送用自動車に必要な資器材を満たす
患者等搬送用自動車には、構造や設備以外にも、必要な資器材を備えておかなければいけません。東京消防庁が公表している案内資料には、必須の資器材が記載されていますので引用します。
分類 | 品名 |
呼吸循環管理資器材 | ポケットマスク
バッグマスク |
創傷保護用資器材 | 三角巾
包帯 ガーゼ ばんそうこう タ オ ル |
保 温・搬送資器材 | 担架
まくら 敷物 保温用毛布 |
消毒用資器材 | 噴霧消毒器
エタノール消毒薬 次亜塩素酸ナトリウム 塩化ベンザルコニウム クレゾール石鹸 |
その他の資器材 | 体温計
はさみ ピンセット 手袋 マスク 膿盆汚物入れ |
引用元:東京消防庁|東京消防庁患者等搬送事業者認定表示制度のご案内
これらの資器材の個数は、事業者の任意となっています。他にも認定までの流れや遵守義務が記載されていますので、東京消防庁のページを参考にしてみてください。
民間救急の仕事を始める前に要件をチェックしておこう
民間救急の仕事内容や消防救急・介護タクシーとの違い、必要資格などをご紹介しました。民間救急は、主に緊急性の低い患者の搬送を行い、消防救急と介護タクシーとは乗務員の数や、患者等搬送乗務員講習の受講が必要かどうかといった違いがあります。
今後、高齢化に伴い民間救急の需要は高くなると予測されます。民間救急で働くことを検討している方は、患者等搬送乗務員講習以外の資格が必要かどうか、開業を検討している方はどんな要件を満たしていなければいけないのか、事前にチェックしましょう。
引用元
東京消防庁:東京消防庁患者等搬送事業者認定表示制度のご案内
総務部厚生課:緊急自動車の運行に関する取り扱いについて
東京消防庁:安全・安心情報
東京消防庁:救急活動の現況
国土交通省地方運輸局:介護タクシー事業の経営許可までの流れ