言語聴覚士(ST)になる方法とは? 仕事内容や必要な能力を分かりやすく解説
世の中には障害や病気などで、言葉を発したり聞いたりすることが困難な人がいます。こうした人のサポートを行い、訓練によって回復させていくのが「言語聴覚士」です。この記事では言語聴覚士になるための方法や仕事内容などをご紹介します。
言語聴覚士になるためのルート
言語聴覚士になるには、国家試験に合格する必要があります。国家試験の受験資格を得るには、言語聴覚士の養成校や指定された大学で学ばなければなりません。
高校卒業後に言語聴覚士を目指すなら、以下のようなルートがあります。
1.都道府県が指定する言語聴覚士養成校を卒業する(3~4年制)
2.文部科学大臣が指定した大学や短大を卒業して審査を受ける(3~4年制)
3.大学や専門学校などで指定された科目を履修した上で、言語聴覚士養成校を卒業する(1年)
このほか、外国で言語聴覚士になるための勉強を行っていた場合は、厚生労働大臣の許可をもらえば受験資格を得られます。厚生労働省の調査では、81.8%の人が大学を、48.1%の人が専門学校を卒業しています。
言語聴覚士養成校はどんなところ?
言語聴覚士養成校では、言語聴覚士に必要なコミュニケーション障害の知識や言語聴覚療法などを学びます。そのほかにも心理学や言語学、社会福祉などの知識も身に付きます。
言語聴覚士としての基本的な知識を身に付けたら、それを応用した実習を行います。専門学校は特に実習に力を入れており、即戦力として現場で役立つ技術を学ぶことが可能です。
大学や短大の場合は「言語聴覚学科」や「言語聴覚学専攻」などがあるところへ入学すると、言語聴覚士に必要な科目を履修できます。一般教養も学べるため「幅広い知識を身に付けて、より患者さんとコミュニケーションをとれるようになりたい」という人に向いています。
自分がどのような言語聴覚士を目指しているのか、どの学校で学ぶのが適しているのかをよく考えましょう。
国家試験の内容と合格率
言語聴覚士の試験は毎年2月に実施されます。試験地は、北海道、東京都、愛知県、大阪府、広島県、福岡県の6カ所です。
試験は筆記で、5つの選択肢から正しい内容を選ぶ選択式の問題が計200問出題されます。出題される問題は、基礎医学や臨床医学などの基礎的な医学知識のほか、音声・言語・聴覚医学、音声・言語学などの言語聴覚士に必要な知識、社会福祉や教育、言語聴覚障害学総論など、非常に幅広いです。
令和2年2月15日に行われた第22回言語聴覚士国家試験では、2,486名の受験者のうち1,626名が合格しました。合格率は65.4%です。近年の合格率は、およそ60%~70%で推移しています。
同年のコメディカル職の合格率は、理学療法士が86.4%、視能訓練士が96.1%となっており、コメディカル職の中でも取得が難しい資格と言えます。
言語聴覚士とはどんな職業か?
言語聴覚士とは、音が聞こえない、聞き取るのが困難、言葉をうまく発音できないなど、言葉でのコミュニケーションが難しい人のサポートを行う仕事です。患者さんの抱える症状がどのようなものなのかを診断し、結果に基づいた訓練やアドバイスを行います。また、摂食や嚥下の問題にも対応します。英語で「Speech Therapist」と言うため、略してSTとも呼ばれます。
言語聴覚士は、1997年に制定された「言語聴覚士法」に基づいて認定されています。1999年3月に第1回の国家試験が行われ、4,000名を超える言語聴覚士が誕生しました。ただ1960年代から、医療の現場において言語聴覚士が必要という意見は多くあり、1971年には国立の言語聴覚士養成所が作られています。
また言語聴覚士には国家資格のほかに、日本言語聴覚士協会が認定する「認定言語聴覚士」という資格があります。これはより高度なレベルで言語聴覚士の技術を提供することを目的とした認定制度で、同協会が主催する講習会を受け、試験をクリアすることで取得できます。講習会への参加条件は「日本言語聴覚士協会の正会員であること」「満5年を越える臨床経験があること」「日本言語聴覚士協会が主催する生涯学習システム専門プログラムを修了していること」の3つです。
言語聴覚士に必要とされる能力・知識
言語聴覚士は、自分の考えや思いを言葉にしたくてもできない人を相手にする仕事です。知識や技術はもちろんですが、人と上手に接する能力が求められます。
コミュニケーション能力
言語聴覚士には高いコミュニケーション能力が必須です。患者さんにアドバイスや訓練を行うときはもちろんですが、普段からきちんとコミュニケーションをとって、患者さんやその家族との間に信頼関係を築いておく必要があります。
患者さんは自分の言いたいことがうまく伝えられず、ストレスをためてしまうことも多いです。特に病気やけがでうまく話せなくなってしまった人は、これまで当たり前にしてきたことができなくなり、絶望感を抱えてしまう人もいます。そうした気持ちに寄り添って共感する能力も必要になるでしょう。
また言語聴覚士は、基本的にチームの一員として仕事をすることが多いです。医師や看護師、ケースワーカーや介護福祉士などと連携をとりながら、患者さん一人ひとりに合わせたプログラムを作成、実践していきます。
こうしたチーム内でのコミュニケーションがきちんととれることも大切です。
観察眼
普段、私たちは言葉によってコミュニケーションをとっています。しかし言語聴覚士が相手にする患者さんは、言葉をうまく話すことができません。そのため、口や体の動き、表情から何を伝えたいのかを読み取る能力が必要になります。
「この人は何に困っているのか?」「訓練でどこまでの回復を目指すのか?」などを、コミュニケーションと観察眼で読み取り、求めているものが何なのかを考えて提供するようにしましょう。
根気強さ
言語聴覚士の仕事は、すぐに成果が現れることはありません。長い時間をかけて訓練を行うことで、少しずつ患者さんを回復させていきます。場合によってはせっかく回復したのに、元に戻ってしまうこともあります。
言語聴覚士は、こうした状況にも根気強く向き合わなければなりません。なかなか回復せずに落ち込む患者さんを励まし、訓練を続けるモチベーションを維持できるようにすることも必要です。
基礎的な医学の知識と音や声の仕組み
言語聴覚士も医療に携わる職業のため、基礎的な医学の知識が必須となります。失語症や聴覚障害などの病、症状に関する知識も必要です。
また音や声がどのような仕組みで出ているのか、聞こえているのかなどを理解することで、患者さんの問題点を把握し解決方法を導き出すことができます。そのため、音声や体に関する知識を身に付けることも必要です。
言語聴覚士の労働条件と仕事内容
2015年の国勢調査によると、言語聴覚士は全国に19,210人おり、約70%が病院などの医療機関に勤務しています。このほかにも福祉施設や介護施設、リハビリセンターなど、言語聴覚士が活躍する場所は多くあります。
言語聴覚士の多くは女性で、その割合は70%、年齢は40歳以下が約75%です。現在では高齢化に伴って言語聴覚士のニーズが増えていることもあり、言語聴覚士の資格を持っている人は2012年には約2万人、2018年には約3万人と増加傾向にあります。
年収は400万円前後と言われており、月の平均給与は大体25万円~30万円とされています。夜勤や休日出勤が発生する可能性も少なく、時短勤務も可能なため、育児や出産で仕事を辞めざるを得ないという状況も回避しやすいです。
言語聴覚士の仕事内容
言語聴覚士は、耳や言葉、嚥下などに障害がある方を支える仕事です。主な仕事には、以下のようなものがあります。
・言語障害の回復訓練
言葉がうまく話せない、文字が読めないなど、言語障害がある患者さんが回復できるよう訓練を行います。言語障害には会話や読み書きが困難になる失語症や、唇や舌の筋肉がうまく動かず声を発することができなくなる構音障害などがあります。
訓練では、まず患者さんの状態を把握し、原因を突き止めます。続いて、一人ひとりに合わせた訓練プログラム作り、実践していきます。失語症の訓練の場合は、絵や文字の書かれたカードを使って訓練を行うことが多いようです。
発音に誤りがある場合には、正しい口の形を作ったり、発音を繰り返し練習したりすることで改善を図ります。
・音声障害の回復訓練
音声障害は喉が損傷して声が出ない、耳が聞こえないなど、音を出したり聞き取ったりすることが困難な状態のことを言います。こうした患者さんの症状を訓練によって改善することも、言語聴覚士の仕事のひとつです。耳が聞こえない、聞き取りにくいという人には、補聴器や人工内耳のフィッティングを、声が出ない、声の調整ができないという人には声が出なくなった原因を突き止めて、発声訓練やカウンセリングを行います。
・摂食・嚥下障害の回復訓練
食べ物をうまくかめない、飲み込めないという方にアドバイスや訓練を行うのも、言語聴覚士の仕事です。特に歯やあごの筋肉が弱くなってしまった高齢者に行うことが多く、病院勤務の場合は、この仕事がメインになることもあります。食べて飲み込む力を維持できるように訓練を行うことで、チューブや胃ろうによる栄養摂取を防げます。
また高齢になると、認知機能の低下によって言語や音声にも障害が起こることがあります。こうした状態になった場合も、言語聴覚士による訓練を行うことで、認知機能の低下を防ぎ、言語・音声障害を改善できる可能性があります。
おわりに
言語聴覚士は、円滑なコミュニケーションがとれない人をサポートする、とてもやりがいのある仕事です。根気強く訓練を続けてきた患者さんが回復したときは、感謝されるだけでなく、まるで自分のことのように喜べます。高齢化社会の現代において、今後も活躍のフィールドを広げていく仕事と言えるでしょう。
参考元:
言語聴覚士|職業情報提供サイト(日本版O-NET)
言語聴覚士国家試験の施行|厚生労働省
第22回言語聴覚士国家試験の合格発表について|厚生労働省
第50回視能訓練士国家試験の合格発表について|厚生労働省
言語聴覚士とは|一般社団法人 日本言語聴覚士協会
生涯学習プログラムについて | 資格をお持ちの方へ | 一般社団法人 日本言語聴覚士協会
言語聴覚士になるための基礎的な学問|神戸医療福祉専門学校
言語聴覚士の給料について|神戸医療福祉専門学校
失声症と失語症の違い-声が出なくて悩んでいる方へ|日本福祉教育専門学校