6年連続離職率0。稼働率を7割にする「忙しくさせ過ぎない」経営術「HariFa」御領原圭佑さん
浜松と名古屋に鍼灸サロン「warmy」、美容鍼サロン「HariFa」などを経営している、鍼灸師の御領原圭佑さん。美容鍼サロン「HariFa」では労働環境を整え、給与面などの高待遇を実現し、6年連続、離職率ゼロを達成しているといいます。スタッフが長く働いてくれるサロンこそ成長していけると考え、「忙しくさせ過ぎない」経営術を実践しているそうです。
今回、お話を伺ったのは…
御領原圭佑(ごりょうはら けいすけ)さん
鍼灸師
鍼灸サロン「Warmy」、ごりょう整体院、美容鍼サロン「HariFa」のほか、温浴酵素、カフェなどの事業も行っている。美容鍼サロン「HariFa」では6年連続離職率0を達成。鍼灸師向けの経営塾なども経営している。
自分がどこを目指すのかを決め、初期設定することが重要
――6年連続、離職率0だとお聞きしました。なぜそのようなことが可能になったのでしょうか。
労働環境の整備や、高待遇を実現したからだと思っています。うちのサロンでは月に9日の休日、勤務時間内の研修、有給消化率100%推奨など、プライベートと仕事をきっちり分けた働き方ができます。給与面では30万円以上を目指すことも可能です。
――多くのサロンでは高待遇にしたいと思っても実現できていないのが現状かと思います。どのように実現しているのですか?
高待遇を実現すると決めて、そうなるように初期設定するしかないと思っています。経営者ならだれでも、スタッフを何人雇うか、どんなメニューでいくらに設定するか、スタッフの稼働率をどのくらいにするかを計算し、経営を行っていると思いますが、僕はスタッフに負荷があまりかからず、長く働いてくれるように設計しました。
その設計がうまくいけば、離職率が低くなり、求人費や教育のコストがかからない分、給与にも反映できますし、福利厚生も充実できる、いい循環になると考えたんです。長い目で見れば、辞めるスタッフが少ないほうが会社にとって大事だと僕は思っています。そういうサロンを目指すことをまずは決める。物事ってなんでもそうだと思うんですよ。富士山に登ろうと決めるから、富士山に登れる。高尾山に登ろうとしていた人が富士山に登るのは無理ですからね。
「短期的に売上をあげる」より「長期的に働いてもらう」ことに重きをおいて
――スタッフの方が長く働いてくれるように店舗設計をされたということなんですね。
はい。この業界では長く働いてくれる人がいるサロンほど、成長が望めると僕は思っています。というのも鍼灸師の仕事は技術職ではありますが、どんなに技術が優れていても、最終的にはお客さまとスタッフが人と人として向き合う仕事で、お客さまは店につくというより、スタッフについてくださることがほとんどなんですね。
それに、鍼灸師の仕事はいわゆる労働集約型のモデル、つまり労働力に対する依存度が高い産業なんですね。勝手に物が売れて売上が立つわけではなく、目の前の患者さんを施術して初めて売上があがる仕事ですし、どんなにがんばっても1カ月に30日ほど、24時間しか働けない仕事です。もちろんそこまで働くことはできないので、実際にはもっと稼働は少なくなります。稼働時間が少ない中で売上を上げるには、技術力と求心力を備えた鍼灸師が必要で、その実力をもった鍼灸師が長く働ける環境の整備が重要だと考えています。
また鍼灸師の業界は女性の離職率がとても高いという現状もあって、それは業界の課題だと思っていました。女性が結婚、妊娠、出産というようなライフプランを経験しながら、働きやすい環境を作りたいと思ったのもきっかけの1つです。
――店舗設計のなかで、具体的にされたことはどんなことでしょうか?
スタッフの稼働率が6割から7割で、利益が十分に確保できるように設定しています。この業界では稼働率が7割を超えると離職率が一気にあがるといわれているので、稼働率が上がり過ぎない、つまり予約が入り過ぎないように注意深く見ているんです。経営者としては、稼働率をもっとあげたいと考えるかもしれませんが、働く側からすると1日ずっとお客さんの相手をして、それが毎日のように続けば疲れて当然ですし、辞めたくなるのもうなずけます。
それに高い水準で売上をあげることより、7割くらいで長く働いてくれたほうが長期的に見れば会社にとってプラスになるはずです。たとえば1人の施術者が毎月50万円の利益を出してたとしても忙しくて1年でやめてしまったとしたら、600万円の利益です。でも毎月20万円の利益を出して4、5年と長く働いてくれたらそれを上回ることが可能ですから。
――スタッフの方のなかには人気がでてきて、稼働率が7割を超えてしまうなんてことはありませんか?
もちろんそういうスタッフもいます。うちのサロンでは1カ月のマックスの施術回数を算出しているので、そのラインを超えているスタッフがいたら、疲れていないか、しんどくないかということは確認するようにしていますね。ただなかには、がんばってお給料をあげたいというスタッフもいるので、どちらも選択できるようにはしています。
デメリットこそはっきり伝える。採用の間口は広げず、アンマッチを防ぐ
――待遇面以外にも離職率を下げるために工夫していることはありますか?
面接をするときに、うちのサロンで働くことのメリットだけでなく、デメリットもしっかり伝え、採用のアンマッチを防ぐようにしています。入社後に「想像していた仕事と違う」と思われることも離職につながる大きな原因の1つだと思うので。「HariFa」の採用時には、99%が美容鍼のお客さまなので、体の治療もしたいという人には向いていないということ、施術内容やお客さまに話す内容なども1から10まできっちり決まっているので、自分で施術内容を組み立てたいという人には不向きであることははっきり伝えています。このすり合わせがとても重要だと思っています。
後編では御領原さんが主催した「鍼灸フェス」について伺います。きっかけはキングコング西野亮廣さんの講演会開催の権利を購入したことだったそう。初回のイベントには2,000人が参加し、そこから3000人以上の鍼灸師が集まるコミュニティが生まれたといいます。また長く鍼灸業界で活躍する御領原さんが考える、鍼灸師がこれから生き残る方法についてもお聞きします。後編もお楽しみに!
information
住所:愛知県名古屋市西区則武新町3-1-69