リングスケア®による美整容を看護・介護業界の当たり前に!【もっと知りたい「ヘルスケア」のお仕事Vol.108/リングスケア®チーフセラピスト 大平智祉緒さん】#2
ヘルスケア業界のさまざまな職業にフォーカスし、その道で働くプロにお仕事の魅力や経験談を語っていただく連載企画「もっと知りたい! ヘルスケアのお仕事」。
今回お話を伺ったのは、リングスケア®チーフセラピスト 大平智祉緒さん。
看護師として高齢者看護に従事した後、メイクセラピストとして活動をスタート。2019年、療養中や要介護の方に美容ケアを届ける訪問型看護美整容ケアサービス『Nursing&Beauty Care』を事業化し、介護施設での展開をスタート。2022年『Rings Care®』に名称を変更し、2023年6月より法人化しました。
前編では、看護師からメイクセラピストに転向したきっかけや、大平さんが立ち上げたRings Care®についてお聞きしました。後編では、リングスケア®セラピストのお仕事のやりがいや大変さ、ヘルスケアのお仕事をするうえで大切なことを教えていただきます。
「いのち」の輝きを支え続けるリングスケア®セラピストを知って欲しい
――大平さんがリングスケア®セラピストのお仕事をするうえで大切にしていることは?
リングスケア®セラピストの存在意義は、病気や障がいがあっても、一人ひとりの「いのち」の輝きを支え続けることだと考えています。高齢者医療の現場での経験を通して、医療の進歩により生物学的な「命」の延命は可能となったと感じる一方、本人の意向や生活者という視点ではどうなのだろうかと倫理的な葛藤を感じる場面にも遭遇しました。人は、社会的な存在であり心のある存在です。その人のありたい自分、周囲から支えられているその人らしさ、自分でとらえている自分らしさ、生きがい…そういった多面的な面での「いのち」を支え続けたいと思っています。
そのためのバリューとして第一に掲げているのが、「ケアリング」です。ケアリングは、Rings Care®の語源になったもので、利用者様ご本人とセラピストが愛と慈しみを持って関わり、ともに癒やされ成長していくこと。人と人とが関わるからこそ生まれる温かさや癒やしというのを、絶対的に大切にしています。
――リングスケア®セラピストのお仕事のなかで、特に大変なことはなんですか?
ビジネスとしてやっていく以上は利益を生み出さなくてはならないので、今一番大変なのは、新規顧客開拓です。やっぱりまだ知られていないケアサービスというところが大きいですね。介護や医療の現場は、外から新しいものをどんどん取り入れようという業界ではありませんし、現場も余裕があるとは言えない状況のなかで、Rings Care®のような今までなかったものを取り入れてくださる施設様と出会うことは、なかなか難しいと感じます。
だから今はとにかく営業をしているところです。飛び込みも行きますし、ダイレクトメールやファックスを送ったり、電話をかけたりもしています。そうして話を聞いていただくのも一苦労ですが、これまで取り上げていただいた記事や、特許庁のプロジェクトに選ばれたことなど、実績を見てもらえると前向きに検討いただけることは多いです。
――してよかったと思う営業の取り組みはありますか?
セラピスト仲間ができたことで、イベント的に体験会をしたときは、とても反響がありました。5年ほどサービスを導入いただいている施設での開催だったこともありますが、「やってみたかった方がこんなにいたんだ」と発見がありましたね。
マンツーマンのゆっくりとしたケアにこだわりすぎて、体験会のようにスピーディーに回していくようなものは違うと思い込んでいたけど、もっと気楽にやってみて決められるようにハードルを下げることも大事なんだと感じました。
また施設で開催したことで、施設関係者やケアマネージャーさんに見ていただけたのも大きかったですね。本当に短時間で驚くほど利用者さんの表情が変わるので、その感動をそのままご家族にも伝えてくださるんです。ほとんどの場合、決裁者はご家族なので、そこに伝わるのはとても大きいなと感じました。
終末期を悲しみだけで終わらせず、
残されるご家族の気持ちにも寄り添いたい
――では、このお仕事のやりがい、いいところは?
利用者さんからのダイレクトな感謝の言葉はもちろん、表情や言動の変化には毎回感動しますし、やりがいを感じますね。30分で明らかに、別人のように表情が変わるんです。お化粧による変化ではなく、心から変わっているのが見てわかります。
なかでもとくに私が一番うれしいのは、ターミナル期の方に「幸せだ」と言っていただけるときです。苦しみを全部取り切れているわけではないけれど、「気持ちいい」「こんな幸せが人生の最期に待ってるなんて思わなかった」と言ってくださるんですよね。
またターミナル期の場合、できるだけご家族と一緒に声をかけ、一緒に触れて、その方の話を一緒にするようにしています。ご本人が会話をすることが難しくなると、ご家族から話しかけづらくなったりするんですよね。でもセラピストが間に入ることによって、思い出話ができたり、感謝の気持ちを言葉にできたりするんです。その時間があるだけで、ご本人が亡くなったあとに残された側の気持ちは全然違うと思います。大切な人を亡くすという何よりも悲しい経験を、悲しみだけで終わらせないのが、リングスケア®なんです。
死を目の前にしたとき、私たちは無力で、そばにいることすら苦しくなることがある。でもリングスケア®があるだけで、そばにいることができる。そんな「力になれているのかな」と思える瞬間がたくさんあって、この仕事を始めて本当によかったと感じています。
――リングスケア®セラピストになりたいという方が経験しておくとよいことは?
看護と介護の経験は、全部が生きている気がします。とくに訪問看護の経験はすごく役立ちました。自分ひとりで訪問して、ご利用者さんが今つらいことや問題点をくみ取って、全身状態を観察しながら相手に合わせたケアをしていく。本当に看護の基本なんですが、そこが一番重要なんですよね。
あとは心理学的な学びも、とても大切だと思います。とくに援助的コミュニケーションについては、技術として改めて学んだ方がいいです。感覚的なコミュニケーションと違い、技術の部分が大きいので、きちんと学ぶだけで相手の反応も全く変わってくると思います。また心理学を学ぶことは、自己理解を深めることにもつながります。自分自身をケアできていないと、人をケアするのは難しいですから。
看護・介護のチームの一員として、ケアの輪をつなぐ
――これからヘルスケアのお仕事を目指す方に、アドバイスをお願いします。
ヘルスケア領域は、チームで関わることが重要です。リングスケア®だけで、その方の生活すべてをよくできるわけではないし、看護だけでもいけない。ひとりの利用者さんに、いろんな職種の方が関わり、領域を超えて連携を図りながら、その方にとって最善の生活を共に模索していく。自分が関わっている瞬間だけ元気で喜んでもらったらいいということではないんですよね。
だから、ご利用者さんとのコミュニケーションだけでなく、横とのつながりもすごく大事。ご利用者さんを真ん中に置いて、その方のより良い人生にみんなで伴走していけるように、自分の専門領域以外にも興味を持って、周りとのコミュニケーションを大切にして欲しいです。
――最後に、大平さんにとって「ヘルスケアの心得3か条」とは?
1.自分自身のケアも忘れずにケアリングをつなげていく
2.利用者さんと1対1で向き合う時間を大切にする
3.他領域ともコミュニケーションを取り、ケアの輪をつなぐ
私が活動の中でも最も大切にしている「ケアリング」は、人同士の関わりから生まれるものなので、自分自身がケアできていないと難しいんです。与えてばかりはなく、きちんと受け止める。そのためには自分の気持ちが安定していないと受け止めきれなくなってしまう。だからヘルスケアの仕事に携わる側こそ、意識的に自分のケアをしなければいけないんです。
また、たくさんの利用者さんに関わるとしても、それぞれがご家族にとっては、世界でたったひとりの大切な人なんだという意識は忘れないこと。顔をずっと触り続けていると、一人ひとりの顔って全然違って、同じように人生も違うんだと毎回感じるんです。顔に触れることで、ひとりの人と関わっているというのを思い出させてくれる。だから利用者さんと向き合う時間は、とても大切にしたいと思っています。そしてたくさんのヘルスケアのお仕事をしている方々とケアの輪を作り、人生に伴走していけるような仕事を続けていきたいです。
取材・文/山本二季