【もっと知りたい「ヘルスケア」のお仕事Vol.6】AFINA 伊良林鍼灸均整院 院長 小柳弐魄さんの「身体均整師としての心構え」
近年、健康ブームにともなって注目を集めている「ヘルスケア業界」のお仕事をより詳しく紹介するこの企画。
今回は、整体とは異なるソフトな施術で体の不調を整える「身体均整師」にフォーカス。身体均整師と鍼灸師の2つの顔を持つ小柳弐魄さんに、身体均整師に就くまでのお話や、今の時代におけるクライアントとの向き合い方を教えていただきました。
教えてくれたのは……
AFINA 伊良林鍼灸均整院 院長 小柳弐魄さん
身体均整師。鍼灸師。「AFINA伊良林鍼灸均整院」院長。大学では文章を学ぶかたわら舞踏集団の一員として舞台や映画で活躍するも、身体そのものに興味を持つようになり、今の業界に飛び込む。数々の専門学校や大学、そして身体均整法学園で学んだのちに開業。現在は、身体均整法学園で講師を務めるほか、「一般社団法人 身体均整師会」の理事・副会長として、身体均整法の指導にもあたっている。自身のサロンには、身体の不調や症状を真剣に訴える人が数多く来院している。
踊りの世界からいつしか身体均整師に…
――はじめに、小柳さんがこの仕事をはじめられたきっかけを教えてください。
もともと踊りをやっていたのですが、体を壊して行き詰まってしまいまして…。そのときに受けていたのが身体均整法でした。体のことをもっと知れば踊りの世界に活かせるかなと思い、勉強をはじめたのがきっかけですね。だから、野心を持ってこの世界に飛び込んだというわけではないんです(笑)。
――はじめは身体均整師として活動されていたのですか?
別の業種のアルバイトをしながら身体均整法の学校に通い、卒業後に身体均整師としてお店を構えました。開業後、そこそこ収入が安定してきてから鍼灸の学校にも通いはじめたという流れですね。
――開業後は、すぐに軌道に乗りましたか?
思いのほかお客さんが来てくれましたね。お店を構えてすぐは、お客さんはどこから来てくれるんだろうとイメージがつかなかったのですが、アルバイトしていたお店で出会ったお客さんが結構来院してくれたんです。最初の頃のお客さんのほとんどがアルバイト時の顧客でした。
――当時は、「身体均整師」は「整体師」に比べると馴染みがなかったのではないかと思うのですが、どのように打ち出していたのでしょうか?
確かに「身体均整師」と言われてもお客さんは「?」だったと思います。だから、当時はゴリ押ししていました。「僕は身体均整師だ! 整体師とは違うんだ!」という風にプライドが高かったですね…(笑)。今考えると恥ずかしいくらい。今は、施術内容を区別する上で身体均整師を名乗りますが、昔のように尖ってはいませんよ。
――そもそも身体均整法とはどのようなものですか?
受け手からすると、おそらく整体とそんなには変わらないと思います。施術者としての着眼点が違うことでしょうね。というか、「整体」の定義自体が世間的に明確にされておらず、手技療法の総称として整体という言葉を使っていますよね。そういう意味では、僕らがやっている身体均整法は整体のうちに入るだろうと思います。
――鍼灸と身体均整法を組み合わせた施術も行うのですか?
半々ですね。希望に合わせて対応していますが、特にふくよかな体型の方には鍼を使いたいです。僕の仕事は、ざっくり言うとコリを見つけて取ること。痩せている人は指でコリに届くけれど、ふくよかな人は指では届かないので、「この先にコリがあるのになぁ」というときには鍼を使用します。
――今、世間では鍼が流行っていますが、小柳さんの場合は鍼灸だけの施術というわけではなく、人や症状に応じて用いるのですね。
鍼に向かない人や症例も往々にしてあります。関節の動きを良くしたいときに鍼を頑張ってもすごく遠回りなんですよ。鍼がすべてに効くわけではないんです。
――当たり前ですが、流行っている施術が一番効くというわけではないのですね。
まさにその通りなんです。鍼だけでも手技だけでも足りない場合がよくあるんです。
クライアントの本当の悩みを見抜くために、あえて話半分に聞く
――どんな人が小柳さんのもとに来るのですか?
うちの場合は、ほかのところで上手くいかなかった人が来てくれます。リラクゼーションが目的ではなく、本気で治したいという人です。
――具体的にどのような症例を抱えているのでしょう?
一番多いのは肩こりや腰痛ですね。しかし、実際の悩みはそれではない人が多いです。取っ掛かりとして「肩こり・腰痛」を訴えていますが、お話を聞いたり施術を進めたりしていくと、実は病気を抱えていたというパターンがほとんど。中でも、無臭症や腰椎椎間板ヘルニア、神経痛などが特に多いです。あとは、心に悩みを抱えた人も来ますね。最初は体の不調を訴えていたけれど実は鬱を患っていたということも。印象的だったのは統合失調症の人に施術したことですね。
――具体的に教えてください!
腰が曲がっていることを気にして通ってくれていたのですが、もともと髪の毛が剛毛だったんですね。しかし、3回目くらいの施術から髪の毛がまっすぐになったんです! パーマをかけたわけではないのにですよ。あくまで僕の想像ですが、神経が落ち着いて髪の逆立ちが取れたんだと思うんです。これは僕としても新しい発見でした。
――心に悩みを抱えた人も多いということですが、小柳さんが接客で心がけていることはありますか?
なるべく柔らかい言葉を使うことと静かに話すことですね。あと、クライアントが本当に悩んでいることを見抜くために、話半分に聞くようにしています。もちろん最後までお話を聞くのですが、全てを真に受けないようにしているんです。「腰が痛い」と言われても「そうなんですね」と相槌は打ちますが、「この人は腰が痛い人だ」という認識はしないですね。
――そうなると、本人が自覚していない箇所を施術することも多いですよね。
ありますね。おそらくそれで旨味を感じている人もいるんじゃないかな(笑)。特に、身体均整法は「不調の原因はこの部分ではなくこっちなんですよ」という風に核心に触れるような施術をするのですが、僕は結構こだわる方なんです。しかし、世間的には「訴えたところと違うところを施術された」と不本意に感じる人の方が多いでしょうね。消費者庁のHPにもそのような苦情が掲載されていましたね…。いや、それは! と言い訳したかったですけど。
――一発で治るというよりも、回数を重ねなければ結果が見えてこないことの方が多いでしょうし、クライアントとすり合わせを上手くしなければ大変なことになりますよね。
間合いが難しいですね。この仕事は、クライアントの「主訴」が大事になるんです。体の訴えが本人の自覚と合致していれば話が早いですが、ズレていることがほとんどで…。その部分の間を取っていかなければいけませんからね。あまりにも自覚がない人には、こちらがある程度指定してあげないといけなくなるので、施術者とクライアントの関係も怪しくなってきますよね。だから、体を触る施術がメインではあるけれど、しっかり説明して納得してもらうということはとても大事なんです。
――「ほら、治ったでしょ?」というパフォーマンスをする先生も中にはいますか?
いるでしょうが、僕はそういうことは好きではありません。でも、職業倫理としてやってはいけないけれど、やった方が良いのかなという瞬間も実はあって…。クライアントの主体性の問題でもあるんです。クライアントの価値を共有して、その価値に添ったサービスを提供するのが医療倫理の中では最先端だけれど、何に価値を持っているか自分で分かっていない人もいるので、そういう人に対しては「治ったでしょ?」と図々しく言う方がいいのかなと思うこともあります。とはいえ、やっぱり施術者が何でも教えてあげる、指導してあげるというのは今の時代だと古いんじゃないかな。
――やはり昔に比べると今の方が難しいですか?
とてもそう思います。昔であれば、SNSもなく情報が少なかったのでカリスマにこうだと言われれば納得していたと思うんです。でも、今はたとえその場で納得したとしても、あとでネットなどで調べて疑ってしまうこともありますよね。疑心暗鬼になると、かえって治らなくなってしまうし。カリスマの方も今の時代だと滑りやすいんじゃないですか。僕はまだ先が長いですから、滑りたくないですね。
――主体性を持たず、何かに、誰かにすがりたいというお客さんもいますか?
いますね。主体性を持てとは言いませんが、主体性のない人は変なカリスマに引っ掛かって搾取されるでしょうね。僕はそういう人に対してはちょっと冷たいかもしれません。すがらせないから。
――面白いお話をありがとうございました!
それでは、小柳さんの1日のスケジュールを教えてください。
※スケジュールは日により変動あり。
表面的な訴えを鵜呑みにせず、クライアントが本当に抱えている体の不調や本心を見抜くことこそが身体均整師・小柳先生の流儀。けれども、本人の意図しない部分を施術するために、クライアントとのすり合わせや向き合い方に大変さも感じているようです。クライアント本人の主体性も関係してくるというお話も含め、施術スキルだけで成り立つ仕事ではないのですね。次回は、小柳さんがこの仕事で大事にしていることや、身体均整師に向いている性格などをお聞きします。
取材・文/佐藤咲稀(レ・キャトル)
撮影/岩田慶(fort)
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