お客さまを連れてくるのはSNSではなく、高い技術だけ。長門政和さんが考える一流美容師への道
超人気店airの店長を務め、独立後は毎月20人の新規枠の募集に60人が殺到。オープンから3ヵ月ですでに予約が取りにくいサロンとなっている「NOT」のオーナーが、長門政和さんです。前編では長門さんがどのような経験を通して、第一線で活躍できるようになったかを伺います。その華々しい経歴の裏にあったのは、30歳目前で味わった挫折とそれを取り戻すために努力を重ね、着実に技術を培った地道な日々でした。
今回お話を伺ったのは…
長門政和さん
銀座「NOT」代表。山野美容専門学校を卒業後、働き始めたサロンがairに統合される。air‐GINZA店長を経て独立。深い商品知識、プロ目線での分析、エッジの効いたフォトテクニックやリアルトレンドをつかむ感度の高さなど、多彩な実力で活躍するマルチプレイヤー。業界誌やメディア出演多数。活躍は海外にも広がり、現在依頼の絶えない講師として人気を集める。サロンワークではナチュラルスタイルを軸に、エレガントと上品さを加えた女性像を提案。
Instagram:@mnagato0724
技術への探求を後押ししてくれた、airのトップスタイリストたち
————airで店長にまでなれた理由を、ご自身はどうとらえていますか?
時間をかけて、技術を積み上げてきた結果なのかなと思っています。でもその努力を始めたのは、30歳手前の29歳の時でした。専門学校卒業後に働いていたサロンがairに買収され、airで働くトップスタイリストのなかに突然投げ込まれたのがその頃です。現在はSUN VALLEYの渋谷さん、朝日さんたちと自分を比べたときに、圧倒的な技術力、スピード、何をとっても自分はかなわないな、と。それまで働いていたサロンでも店長を任されていましたし、売上ではNo.1だったので、銀座でもNo.1だと信じていましたが、自分が井の中の蛙だったと気付いてしまったんです。
そこからはとにかく技術を身につけるために、時間を費やしました。休みの日には渋谷さん、朝日さんの撮影にかならずついていってましたし、営業時間前と後、2名のモデルさんを呼んで毎日練習していましたね。airに入らなければ、自分の技術力が足りないことにも気付けなかったので、環境というのは大きいなと思います。
————ほとんど休みなしですね。そこまでできた理由はなんでしょうか?
第一線で活躍するトップスタイリストたちの熱量に触れて、自分はこのままじゃ絶対にだめだと思いました。それまでさぼっていた分を取り戻したという感じですね。でもまったく辛いと思ったことはなく、朝と夜にモデルさんを呼んでカットの練習をしていたのも、仕事の前にゴルフの打ちっぱなしに行くみたいな感じで、リフレッシュになっていました(笑)。
第一線で活躍するために必要なのは、時間をかけた人だけが手にできる高い技術
————すごいですね…。そこまでできる人はなかなかいない気がします。
そうですね。自分もairでは店長をやりながら後輩を育てていたのでよくわかるのですが、そこまでやれる人って本当に一握りなんですよ。逆を言えば、そこまでやれればだれでも技術を身につけて、第一線で活躍するチャンスがあります。地道に技術を身につけていくのが、トップまで上り詰める一番の近道だと思うんです。
技術力を身につけるためにはどうしたらいいかをよく聞かれるんですが、とにかく時間をかけるしかないと思います。時間をかけて反復していくこと。それを繰り返すうちに技術が神経にしみこんでいくと思います。自然と手が動くようになるまで、努力するしかないですね。
————モチベーションはどうやって保っていたんですか?
モチベーションの維持は得意なんです(笑)。疲れたら休む、それだけです。でもだらだら休むことはないですね。1日休みを取るだけで、大抵切り替えられます。
————1日休んでもなかなか切り替えられないという人も多い気がします。それはなぜだと思いますか?
みんな常に「何かやらなきゃ」っていう思いが頭のなかにあるから、疲れるんだと思います。練習しなきゃ、SNS更新しなくちゃって。でもそう思うなら、1回本気でやってみたらいいんです。たとえば練習を本気で続けていたら絶対技術はついてくるので、お客さまに喜ばれるようになります。集客も必要なくなるし、かならずリピートしてくれる。すると、もっと喜んでもらいたいと思ってさらに練習するモチベーションもあがるはずです。もちろん、そういう状態になるにはある程度の時間はかかりますよ。みんな諦めるのがすごく早い気がします(笑)。
————諦めないことが大切だと?
自転車に乗りたいと思ったら、乗り方を調べるだけじゃなくて、何回も自転車に触ってなきゃいけないわけで。最初は転んだり、うまくいかないことも多いと思いますけど、それでも乗らないとうまくはなりません。何回もやっているうちに、バランスの取り方とか漕ぎ出しの大切さとかがだんだんわかってきて、何も考えずに乗れる日がやってきます。
「やらなきゃ」で止まっているのって、自転車を眺めているのと同じですから。そこで立ち止まって疲れるなら、まずは練習に本気を出してみるのがいいと思います。
お客さまの悩みを解決できれば、集客は必要ない
————毎月、予約が一瞬で埋まって、さらにキャンセル待ちが40名いらっしゃると聞きました。技術力を身につけていけば、どこにいっても困らないというわけですね。
ありがたいことに、今はそういう状態です。お客さまの悩みを解決できる技術力以外に、集客できる理由はないかなと思っています。僕のお客さまで新規でくる方というのは、40代~60代の方が多くて、ほかのサロンでは満足できなかった方がほとんど。このサロンは値段も高いですし、なかなか予約も取れない。それでも来るということは、長年抱えていた悩みがどこかにあるということです。その悩みの解決に、感動があるかどうかもリピートにつながる大切なポイントなのかなと思います。
接客ではお客さまに髪の悩みは聞かず、こちらから言い当てることが多いです。するとお客さまは、「どうしてわかったんですか?」と驚いてくださる。さらにその悩みを想像以上の形で解決して満足してもらいます。するとかならずリピートしてくださいますし、ほかの方にも紹介してくれます。
最近はSNSでの集客に力を入れる美容師も多く、もちろん発信も大切だとは思いますが、ただ目先の集客を頑張っても、技術力で満足してもらえなければリピートはありません。SNSの発信よりもまず、顧客満足につながる技術力を身につけることが先なのではないかと、僕は思っています。
————独立された理由は?
独立には前から興味があったんです。airに感謝しかないのですが、airを離れた自分がどこまでできるのか試してみたい気持ちがありました。ただ、銀座でサロンを構えるとなると何千万円という開業資金がかかり、リスクが高いと思っていたんです。そんなときにこのサロンが入っている「THE SALONS」の仕組みを知って、これなら自分にもできるかもしれないと思いました。
「THE SALONS」はシェアサロンや面貸しのような形ではなく、完全個室型の箱貸しサロンです。さらに敷金・礼金や設備導入費といった初期費用や、売上のバックフィーを支払う必要もありません。これならリスクが低い状態で、自分自身でビジネスを作り上げることができると思ったんです。
サロンだけでなく、ECや、商品開発、撮影など、美容師としてだけでなく、会社経営にも挑戦してみたいという思いがあり、独立してみたいと感じました。
美容師が第一線で活躍するための3つのポイント
長門さんが考える、美容師として第一線で活躍するためのポイントをまとめると、以下の3つでした。
1. 第一線で活躍する美容師になると覚悟を決め、時間をかけて技術を習得する
2. 目の前のことに本気で取り組み、「やらなくちゃ」状態から脱する
3. 目先の集客に時間を使うのではなく、お客さまの悩みを解決できる技術力を身につける
後編では、独立後も順調に美容師として活躍する長門さんの、次なる挑戦であるYouTubeについて伺います。YouTube登録開始から1年半で登録者数が4万人を超え、順調な滑り出しを切っている長門さん。その秘密は、年間30回は行っていたという国内外でセミナーによって培われた、「伝える力」でした。後編もお楽しみに!