メノポーズという新しい柱と共に、楽しく仕事を続けていきたい【エステサロン La Marna主宰 斉藤万奈さん】#2
美容業界で働く上で「独立」という目標を持つ人は多いはず。そんな方へ成功している先輩オーナーの経験談を全2回でお届けする本企画。
前回に続き、二子玉川にあるエステサロン「La Marna(ラマーナ)」の斉藤万奈さんにお話をお聞きします。
証券会社に役員秘書として10年勤めた後、アロマを学びながらジュリークショップでトリートメントの経験を積み、36歳で独立した斉藤さん。現在はエステサロンでの施術にくわえ、メノポーズカウンセラー(更年期専門カウンセラー)として婦人科やコスメキッチンで年齢による不調へのアドバイスなども行っています。
後編となる今回は、サロンの柱のひとつとなったメノポーズカウンセラーの資格についてと、独立を目指す方へのアドバイスをお聞きします。
お話を伺ったのは…
エステサロン「La Marna」主宰 斉藤万奈さん
証券会社で役員秘書として10年間勤務。退職後、ニールズヤードレメディーズのスクールにて英国IFAアロマセラピスト取得。ジュリークショップ青山のPR、スーパーバイザー、新宿伊勢丹BPQCジュリークショップ店長を経て、2002年にエステサロン「ラマーナ」をオープン。2014年より女性ライフクリニック新宿にてメノポーズカウンセリングを担当。
お客様にしっかり向き合うためにスタートしたメノポーズカウンセリング
――前編で、サロンの柱を持つことの大切さを教えていただきました。
20年のなかで「ラマーナ」の柱も変わりましたか?
「ビューティ」のエステと「リラクゼーション」のアロマという2本柱は変わりません。開業してすぐには、そこにもうひとつの柱として痩身を加えました。機械を入れたセルライトケアなども導入したり、その後はタラソテラピーもしましたね。でも痩身専門だったり、タラソスパだったり、もっと設備がいいところがあるんじゃないかと思ったら、私がここでする必要もないなと思って(笑)。
そこで、私がこのサロンでお客様にしっかり向き合ってやりたいことというのを、もう一度考え直しました。その結果、3本目の柱として2016年から「メノポーズカウンセリング」をスタートしたんです。
――更年期専門のカウンセリングを取り入れた理由は?
お客様には同世代の女性が多く、ずっと顧客として通って下さっている方ばかりなんですが、ある時期からいろんな悩みがすごく深刻になったんです。月に1回来てくださる方が、毎月どこかに不調を感じていて、病院に行ってもどこも悪くないと言われる…。そういう話をよく聞くようになりました。自分なりに原因を探っていくと、女性ホルモンや更年期に辿り着いたんです。
仲の良かったお客様が、50代になってからすごくネガティブになり、会社を辞めて地元に帰ってしまったことがありました。今思えば、あれは絶対に更年期だった。そのときに適切なアドバイスができていたら違っただろうなって。
知っているのと知らないのとでは、全く対応が変わってきてしまう。だから「これはちゃんと勉強して、アドバイスできるようにしよう」と思ったんです。
――メノポーズカウンセラーの資格は、経営面にもメリットはありましたか?
メリットというか嬉しかったことですが、メノポーズカウンセリングがきっかけでオリジナルの化粧品を作ることができました。
女性の美容や健康に関わって、一対一で深いお付き合いができる仕事ですし、メノポーズカウンセリングを通じて更年期世代の人たちが何に悩んでいるのか、どうしたいのかという声をたくさん聞いてきました。そんな方たちの助けになればと思って、昨年、オイル美容液を作りました。エステティシャンであり、アロマセラピストであり、メノポーズカウンセラーであるという、私の経験のすべてを詰め込んだものです。今までの自分の全ての経験をひとつの形にできたことは、すごく嬉しかったですね。
あとはカウンセリングやセミナーのお仕事が増えてきたというのはあります。ただ売上げにつながっているわけではないんですよね。だってサロンでお客様に施術するのが、一番経営は安定しますから。
――では、あまり売り上げのためという意識はない?
そうですね。メノポーズについて知るのって人生においてすごく重要だから、本当にみんなに知って欲しいっていう気持ち。婦人科に行っても教えてくれないし相談できる場所がない。でも私のような医療従事者ではない立場だからこそできるアドバイスがあると思っています。
だから資格を持ったことでメノポーズについて話す機会が圧倒的に増えたので、それはよかったことですね。サロンだけでなく、いろんな人に出会えて刺激を受けることが多くなりました。
お金は後からついてくると私は思っているんです。お金儲けしようと思うと、お客さんって「物を売りつけられる」って感じますから。そうなると悩みも言わなくなるし、相談もしなくなるんです。でもそこが聞けないと、関係づくりはできません。だから売り上げを考える前に、お客様のことを考えること。この仕事では、聞く力というか、洞察力や感じる力などが、すごく重要だなと思います。
ひとりで長くエステサロンを続けていくために
――30代後半で独立してよかったことはありますか?
私は企業の中で社会人としての基礎をしっかり教わったので、その経験はすごくプラスになりました。お客様は働いている女性がほとんど。社会人としてのいろんな悩みやストレスを話されるときに、「そうだよね、私もそうだった」と共感できるのは、社会人経験があったからだと思います。
あと年齢は関係ありませんが、ストレスなく仕事ができるというのは、独立してよかったことのひとつ。時間も自由だし、やりたいことをやっているので、本当に変なストレスはありません。今はスタッフも雇っていないので、すごく身軽に好きなことができていて幸せだなと思います。
――スタッフを雇わなくなったのはなぜですか?
オープンから10年近く、2人のスタッフが勤めてくれました。すごく頑張ってくれて顧客もいましたが、結婚と留学で同じタイミングで退職することになって。全部自分でやらなければいけない状況に焦って新しいスタッフを採用したのですが、やっぱり最初はどうしても私が2人分働く感じになってしまったんですね。それがすごくストレスに感じて。
そこで改めて、自分はどういう風に働いていきたいのか考えました。サロンを大きくしたいとか、ずっと存続させたいわけではない。だったら自分ひとりで、自分がしたいことを自分のタイミングでやろうと腹をくくったんです。
――経営者兼エステティシャンとして大切にしていることは?
無理はしない。あと、いつも平常心で、冷静でいることです。自分のテンションがいつも同じでいることで、お客様は安心してきてくださると思っています。そういう方たちがいてくださるから、自分自身も楽しく20年やって来られたんだと思います。
私の場合は無理をしてまでの利益最優先ではなく、自分のペースを守りながら長くやっていくことが目的。そうやっていこうと決めているんです。でもひとりで独立してやっていこうという女性は、私のように自分で一生続けられるようにと思っている方が多いのではないでしょうか。そういう方にとって、無理なくできるというのは大切なことだと思います。
美容に携わる多くの人に女性ホルモンについて知って欲しい
――今後の目標やビジョンを教えてください。
私はスタッフを育てていないので、私の考えをどこにも継承できていないんです。だから、これからサロンを持ちたい方や今エステティシャンやセラピストとして働いている方たちに、長続きするサロンの作り方を伝えていきたいなと思っています。また、メノポーズのことも、もっと広めていきたいです。とくに美容や健康に関わる職種の人はみんな、女性ホルモンのことを知っておくべきだと思うし、そうなったら困っている人が断然減るだろうなと思っています。
――最後に、独立を目指す人にアドバイスをお願いします。
サロンで働いているうちに、仕事をしながらいつも「自分が経営者だったら」という目線で、いろんなことを見るといいと思います。技術者と経営者では違う目線が必要になるので、両方の目線があるんだということを頭に置いておくこと。
働いていると自分の権利を主張したくなったり、技術ばかり一生懸命しがちなんです。でも、もし自分のサロンなら、それだけじゃダメじゃないですか。すべての経験が貴重な財産になって、その経験があるからこそ自分が経営者になったときに活かせる。その目線を持てないなら、スタッフとして働いていたほうが楽です。
独立を目指すあなたへ
独立開業で大切なのは、自分の強みを客観的に見て、どんなサロンを作っていきたいのか具体的に描くこと。その土台がしっかりあるかどうかは、長く続けていきたいなら、とても重要なことです。
また経営者になって一番大変だと思うのは、全部自分が決断していかなくちゃてはいけないことでした。その一つの決断が全部つながっていくと思うと悩ましい。「よし!」っと勢いをつけて決断するには、「自分を信じる」ことが必要です。
自分を信じるためには、しっかりと自分で情報を得ることがとても重要。自分が体験して、「これは本当に私のお客様に必要かな」と冷静に考えれば、ブレずに決断し続けられるのではないかと思います。
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顧客のライフスタイルに合わせた資格取得やメニュー設定は、お客様に寄り添う「かかりつけサロン」には欠かせないもの。そうして始めたメノポーズカウンセリングが、開業20年という現在も斉藤さんの活動の幅を広げています。
「自分が楽しいと思えることをしたいだけなんです」という斉藤さんのマインドは、1人でサロンを開こうと考えている方にとって、とても参考になるのではないかと感じました。
取材・文:山本二季
撮影:高嶋佳代