ハサミを置くことはしたくない。生涯クリエイターでいられるサロン経営を【STRAMA代表 豊田永秀さん】#2

2022年3月に新しく生まれ変わった「STRAMA」。代表の豊田永秀さんは、創業当初から10年間在籍したDaBを巣立ち、「STRAMA」を立ち上げました。オープン直後はつまずいたものの、代官山と表参道の2店舗を展開するほどの人気店に育てます。数々の壁に直面してきたそうですが、「これまでお金に困るという概念はなかった」と豊田さんは言います。その言葉の本当の意味とは?

後編では、お客様がいなかったオープン当初のお話、スタッフの離職に悔し涙を流したこと、そして経営者としてのあり方について語っていただきます。

「お客様ゼロ」を経験し、お客様に向き合うということを改めて知った

「上質なものを知っていることはクリエイターとして大切。でも正直、高級料理ほど自分に似合わないものはないです。高級寿司より回転寿司が好き(笑)」と話す豊田さん

――代官山に55坪2フロアを借りてスタートしたとのことですが、スタッフは何人体制だったのでしょうか?

僕一人です。もともと5人くらいで一緒にお店をやるはずが、白紙になっちゃったので。

だだっ広い店内で「……一人か」って思いましたね(笑)。DaBの先輩たちにも「この広さで?」と驚かれました

オープンの一週間前に「一緒に働きたい」と後輩のアシスタントが僕のところに来てくれたおかげで、従業員は二人に。

――オープン当初はいかがでしたか?

お客様はゼロ。お祝いの花だけが届きました(笑)。

というのも、DaBはお客様から個人情報をいただかない方針だったし、自分が独立する話をお客様にもしてはいけないと言われていたので。だから、しばらくの間は「豊田さんが突然いなくなった」とお客様たちに騒がれていたみたいです(笑)。

「このままサロンが潰れたら借金どうするんですか?」と聞いてくる後輩に、「宅配業者で働いて返すから大丈夫」なんて笑っていましたが、家に帰ると不安で手が震えていました。

でも今思うと、無知だったけど、そのときの自分が一番かっこ良かったですね。やると決めたことは絶対にやる。何の確証もないのに、自分の信念だけを頼りに生きていました。

――どのように軌道に乗せたのでしょうか?

オープン当初、2フロアあるうちの1フロアを友人たちにギャラリーとして貸し出していたところ、そこにご来場された方が「かっこ良い美容室ですね」と予約を取っていくようになったんです。そこから新規客がたくさん増えていきましたね。

あるいは掲示板に「豊田さん知りませんか?」と書き込みをしてまで僕を探そうとしてくれたお客様や、街中でばったり再会して「やっと見つけた」と涙を流してくれたお客様もいたんです。

そんなお客様には愛情も沸きますよね。それまでは単なる「お客様」としてしか見ていませんでしたが、心からお客様と向き合うということを改めて学ぶことができました。良い経験をさせてもらいましたね

ちなみに、「そんなに探されている美容師ってどんな人だ?」「4000万の借金をして、代官山の55坪で一人でサロンをはじめた勇者がいる」と取材が来たことも。

恐怖政治によって、自分がスタッフを裏切らせてしまった

リニューアルした店内。施術フロアを2ブロック設け、席数を増設

――人気店となった後にも壁はありましたか?

壁しかないですよ(笑)。

ただね、「お金に困る」ということは正直一回もなかったんです。景気が悪化すればすぐに外車からポンコツ車に乗り換え、売上がガクンと落ちれば、広い部屋からすぐにワンルームに引っ越して、笑顔で金策していましたから。例えば、財布を落としても落ち込まず「新しい財布何買おうかな」とワクワクするタイプなんです(笑)。

当時のSTRAMAの規模だったら、僕自身が生活レベルを変えやすい人間だったし、お金に困ったときも対応できる力がありました。でも人を見る目とか、人を育てる力が自分には足りていなかったんです。それが一番の失敗かな

――スタッフさんの退職でしょうか。

恥を偲んで話しますが…最も自分を責めたのは、売れっ子たちが親交のあった異業種の知り合いに引き抜かれたとき。あとに聞いた話だと、実はうちを退職する数ヶ月前から相手の会社で事業をはじめていたらしく、内緒で繋がっていたようなんです。

とても優秀な子たちで、スタッフたちからの人望もあり、まさか裏切るわけがないと思っていました。なので、かなり堪えましたね。僕が凹んでいると、噂を聞きつけた仲間たちが連日連夜飲みに連れ出してくれて、その仲間の一人だったVANの前で泣いたこともありました(笑)。

けどね、スタッフに「裏切られた」のではなく、僕が「裏切らせた」ということに気づいたんですよ

――裏切らせた、というのは?

自分の言動・行動、その積み重ねがそうさせたんです。

自分自身が社長としても指導者としても未熟だったにも関わらず、スタッフたちを毎日厳しく指導し、ひどいときは朝明るくなるまで説教をしていました。技術・センス・人脈…美容師として必要なこと全てを教えてやるから文句言うな、みたいな超ワンマンスタンスで。今だとパワハラだと訴えられそうですが、その当時はスター美容師に育てる方法が他にわからなかったんです。

そんな中で、その後輩たちが成果を出すと、僕も密かに「よっしゃ!」と喜んでいましたが、スタッフたちからしたらとんだ恐怖政治だったと思います(笑)。

その後色々と経験し、勉強し、考えて、自分自身も成長することができたかと思います。

成長するきっかけとなった事柄に、数年前に共同経営をすることになった高橋英樹の存在もあります。彼からはとてもたくさんのことを学ばせてもらいました。本当にいつも感謝しています。

――現在はどんな風にスタッフさんと接しているのですか?

恐怖政治はもう終わりました。「俺が全部教えてやる」というスタンスではなく、スタッフに聞かれたら教えるようにしています。もちろん笑顔でね。「いつもご飯をご馳走してくれるおじさん」みたいな立ち位置でスタッフと接しています(笑)。

経営者としてまだまだ学んでいる最中ですが、今が一番好調かもしれませんね。退職するスタッフは少なく、コロナ禍にも関わらず、去年に過去最高の売上を出しました。

お金儲けに縛られることのないサロン展開をしていきたい

スタッフさんにこっそり「豊田さんってどんな人ですか?」と聞いてみると、「いつも笑わせてくるんですよ(笑)」とのこと

――このタイミングでのリニューアルにはどんな理由があったのでしょうか?

コロナ禍による落ち込みが回復することは目に見えていたし、スタッフたちも成長してきていたので、彼らのために一刻も早く席数を増やしたくて。そして、もう一つがリブランディングです。「男性客が多い」「モード」という、いつのまにかSTRAMAに定着してしまったイメージをリセットしたかったという気持ちが強くあったんです。

移転という選択肢もありましたが、「お客様やスタッフ、みんなにとって必要なことって何だろう?」と考えたとき、スタッフがもっと上手くなること、お客様が喜ぶヘアデザインをもっとつくること、席数を増やして予約を取りやすくすることだと思ったんです。

店舗を1ヶ月間閉め、サロンワークは別の場所をお借りして週2日のみ。残りの日はトレーニングや勉強会、講習などに使って、短期集中でスタッフの技術力向上をはかりました。結果的にスタッフの技術面の成長と意識の成長に繋がりました。

ホテルを訪れたかのようなラグジュアリーな雰囲気の店内

――多店舗展開はあまり視野に入れていないのでしょうか?

ビジネスマンじゃないんです、僕。お金を増やすことがモチベーションにならないし、多くの店舗を抱えることに美徳を感じるタイプではないみたいです。

やっぱり僕はクリエイターなので、自分が働いていない場所やスタッフにはなかなか情熱を注げない。目に見えないものにエネルギーを注ぐことが難しいんです。

もし僕が多店舗展開をすると決めていたら、必ずハサミを置いています。経営スキルを僕はそんなに持ち合わせていないので、2足の草鞋を履くのではなく、経営一本にする必要があるから。でも、僕はそれはしたくない。だから、自分の手の届く範囲で楽しめれば良いかなって思っているけど、スタッフが多店舗展開を望むならハサミを置く覚悟はできています(笑)。

――スタッフさんの独立に関してはどのようにお考えですか?

大抵の経営者はスタッフの独立を嫌がりますよね。なぜなら売上が落ちるから。自分も昔はそうでした。全員をスター美容師にしたかったので、辞めたいと言われても「それはただの自暴自棄だ」と言ってスタッフの気持ちを抑えつけることもありました。

けれど、売上を理由にスタッフの夢を奪うのは理不尽だということに気づいてからは、辞めたいというスタッフを止めることはしなくなりました。今は、売上ではなく利益を見るようにしています

スタッフが退社よりもSTRAMAで活躍することを望んでいるのであれば、もちろん最大限に力を貸すし、そのスタッフのためにも店舗出店も考えますけどね。

――スタッフ成長後のポストを柔軟に用意できる、というところが素敵ですね。

売上は置いといて、チャンスの数でいったら、スタッフ100人のサロンより10人のサロンの方が10倍もある。STRAMAはそういうサロンです。ある意味、麦わら海賊団ですね(笑)。

豊田さんの成功の秘訣

1.他人のせいにせず、自分の中に原因を探す

2.スタッフが萎縮しないように笑顔で接する

3.お金儲けを第一目的としないサロン経営をする

取材・文/佐藤咲稀(レ・キャトル)
撮影/喜多二三雄

Salon Data

STRAMA
住所:東京都港区南青山4-18-10 B1F
TEL:03-6804-5388
URL:http://strama.jp/

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