スタッフの技術差をつけない。徹底的に美容師の働きやすさにこだわり、離職率の低さを実現「白髪染め専門店 Age」
2018年に三鷹で開業し、その後4年で5店舗を構えるまでになった「白髪染め専門店 Age」。お客さまの人気を集めるだけでなく、美容師の働きやすさにとことんこだわった設計になっており、39名のスタッフを抱えながら、これまでに辞めたのはひとりのみ。圧倒的な離職率の低さを誇ります。
前編では、働きやすさをどう実現しているかに迫ります。ポイントとなっていたのは、スタッフだれもが同一のサービスを提供できるようにしている点。あえて差別化をさせないことで、戦力となるまでの下積み期間が短くなるのと、雇用のハードルが下がって、店舗拡大につながっているといいます。
今回お話を伺ったのは…
今井 基成さん
3arrows株式会社 代表取締役
父は美容院を経営、母も美容師を務める一家の長男として生まれる。大学で経営を学んだのち、コンサルティング会社に就職。その後、美容業界の労働環境を変えることをミッションに、美容師免許取得と経営の勉強を続け、2018年に「ヘアケア&ヘアカラー専門店 Age 三鷹南口店」をオープン。現在では白髪染めにターゲットをしぼり、都内に5店舗を展開している。
修業期間が短く、だれでも同一の技術を提供できる「白髪染め専門店」で、美容師の働き方改善に挑む
――白髪染め&ヘアカラー専門サロンを経営されているとのことですが、なぜカラー専門店を開こうと思われたのでしょうか?
カラー専門店であれば、美容師が働きやすい環境を整えることができると思ったんです。まず、美容師はスタイリストになるまでに2~4年ほど時間がかかります。でもカラー専門店であれば、ゼロからのスタートでも3ヶ月で既存のお客さま、半年もあれば新規のお客さまに入れるようになります。また、ママさんなど以前美容師として働いていたけれどやめてしまってブランクのある人でも、シャンプーとカラーは最初に取得している技術なので、このサロンに入社して1、2週間もあれば即戦力になることができると考えました。
――1店舗目はカラー専門店でしたが、2店舗目以降は白髪染めに限定されていますね。なぜでしょうか?
先ほどもお話したように私は美容業界の課題を解決したいので、事業をある程度拡大したいと思っていました。1店舗や2店舗で成功しても美容業界の課題を解決したとは言えないと思ったので。そこで、事業拡大をしやすい形を模索してカラー専門店に注目したのですが、1店舗目を経ておしゃれ染めでは難しいと判断をしました。
おしゃれ染めというのは、やろうと思えばどこまでも追求できる技術なんです。難易度の高いカラー技術も多いですし、流行にかなり左右されます。そうするとスタッフ間で技術力の差がどうしても出てしまうんです。高い技術のほうにあわせることになれば、当然一人前になるのに時間もかかってしまいます。店舗展開していくにはこの形では厳しいというのが正直なところでした。
白髪染めは流行がゆっくりなのと、そこまで高い技術が求められるものではないので、スタッフに差が出にくいと気付き、2店舗目以降は白髪染めに特化したサロンに方向転換したんです。
物販はノーセールスで売る。お客さまにスタッフの差を感じさせないように
――スタッフ間の技術の差をあえてつけないようにしているわけですね。
そうです。うちのお店ではスタッフに物販のノルマも課しておらず、基本的にはノーセールスです。これはスタッフの負担削減の意味もありますが、お客さまからみたときに、あのスタッフが良かった、悪かったという印象をなくしたいからなんです。みんなが同じサービスを提供できるというスタンスを大切にしています。
――それでは物販はしてないんですか?
いえ、セルフブローのコーナーにヘアオイルやドライヤーを置いて、お客さまそれぞれにお試ししてもらい、いいものがあれば買ってもらう形です。スタッフには商品はすすめなくていいので、説明だけはできるようにと伝えています。このコーナーには高価なオイルや、ドライヤーなどが置いてあり、販売商品を自由に試せるということがサービスとしても好評ですし、購入してくれるお客様も多いです。売れる仕組みをきちんと組み立てれば、セールスがなくても成立するということがよくわかりました。
絶対に譲れなかった自動洗髪機の導入。働きやすさをとことん追求して離職率の低さを実現
――ほかにも、自動洗髪機を使ったオートシャンプーを導入されているそうですね。お客さまの反応はいかがでしたか?
最初は戸惑われる方も多かったですが、丁寧に説明し、何度か通っているうちにみなさん慣れてくださいました。手荒れや腰痛の軽減は絶対にクリアしたい課題だったので、導入しないという選択肢は自分のなかにはなかったんです。ハンドシャンプーとは違い、頭の上下をしなくていいので、今ではオートシャンプーの方がいいという方もいます。
――なるほど。ほかにも美容師の働き方改善のために行っていることはありますか?
はい、いくつかあります。まずは1日に担当する人数が少ないことで、余裕を持って働けるという点です。一般的なカラー専門店が15分にひとりの入客のところを、うちでは30分にひとりにしています。これはお客さまにとってのメリットにもなっていて、ほかのカラー専門店ですとやはり流れ作業的になってしまうお店が多いんです。うちのサロンはご来店した方にゆったり過ごしてもらうことができ、他店との差別化にもなっていますね。
あとは週30時間の勤務でも正社員になれる、短時間正社員制度を導入しています。福利厚生がまだまだ整っていない会社が多いなか、短い勤務時間でも正社員になれるのはメリットがとても大きいのではないかと思いますね。子育て中の方などにとても好評です。
――実際これらのことを導入して、どのような効果がありましたか?
離職率が極端に低いです。試用期間にやめてしまう方は何人かいましたが、正式採用後に辞めたのはひとりだけ。最初はふたりからのスタートですが、今は44人のスタッフが働いてくれています。ほかのカラー専門店から転職してきたスタッフに聞くと、施術に入る回数が少ないのと、オートシャンプーなどにより体がとても楽になったということでした。
低い離職率を実現した、「白髪染め専門店 Age」の3つの働きやすさ
低い離職率を実現した、「白髪染め専門店 Age」の働きやすさをまとめると以下の3つでした。
1.カラーに特化したお店にすることで、活躍できるまでの時間が短くなり、ブランクのあるスタッフも働きやすくなった
2.予約時間を30分にひとりにし、ゆとりをもって施術できるようにした
3.自動洗髪機を導入し、手荒れや腰痛に悩まなくてすむ環境を整えた
開業して4年で5店舗を展開するまでになった「白髪染め専門店 Age」。後編ではお客さまに選ばれる理由に迫ります。オーガニックにこだわった商材を使いながらも、手軽な価格を実現。短い周期でメンテナンスをしっかりしたい人に好評とのことです。さらに、白髪染めに特化させたことで、若い人が集まる美容院には行きづらい人が、通いやすさを感じているといいます。後編もお楽しみに!