SNS集客をしないフリーランス美容師。40代からの生存戦略 金野拓実さん
フリーランス美容師として原宿・表参道で活躍する金野拓実さん。金野さんはリピート率が高く、常に売上をキープできているといいます。
前編では高いリピート率をどう実現しているかを伺いました。見えてきたのは、お客さまのなりたい姿を明確にする丁寧なカウンセリング術。お客さまの話す単語を聞き逃さず、本当になりたい姿をつかみ、満足度をあげることに成功しているようです。
後編では新規集客をしていないという金野さんに、その理由や考え方を詳しく伺います。その行動の裏にあったのは、今目の前にいるお客さまを大切にしたいという思いと、苦手なことに手を伸ばして消耗するより、得意な分野を伸ばすという生存戦略でした。また数年後に迫っている40代に向けて、持続可能な方法で売上維持をしようと、金野さんが考えているさまざまな可能性についてもお話を伺いました。
今回、お話を伺ったのは…
金野拓実さん
美容師
北海道出身。一度は大学に入学するも、雑誌「CHOKi CHOKi」（内外出版社。現在は廃刊）に掲載される美容室に憧れを抱き、美容専門学校へ入学。その後、原宿、表参道という場所にこだわって、美容師としてのキャリアを積み、2018年にフリーランスに転向。丁寧なカウンセリングと施術で人気を集めている。
youtube：コンノタクミ【3分解説美容師】
苦手な新規集客ではなく、目の前のお客さまに時間を使うことを決意
紆余曲折を経て、今は既存のお客さまに時間を使うようになったという金野さん
――新規集客をしていないということですが、なぜしなくなったのか詳しく伺えますか。
以前新規集客をしていたときは、たとえばひとつの技術に特化させて、SNSで打ち出すということをしていました。これは集客のスタートとしてはすごくいいんですよね。刺さりやすくなり、新規のお客さまにつながりやすいと思います。でもパーマはうちでやるけど、カットはほかの場所でやるというようなお客さまもなかにはいるんです。僕はフリーランスとしてひとりで施術をしているので、担当できるお客さまの上限もありますし、毎月何人のお客さまがいれば売上がこれくらいになる、というラインも見えています。その席を自分と親和性が高くて、信頼関係が築きやすいお客さまで埋めたいと思っているんです。
なのでSNSというマスに投げるより、 もうちょっと自分に深く刺さったお客さまに対して時間を使っていきたいと思いました。
サロン勤めだったら、自分とお客さまとの親和性なんて言っていられないと思いますし、アシスタントについてもらって200万、300万を目指していくなら、新規集客も大切だと思います。でも僕はこれ以上売上を大きくあげることはあまり考えていないですし、独立願望もないので。
――最近、YouTubeを開設されたそうですが、それではこれも新規集客のためではないということなんですね。
はい。既存のお客さまに見ていただくためのコンテンツです。サロンに来ていただいたときに髪についていろいろ説明しても、みなさんよく忘れてしまうので（笑）。思い出せるように美容に関する知識を3分でご紹介することをしています。
SNSもあまり更新することがなくなり、お客さまの施術後の写真を撮ることもやめてしまいました。
ひとりひとりのお客さまとの関係をより良くするために、施術後の撮影をやめる
金野さんが現在働くサロン。施術後の撮影は行わず、お客さまとの今の時間を大切にしているそう
――施術後のお写真は撮られていないんですね。
あの撮影は、目の前のお客さまとの1対1の時間を、ほかのお客さまのために使っているということになると思うんです。自分のお客さまの性質的にも、あまり撮られたくない人が多そうだということもあって、ひとりのお客さまを捨てて、新規の方が来てくれる可能性にかけるぐらいだったら、僕はそのひとりのお客さまとの関係性を良い形で保てたほうがいいと思っているので。美容室は、次にお客さまが来てくれるかどうかが大事なので、その流れのなかにお客さまの写真を撮る時間は、いらないよなと思ったんです。
美容室に一回行くのって、高いレストランに一回行くのにも匹敵するくらい、結構な金額ですよね。もし僕が好きなレストランに行く度に毎回、「写真撮ってもいいですか」って言われたらあんまり行きたくなくなると思うんですよね（笑）。
――お話伺っていると、苦手なことはやらないという方向にシフトしているようですね。
あと数年後に迫った40代以降、どう働いていくかを見据えはじめて、ここ1、2年でそうなっていきましたね。できないことはできないと認めて、人にお願いするほうがいいなと思って。お客さまにご紹介をお願いすると、みなさん優しいので、周りの方に伝えてくれるんです。本当にありがたいなと思っています。
自分のできることと、できないもの両方が見えてきて、昔なりたかったバリバリの美容師像にはなれませんでしたけど、今の自分ができることは確実にあると思えるようになってきました。いろんなものに媚びなくなりましたし、自信がなくなったり、落ち込んだり、人と比べることがなくなりましたね。
コロナ禍で自分と向き合い、自分の強みに気が付いて
今後もお客さまとの時間を大切にしていきたいと、金野さん
――人と比べなくなったということですが、具体的なきっかけが何かあったのでしょうか？
コロナ禍で自分と向き合う時間が増えて、ビジネスのことや自己啓発的なことを学ぶことが増えたんです。それで、自分のスキルを分解するというワークをやってみたことがあって。前編でお話したカウンセリングやコミュニケーションの話も、このときに自分の強みだということに気がつきました。できることの方に目が向くようになって、自分のことも受け入れやすくなりましたし、精神衛生的にもいい状態が保てるようになったと思います。
――最後に今後の目標を教えてください。
今いるお客さまと長い付き合いをしていくために、今後も時間を使っていきたいと思っています。YouTubeを今やっていますけど、今後やっていきたいと思っているのは、生配信をしながら、美容のお悩み1000本ノックのような形でひたすらお悩みに回答し続ける配信です。美容師に聞きたいけど聞けないことって意外とあると思っていて、僕はゲームが好きなので、ゲームの配信をしながらひたすら答えていくというような形を考えています。
そして最終的にはバーチャルYouTuberみたいな形にしたいと思っているんです。そうすれば僕がいくら歳をとって、どんなに頭がぼさぼさで、ハゲ散らかしても、アバターは一向に退化せず活動ができると思うので。そうやってコンテンツも充実させながら、自分に会いたい人、切ってもらいたい人はお店に来るという形を作っていきたいですね。年齢を重ねても売上を落とさないように、お客さまに喜んでもらえるように、準備をしていこうと思っています。
金野さんが考える、今後の成長戦略３つ
1.新規顧客の集客より、既存のお客さまの満足度にこだわる
2.自分のできることに力を入れ、できないことは人に助けてもらう
3.コミュニケーション能力を武器に、持続可能なコンテンツを提供する
今、目の前にいる既存のお客さまを何より大切にするという金野さんの考え方。ついつい周りと比べ、新しいお客さま、多くのお客さまと考えてしまいがちですが、自分のできることに集中していくことは、とても重要なことだと改めて気付かされました。美容師としてもっと活躍したい方はぜひ参考にしてみてくださいね。
