島暮らしを活かした「美容師リゾートバイト」。五島で働き方の多様化に挑む【hair salon LeonCovo オーナー 吉田海人さん】#2
ワーケーションや地方移住が盛り上がりを見せる近年。「住みたい地域」として上位にランクインする長崎県五島列島で、「美容師リゾートバイト」を打ち出す美容室があります。オーナーの吉田海人さんは一席サロンを皮切りに、様々なサロン&サービスを展開してきた方ですが、美容師の働き方にも疑問を抱き続け、より生産性を高めるシステムを考案してきたようです。
後編では、千葉から移住してきたスタッフの話、「リゾートバイト」が生まれた経緯と狙い、吉田さんが目指す雇用体制についてお聞きします。
教えていただいたのは…
「株式会社Beautrip」代表、兼「hair salon LeonCovo」オーナー 吉田海人さん
福岡の美容室に10年間勤めた後、長崎県五島列島に帰郷。まもなくして個人サロン「hair salon LeonCovo」をオープン。その後、脱毛サロン、アイラッシュサロン、訪問美容サービスを立ち上げ、2022年に美容室2号店を佐賀にオープン。現在は経営に専念し、社員の働き方の改善と多様化に尽力している。
「美容師の仕事も、それ以外の仕事もしたい」と移住してきたスタッフも
――吉田さんが思う五島列島の魅力とは?
「島暮らし」というと生活に不便というイメージがあるけれど、五島列島では東京から来る人でも大きく生活が変わらない程度の「島暮らし」ができることが魅力だと思うんです。ドラッグストアもスーパーもコンビニもあるので、自給自足の生活ではありません。映画館がなかったりはしますが、飛行機を使えば福岡まで30分で行けますし。日常生活における不便はなく、そのバランスが調度良いのかなと。
「島暮らし」に憧れて移住にチャレンジしても予想以上に大変さを感じ、結局もといた地域に戻ってしまう事例もあるようですが、五島列島の場合は移住者の定着率が高いんですよ。
――五島列島は年々、移住先として注目が集まっていますよね。
ここ数年で移住者数が加速していて、3〜4年連続で社会人口が増えています。五島に住んでいる僕の肌感としても移住者の方はすごく多いなと感じますし、地元の人たちも受け入れ体制ができている印象です。
「hair salon LeonCovo」で働いている高橋という男性スタッフも実は千葉から移住して来た人なんです。
――その方が移住して来られた経緯をぜひ教えていただきたいです。
彼は千葉の美容室で働いていたのですが、もっと時間を自由に使いたいということでフリーランスに転向したんですね。でも、結局そこまで変わらなかったと。いったん美容師の仕事を離れ、五島に移住しようかと考え、「全く違う仕事をしてみたい、でも時々美容師の仕事もやりたくなるかもしれない」と五島の移住相談窓口に相談したらしいんです。
その移住相談の担当者さんがうちのお客様で、「こういう人がいるんだけど、ここのサロンを紹介しても良いですか?」と打診があったんです。それで彼に初めて会い、「うちは美容室もやっているし、今後色々な事業も展開していく予定だから、一緒に働きませんか?」とお誘いし、半年後に移住してもらったという経緯です。
千葉でもマンツーマンで働いていたみたいですが、うちはフレックス制なので、「五島に来てからの方が自由度が高くなった」と彼は言ってくれています。こっちでの暮らしも楽しんでいるようで、趣味でYouTubeをやっているのですが、よく外で遊んでいる様子が動画に上がっていますよ。
――高橋さんには今後、色々なポストを任せていくのでしょうか?
今は100%美容師の仕事をしてもらっているけど、僕は今後どんどん事業を大きくしていくつもりなので、彼には他にも活躍の場を用意したいなと思っています。そうなると、僕もそうだったように、どこかのタイミングでハサミを置く必要が出てくるかもしれないと彼に話していますが、本人は好奇心旺盛なので「むしろぜひ!」と意気込んでいますよ。
場所に縛られがちな美容師。その課題を「長期リゾートバイト」で打破
――移住スカウトメディアで「美容師リゾートバイト」というプロジェクトを打ち出しているようですが、ユニークな切り口ですね。
現在、五島列島には移住だけでなく、ワーケーションで来る人や多拠点生活をしている人も多く見かけます。
一方、美容師は「場所」に縛られる職業。基本的にサロンがなければ仕事ができないし、フリーランスになったとしても集客の都合で同じエリアで働かざるを得ない。その課題をどうにか面白い形で改善できないかと思ったんです。
五島って夏はレジャーが盛んで楽しい時期なんですね。そこで、「夏季限定で五島に働きに来てもらうのはどうか」とひらめいて。美容師は休んだ分だけ売上が下がるため、旅行するにも2〜3泊が限界。でも、長期の「リゾートバイト」なら2〜3ヶ月滞在できるし、あわよくばそのまま住んでもらえるかも、と考えたら面白そうだなって。
本来は集客に数ヶ月を要しますが、うちの場合は集客を完全に会社がやるため、入客の心配もないわけですから。
――具体的にはどんな勤務スタイルが可能なのでしょうか?
アルバイトのため時給1000円でお願いしていて、勤務日数や時間などは自由に決めてOK。その方の勤務時間に合わせて僕らが予約を入れていく、というシステムです。
五島の夏を思い切り楽しんでもらいたいので、例えば「8月中は午後から働き、午前中は遊ぶ」というのもアリ。ここでの生活を楽しんでもらうことと、美容師としての新しい働き方、その両方にチャレンジしたかったんです。
住居や車の手配は少し大変かもしれませんが、僕らも可能なかぎりサポートしています。
――実際、同プロジェクトで五島にやって来た美容師さんはいますか?
今、一人の方に働いていただいていますが、当初は8月半ばから1ヶ月弱くらいの滞在予定だったところを、少し期間を伸ばして10月くらいまでいてくれることになりました。人手も売上も増え、会社としてももちろんプラスになっているのでありがたいです。
他に3〜4件の応募が来ているのですが、お店のキャパ的にスタッフ二人での営業が限界なので、今は待機してもらっているところです。新規受付もいったん締め切っている状態です。
固定枠ではなく、その人に合った働き方や環境を用意していきたい
――今後の展望はありますか?
美容系は特にそうだと思いますが、「東京から離れると劣っている」と思われがち。地方で美容師をしていると、「都会でダメだったから田舎に来たんじゃないか」とか「東京から来た美容師さんだからすごい上手な気がする」という偏見があるんですよね。確かに、東京から来た美容師は過酷な環境で働いていたから技術力に差がある場合もあると思います。ですが、五島でサロンをはじめた僕としては、地方から全国にサロンを展開していくことにロマンを感じるんです。田舎から都会に侵略していく、みたいな(笑)。
今後、多店舗展開していくにしても、はじめのうちは地方でスタートした方が働く側にとっても良いのかなと。都会は家賃が高いため、その分スタッフにたくさん働いてもらわなければならず、でも還元できるお給料は少なくなってしまう。地方ならあらゆるコストが低いので、リピートを安定させられれば運営していけるはず。そういう形をたくさんつくっていきたいなと。
今後は美容室とアイラッシュサロンの2軸で展開していく予定です。佐賀の美容室も今求人をかけているし、アイラッシュサロンはフランチャイズでスピード感を持ってどんどん進めていくのでこれから積極的に人手を集めていきます。
――働き方の多様性にチャレンジしている吉田さん、今後の展開を楽しみにしています。
僕たちには「こういう人に来てもらいたい」という理想像はありません。「ゆったり働きたい」という人はもちろんだけど、「ゆくゆくは独立したい。そのためにガツガツ働きたい」「管理職についてみたい」など、あらゆるタイプの方と知り合いたいと思っています。僕は、「この人にはこの働き方が合っている」というパーソナルな観点から働き方と環境を用意できる経営者でありたいですね。
「美容師の新しい働き方」のために吉田さんが取り組んでいること
1.マンツーマン且つフレックス制にし、勤務時間を自由に調整
2.多様なビジネスを展開し、「美容師」以外の選択肢を用意
3.「長期リゾートバイト」として、美容師版ワーケーションを実施
取材・文/佐藤咲稀(レ・キャトル)