島で開いた一席サロンからやがて多店舗経営へ。生産性を高める運営とは【hair salon LeonCovo オーナー 吉田海人さん】#1
美しい海に囲まれた長崎県五島列島。吉田海人さんが故郷であるこの地に戻り「hair salon LeonCovo」を構えたのは、今から4年前。最初は一席だけのこじんまりとしたサロンでしたが、経営者としての頭角を現し、数年の間に複数のサロン&サービスを展開してきました。そこには地元の人々のニーズに応えたいという想いも。
前編では、多店舗展開に踏み切った経緯や、集客を会社が担っている理由、生産性の高い働き方についてお聞きします。
教えていただいたのは…
「株式会社Beautrip」代表、兼「hair salon LeonCovo」オーナー 吉田海人さん
福岡の美容室に10年間勤めた後、長崎県五島列島に帰郷。まもなくして個人サロン「hair salon LeonCovo」をオープン。その後、脱毛サロン、アイラッシュサロン、訪問美容サービスを立ち上げ、2022年に美容室2号店を佐賀にオープン。現在は経営に専念し、社員の働き方の改善と多様化に尽力している。
帰郷後、一人で気ままに「一席サロン」をやっていくつもりだった
――これまでの経歴を教えてください。
高校卒業後すぐに福岡の美容室に就職し、働きながら通信制の学校に通い、美容師免許を取得したんです。美容師=ハードな労働環境を覚悟していたのですが、実際に入社した美容室はきちんと休みがあったし、人間関係もすごく良かったので辞めたいと思うこともなく、結局10年間働かせていただきました。
――なぜ故郷に戻り独立を?
他の美容室に比べたら休みを取りやすい環境だったとはいえ、それでも月6日しか休みがなく、たまの休日も勉強会に出かけたりで、感覚的には毎日仕事をしている状態だったんです。
結婚してそろそろ子どもがほしいなと思い、それなら生活スタイルを変えるべきかなと。生活スタイルを変えるにはまず場所を変えた方が良いんじゃないかということで、妻と僕の地元である五島に帰郷することに。
しかし、五島ではスタッフを募集しているサロンがあまりなかったし、理想とする働き方を叶えるなら自分でお店を立ち上げるしかないなと。
もともとは僕一人でのんびりやっていこうと思っていたので、キャパも小さく、一席だけしか置いていませんでした。そこで、2年くらい一人で営業していました。
――集客はオープン当初から順調でしたか?
10年ぶりに五島に帰ってきたわけですし、経営の知識も全くなかったので、最初はどうして良いかわからなかったですね…(笑)。とりあえず大手クーポンサイトに載せたり、近隣のお店にチラシを置かせてもらったり。
オープンしてしばらくは稼働率40%くらいでしたが、3ヶ月くらいからある程度売上が伸びはじめ、半年後には予約が少し先まで満席、という状態に。
一人経営の限界を知り、多店舗展開を。まずは地元で手薄な分野を開拓
――その後、美容室の他に脱毛サロンやアイラッシュサロンも展開されていますね。
おかげさまでお客様に恵まれ、1ヶ月間休みなくフル稼働したことがあったんですね。売上もかなり上がったんですが、喜ぶどころか、逆に絶望してしまったというか。美容師という職業は労働集約型なので、一人の力だけではアッパーがここまでなんだ…と一人経営の限界を知ったんです。
その頃、ディーラーさんから脱毛サロンのお話を聞き、興味を持っていたんです。当時、五島には脱毛サロンが1店舗しかなく、うちのお客様もわざわざ福岡や長崎の脱毛サロンに通っている人も多くて。五島に脱毛サロンがもっとあれば地元の人も喜ぶかなと思ったんです。事業計画を進めている中で、神奈川から五島へ移住を希望している女性とタイミング良く出会い、「一緒に働きませんか?」とお誘いし、参加してもらえることになったんです。
そのあとにアイラッシュサロンを立ち上げ、並行して訪問美容サービスもはじめたという流れです。
――訪問美容サービスをはじめたのはどんな理由で?
たまにご高齢のお客様が介護士に連れ添われて来店されることもあったのですが、ある方が「本当は月一で髪を切りに来たいけど、誰かに連れて来てもらわなければいけないから、頻繁には来られない」とおっしゃっていたんです。
五島は高齢者率が非常に高い地域。しかも、電車は通っておらず、バスの本数も少ない。自分で車を運転できなければ生活しにくいんです。市街地から離れた場所に住んでいるご高齢の方だとなおさら髪を切るためだけに出かけるのは難しくて。
髪を切ってもらうことは単に「きれいになって嬉しい」だけでなく、そのひとときに価値を置く人も多いですよね。実際、喜んで泣いて帰っていかれるご高齢のお客様もいらっしゃいました。だから、ご高齢の方にもっと気兼ねなく美容時間を楽しんでもらえるようなサービスをやりたいと思ったんです。
――佐賀にも美容室2号店をオープンされましたね。
佐賀とは特に縁はありませんでしたが、美容室を地方でこれから積極的に展開していこうと思い、そのテスト的な出店だったんです。佐賀で同じような経営スタイルを再現できたら、全国のどこでも通用すると踏んでいたので。
「会社は集客に、スタッフは施術に100%集中」というコンビネーションで運営
――現在、全ての店舗において集客は会社が行なっているようですね。
一人経営をしていた頃は集客の必要性をあまり感じませんでしたが、事業を拡大するにしたがい「会社としてどうすればみんなが働きやすくなるのか」を模索した結果、バックオフィス業務は完全に運営側がやる、というスタイルに行き着いたんです。
そうすることでスタッフたちの余計な業務を増やさず、生産的に働いてもらえる。お休みも取りやすくなるし、早めに退社しやすくなるかなと。
とはいえ、「施術だけに集中してください」と言っておきながら全然お客様が来なければ、働いている方も不安だと思うので、別組織ではありますが、マーケティングに強いパートナーとタッグを組んで、より精度の高い集客を行っています。「会社は集客を頑張るので、スタッフは施術に100%集中してください」というコンビネーションで運営しています。
――「働きやすさ」にこだわった結果なんですね。
うちに入ってくれた方にはもちろん成長の場を用意してあげたいと思っていますが、どちらかというと「長く働ける」ことに重きを置いています。美容師は離職率の高い職業ですし、特に女性の場合は出産や子育てのタイミングで辞め、しばらくしてから美容師以外の別の職業で復帰する人がすごく多いんですね。それが美容業界の課題だなと福岡時代からずっと感じていて、「ママさんでも美容師を続けられる環境にする」を一番のテーマにして起業したと言っても過言ではありません。
――勤務時間を自由に決めるのはフリーランスでなければ難しそうなイメージでした。
基本的にうちのサロンは全てマンツーマン、且つフレックス制にしています。ガツガツ働きたい人もいれば、そうじゃない人もいるので、自分で調整してもらった方が良いと思って。
僕が福岡で働いていた頃は、「お客様が来なくて暇なのに、営業中だからお店に立っていなければいけない」という拘束時間の無駄を感じることも多かったんです。
リアルなことを言うと、売上が発生するときにだけ仕事をしていれば良いんです。だから、スタッフそれぞれで自分のスケジュールを解放し、そこに予約を入れていくというシステムにし、予約方法も電話予約をなくして公式LINEとWEBからの予約だけにしました。
――営業時間に拘束されるストレスはないと。まさに「生産的」ですね。
ちなみに、うちは平日も土日も予約枠は同じです。マンツーマンでやっているため土日でも入れるキャパが限られていますし、土日に来店が集中してしまうと「美容師は土日に休みづらい」という課題につながってしまうので。
「休日も自由に決めてください」と言っています。基本的には週休二日制ですが、脱毛サロンやアイラッシュサロンはママさんスタッフが多いので、日曜にお休みを入れる人が多いです。
「離職率が高い」という美容師の課題に向き合い、フレキシブルな働き方を模索してきた吉田さん。さらに、「島暮らし」を活かしたある面白い試みを実施したそうです。後編では、場所に縛られがちな美容師の働き方に一石を投じるプロジェクトについてお聞きします。
取材・文/佐藤咲稀(レ・キャトル)