理想と現実のギャップで悩まされた看護師時代を経て、知識を活かした美容サロンを開業【看護師エステ/サロン経営者 伊藤優さん】#1
美意識の高い大人の女性が通うエステの激戦区でもある、東京都の麻布十番駅付近にて、美容エステサロン「Yourire(ユリール)」を経営する伊藤優さん。前職である看護師としての知識を盛り込んだメニューを展開する、一人ひとりに寄り添った施術が受けられるサロンです。いったいどのような経緯から、美容業界に転向したのでしょうか。
前編では、伊藤さんが看護師を目指したきっかけから美容業界へ転向した理由、開業するまでの経緯についてお聞きします。
教えてくれたのは…
看護師エステ/サロン経営者 伊藤優さん
地元宮城県仙台市の高校を卒業後、千葉県にある専門学校に通い、看護師免許を取得。その後、千葉県にある東邦医大医療センターで看護師として勤務。自身が思い描くサービスを追い求め、同県の美容脱毛クリニックへ転職。美容と健康がリンクしている重要性を伝えるべく、24歳で美容サロン「Yourire」を開業する。自身が理想とする「一人ひとりに寄り添ったサービス」を実現したサロンは、伊藤さんを頼ってくる方々より人気と信頼を集めている。
理想と現実のギャップに悩み、不完全燃焼の日々が続いた看護師時代
――開業する前は看護師として病院で勤務されていたと伺いました。看護師を志したきっかけを教えてください。
大きなきっかけは、母が医療事務の仕事をしていたことです。母はクリニックで働いていたのですが、たまに会いにいく機会がありました。そのたびに、患者さんと接している母を見ると、キラキラと輝いて見えたんですね。当時私は母は看護師だと勘違いしていたので(笑)、その光景を見て「看護師って素敵な職業だな」って思うようになったんです。
さらに、決定的な出来事となったのが東日本大震災でした。私は出身地が宮城県で中学生だったときに被災を経験したのですが、今まで体験したことのないくらいの揺れを経験しました。しばらくしてから、近くの市町村で壊滅的な被害を受けたというニュースが飛び込んできて…。
「困っている人がいる中、今の自分のままでは何もできない」と自分の無力さを痛感させられました。その出来事が後押しとなり、「看護師」の道に進むことに決めました。
専門学校で学んだのち、病院に就職し、メインに配属されたのは呼吸器内科。主に、がんなど重い病気を持つ患者さんの看護を担当していました。業務内容は、患者さんの日常動作の歩行や動作などの経過を見て評価したり、医者に言われた通りに患者さんの経過観察などが中心でした。
――実際に働いてみていかがでしたか?
ようやく看護師として人の役に立てるぞ、と意気込んでいたのですが…。自分の理想と現実での差があり、ギャップを感じてしまいました。
――ご自身の理想とする看護について教えてください。
「なんでも相談してもらえる看護師」を目指していました。その目標のもと、一人ひとりに合わせて寄り添える看護をしたいと思っていて。実際に、一人ひとりの患者さんと向き合うように試みたこともありましたが、そういった時間を作ることができるのは勤務時間外。でも、時間外に働くと師長に注意されてしまって満足に実行することが出来ず仕舞い。
日々の割り当てられる業務量が多く、常に忙しいため、患者さん一人ひとりに関わることができる時間が限られている…。この頃、自分が理想とする看護と病院の組織内で求められる看護とのギャップにだいぶ悩まされました。
このまま病院にいても理想を実現することは難しいと考え、兼ねてから興味があった美容サロンに転職することにしたんです。
美容クリニックで「美容と健康は繋がっている」ことに気づき、開業に踏み切る
――その頃から開業を視野に入れていたのでしょうか?
多少は考えていましたね。いずれサロンを開業するにしても、病院での勤務しか経験していないのは不安だと感じていました。看護の知識はありますが、美容の知識も新しく取り入れたいなと思っていたこともあって。
私自身、知識や経験を増やしていくことが好きで新しいことにどんどんトライしたいタイプなことも後押ししました。
――実際に美容サロンで働いてみた経験が現在に活きていると感じますか?
思いますね。開業前にサロンで働く経験をしていなければ、今の自分はなかったと思っています。
そう感じるのは実際に働いてみて、美容と健康が密接に関わり合っていることを確信できたましたから。いままで病院でしか働いた経験がなかったのでその違いについて確信がもてなかったんです。
――どんな違いでしょう。
美容クリニックに来る方って、一般的に美意識が高いイメージですよね。そういった方たちが美容のために「何を」しているのかというと、運動や筋トレ。本人は「美容のために」と思っているかもしれませんが、自然に体の健康を保つために必要な「健康行動」がとれているんです。
その気づきによって、「若くて健康なうちに美容と健康の関連性を伝えれば、もっと健康な人が増えるのでは?」と思うようになったんです。とはいえ、このまま流れ作業をこなすだけでは独自のメニューを提供することができないうえに、健康の大事さなどが伝えきれないと考えて開業に踏み切りました。
タイミングよくサロンを移転したことで、
自分が理想とするサービスが届けられるように
――開業するにあたって、誰かに相談はしましたか?
経営に興味がある知人がいたので、多少ですが流れを聞きかじっていた程度で(笑)。話を聞いてみて自分一人でもできそうと思い、まずは勢いに任せて部屋の契約から始めてみたんです。
――どのように開業場所を決めたのか教えてください。
実は最初、市場調査をした結果、数値がよかったので高田馬場にクリニックを構えていました。
調査通り、毎月の来店数も安定していて売上も立っていました。客層は学生や主婦の方がメイン。以前の集客方法は大手クーポンサイトを利用していたので、そのクーポンを利用するお客様が半数を占めていました。
ですが、リピートにはつながらず…。サイトに掲載したメリットでもあるはずのクーポンが、本来私がしたいサービスを発揮するには煩わしい対象になってしまっていたんです。というのも、私は利益を生み出すことよりも、看護師時代から目標としている一人ひとりに寄り添い、私個人を頼ってくれるお客様を大事にしたいという想いがありましたから。
――どのように克服されたのでしょうか?
克服…といいますか、心機一転するタイミングがあり、それによっていい方向に向かったと感じます。
ちょうどその頃、仲良くさせていただいたお客様から現在の麻布十番の土地をおすすめしていただく機会がありました。念のため市場調査もしてみたところ、美容系クリニックやサロンが立ち並ぶ、競争率が高い立地ということがわかりました。
ということは、それだけ美容にお金をかけている人がたくさんいるということ。そうなれば、お金ではなく私の想いを理解して頼ってくれる方が多いのでは?と思い、心機一転移ることにしました。
集客ツールもクーポンサイトではなくInstagramに変更し、さらにサロンの詳細や私の想いを発信してDM予約を中心に予約を受ける方法にしました。すると、私が発したメッセージに共感して予約していただいたり、その口コミが広まることによって私の施術を求めてくださるお客様が増えるようになったんです。
場所と集客ツールを変更したことで、自然と私を頼ってくださったり、コンセプトに共感してリピートしてくださるお客様が増えたり…と、好転していったと感じますね。
前編では、サロンを開業するまでの伊藤さんの想いを今までの経緯とともにお聞きしました。後編では、お客様が共感してくれるというサロンのコンセプトや看護師として働いた経験を組み込んだメニューについて、今後の展望を伺います。
取材・文/東菜々(レキャトル)
撮影/SHOHEI