10年分の「現場力」を武器に他業界に挑戦、そして自身のブランド立ち上げへ 私の履歴書 【コスメブランド「LOCA」オーナー 長嶋康太さん】#2

2015年に「LAUREL(ローレル)」から「shiro(シロ)」へ、2019年に「SHIRO(シロ)」へとリブランディング――ブランドの歴史と共に歩み、キャリアを積み上げてきた長嶋康太さん。全国各地を飛び回りながら新規店舗を立ち上げ、運営し、人と人とのコミュニケーションを誰よりも大切にしながら、ブランド成長の立役者として現場の最前線で活躍してきました。

後編は、「SHIRO」を後にされた経緯から、その「現場力」を生かして飛び込んだ他業界での経験、そしてある出会いをきっかけに自身のブランド「LOCA(ロカ)」を立ち上げるに至るまでの物語です。

自分の心の声に耳を傾けた一カ月

「自分の“魂の叫び”に向き合う時間でした」(長嶋さん)

――2023年に「SHIRO」を退職されていますが、どのようなきっかけがあったのでしょうか?

最初のきっかけは、自分の内面に起きた変化です。忙しい日々の中、ふと「あれをしたい」とか「これを知りたい」といった無意識に生じる「欲」が芽生えにくくなっていることに気がつきました。色んなタイミングが重なり、その後一カ月だけ仕事から離れたんです。その期間は、小さくなった自分の心の声に耳を傾けるための貴重な時間となりました。

仕事をしている時とは違う時間の流れを感じる日々の中で、改めて「自分にとっての幸せは何か?」を自分自身に問い続けるようになりました。そうしたら、そのまま通り過ぎていた毎日の小さな幸せにも、また少しずつ気がつけるようになっていったんです。加えて、心境の変化もありました。

――どのような変化ですか?

その時まで、「今起こっていることには、全て何かしらの意味がある」という考え方をしていました。しかし「今起こっていることに意味はなく、ただ信じて待っていてもやってこない。その出来事に対して、自分でどう意味をつけていくかの方が重要だ。」というようにマインドが変わったんです。

あと、本社勤務になる前の2021年の冬、自分の中で重要なミッションを終えたタイミングだったため、「そろそろ次のステージを考えてもいいかもしれない」という、漠然とした思いがあったのも事実ですね。

翌年、本社勤務をスタートしてからは、思いも寄らなかったある男性と人生について語らうことが増えました。

――その男性とは?

メイクアップアーティスト兼トレーナーとして、2019年に就任してきた天野です。後に立ち上げるコスメブランド「LOCA」の共同経営者です

そこから3年くらい一緒に仕事をしていく中で、互いの感性が合致する瞬間がとても多くて。「楽しみながら働くこと」を大切にしたいという想いから、「何か一緒にできたら楽しいかもね」とよく話すようになりました。

自身の内面に目を向けたこと、次にやりたいこと、そして、人とのご縁。これらが積み重なって、「SHIRO」を退職することにしました。

「SHIRO」での仕事は大変なこともたくさんありましたが、それ以上に学びが多く、僕自身にとってかけがえの無い時間だったと思っています

長嶋さんが「自分の感じたことや気づき・恩師からのことばを書いていた」という1冊目のノートの表紙。「一生謙虚」謙虚な心を忘れずに、初心に立ち返るためのアイテムとして、長嶋さんは今でもこれを手元に残している

「SHIRO」を退職。10年分の「現場力」を活かして新天地へ

新天地で、さらに新しいことへの挑戦について話す長嶋さん。その顔つきは精悍そのもの

――退職後には、全くの異業種である飲食業界にもチャレンジされています。

これもまた人とのご縁なんですが、僕が「SHIRO」にいた20代の頃からお世話になっていた方がいて、その方へ退職のご挨拶を差し上げたことから始まったんです。その方が携わっていた高級栗を使用した栗の専門店「HISAYA KYOTO(ヒサヤ キョウト)」で「これまでの経験を生かしてみないか」と声をかけていただいて。

その後、2023年の4月からフリーランスとなり、飲食店事業に参加させていただき、既存店舗の運営と新店舗の立ち上げ準備に携わることになりました。

――美容事業とはどのような違いがありましたか?

特に大きく違ったのは、準備・管理する項目の幅がより多岐にわたること。飲食店は自社だけで完結できることがほとんどなくて、食材や食器の仕入れ先、備品の発注など、関わるお取引様がとにかく多くて。新たに契約を結ばせていただくだけでも大変でした。

また、料理の知識だけでなく調理するスタッフの技術も必要です。人材の育成が鍵ですが、美容業界と同様、飲食業界も人不足なんですよね。

美容業界との違いも明確にありましたが、店舗の運営に関しては、業界を跨いでも共通する部分も多いなと感じていました

モノの問題から人の問題まで、オープンまでにあらゆる問題に直面しながら、トライアンドエラーを繰り返して乗り越えていく日々でした。

――新たな学びがあったんですね。

たくさんありましたね。店舗のマネジメントを通じて、「安全に運営しながらファンを増やし売上を高めるには何が必要か」「仕事のやりがいをどう持たせるべきか」ということは改めて考えさせられました。それにはやはり、現場を知ることがとても大切です。

よく現場は「末端」と認識されている方もいますが、とんでもない。僕からすれば現場こそ「先端」であり、そこでの感覚や事象、気づきを尊重すべきです

また、様々な経営者とコミュニケーションを取る機会が増え、経営に関する考え方も千差万別で、目標に向かうための方法が一つだけでないことを改めて知ることができました。
加えて、今まで触れる機会のなかった原価についての知識に関して学ぶことができたのも大きかったですね。その後「LOCA」を立ち上げる時に、とても役立ちました。

「LOCA」を立ち上げ、ローンチに向けて邁進中!

「効果や実感を重視した製品作りを大切に、本当に必要なものだけを取り入れて、その方にとって何かのきっかけになる製品を作りたいんです」と、「LOCA」への想いを笑顔で語ってくれた

――今秋ローンチ予定のコスメブランド「LOCA」について教えてください。

「LOCA」というブランド名は、「濾過(ろか)する」という言葉に由来しています。多くの情報とモノで溢れている今、不要なものは取り除き、本当に必要なものだけを厳選して、使い続けたいと心から思える製品をつくるという想い・考え方を込めて名付けました

長らく化粧品業界に身を置いたことで学んだ経験や知見を生かしつつ、自分が使いたいと思えることは大前提として、人にも勧めたくなるような製品を作り、展開していきます。

――どういった理由で「LOCA」を立ち上げることを決めたのでしょうか?

共同経営者である天野とは「人生の使い方」や、付随して「働き方・仕事の形」について意見を交わすことが多かったんです。人生において仕事は多くの時間を占めているので、せっかくならありのままの自分で、楽しみながら自分たちで価値を創り出す仕事がしたいね、と

じゃあ何をするかと具体的な話になった時に、自分たちの持っている知見を最大限生かせるブランドを一から立ち上げよう、という話になりました。

――コスメブランドを一から立ち上げるとなると、どのような準備が必要なのでしょうか?

準備は多岐に渡りますが、まず自分たちが「何を大切にして、何を目指し、何をつくるのか。どうやってつくるのか」について協議しました。作る製品が決まったら、OEMメーカーや研究開発者も交えて配合や処方の相談を重ね、クリエイティブ制作のために知り合いのデザイナーにもアドバイスをいただき、コスメマニアのメディアの方にもご意見をいただいたり…資金繰りにも奔走しました。

ここでも、人とのご縁に助けられながら、9月のローンチを目標に、現在も着々と準備を進めています。

やることは本当に膨大にありますが、何でも伝え合える天野とだからこそ、そして身の回りにいる方たちに支えながら進められている部分も大きいです。感謝しかないです。

――どのようなブランドに育つかが楽しみです。今後の展望について教えてもらえますか?

まずは、製品第一弾である美容液の発売を予定しています

導入はスキンケアですが、僕が好きなフレグランスの領域や天野の得意とするメイクアップの分野も含め、生活に必要なものを厳選しながら徐々にラインアップを広げていく予定です。

今、市場にはすでにコスメブランドが数多くあります。その中で「競合」するのではなく「共存」することができるような、そんなブランドにしていきたいですね

メイクアップアーティスト・天野雅之さんと共同で立ち上げたコスメブランド「LOCA」は、2024年秋にローンチの予定

――これから美容業界を目指す方へ、アドバイスをお願いします。

「ビビッ」とくるような出会いやきっかけなんか、なくてもいい。
できるかできないかではなく、やりたいと思えるか思えないか。
この感覚を大事にしてほしいです

僕は、人とのご縁で今ここに立っています。

「この人と一緒に働きたいと思った」を入口にしたっていいんです。意味は自分でつけていくものなので、自分の背中を押してあげられる意味をつけてその道を進んでみるといいと思います。その先の道は、足を踏み入れてから開かれるものだと僕は思います。

――長嶋さんにとって、「働く」とは?

誰かの笑顔を引き出すこと

どんな職業でもそうですが、人を笑顔にしてこそ、その対価をいただく価値があると考えています。今まで接客の際には、僕は密かに「お客様を1度はクスッとさせる」ということを目標にしていました。

大学での就職活動の時、「働きたくない」と思いながら活動していましたが、今となっては、そんな仕事は、僕にとって「人生のパートナー」と言っても過言ではないですね

長嶋さんの大切にしている教訓

1. 人とのご縁を大切にする

2. 地道な努力を厭わない

3. 誰かの幸せを第一に考える

撮影/野口岳彦
取材・文/勝島春奈

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