イメージ集めは20代から。35歳で完成させた「質が高くカジュアル」なサロン【美容師 渡辺康則さん】#1
恵比寿の美容室「AWAKE」の代表としてスタッフを率いながら、自身もプレーヤーとして活躍する渡辺康則さん。アーティストやデザイナー、実業家など感度の高い顧客を数多く抱え、雑誌や映像作品のヘアメイクとしても活動しています。
前編では、独立を考えたきっかけや出店のために行なったこと、サロンづくりのこだわりなどをお聞きしました。
お話を伺ったのは…
AWAKE(アウェイク)
代表 渡辺康則さん
「PARADISO」「PARADISO le・plus」でスタイリストとして活躍後、2020年に「AWAKE」をオープン。メンズヘア、レディースヘア問わず、ひとりひとりの個性やライフスタイルにぴったりの雰囲気のあるスタイルを得意としている。
「35歳で自分の店を出す」と決めて、有言実行!
――独立を考えたきっかけは何だったのでしょうか。
前職場は10年以上勤めていたので、そのまま残って自分のやりたい方向性をオーナーに伝えていくという道もありました。でも、自分自身がやりたいものがはっきりとしてきて、やはり独立したいなと。35歳までに自分の店を出したいと思ったんです。
――35歳という具体的な目標を決めたのはいつ頃ですか。
30代に入ってすぐくらいです。ただ、27歳で前サロンの店長に就任したときすでに、いずれは独立したいという気持ちをオーナーに伝えていたんです。会社に迷惑をかけないように、辞めるときは早めに言うし、勝手にひとりで進めることは絶対しないと話しました。
――若い頃から独立志向があったのですね。
僕が美容師になりたての頃は、「美容師を志す人はいずれ店を出すのがあたりまえ」という考え方が多かった時代。自分も特に疑問を持たず、出店を目指さなくてどうするという感じでした。その思いがより具体的になったのが30代。35歳までに店を出して、45歳までにプレーヤーから経営メインに移行するという将来設計を立てました。
――実際、目標通りに出店できたのですか。
34歳で前の会社を辞めて、「AWAKE」をオープンしたのが35歳になる誕生日の3日前。新型コロナウイルスの流行が原因で、いろいろ予定が狂ってしまった部分もあるのですが、35歳という目標はなんとかクリアしました。
お客様の声を聞きながらコツコツと出店準備
――出店準備はいつから始めたのですか。
本格的に準備を始めたのは、AWAKEをオープンする約1年前です。まずは前サロンのオーナーに、いよいよ独立に向けて動き出したいと伝えました。細かいことはもっと前から始めていたのですが…。
――例えばどんなことを?
20代のうちから、ピンタレストを利用してインスピレーションを得られる写真を集めていました。美容室に限らず、さまざまな店舗のインテリアやショップカード、ロゴ、看板…。とにかく自分がいいと思うものを探してストックしました。500枚以上の写真をためたかな。
――そうやって、サロンのイメージを固めていったんですね。出店場所は恵比寿に決めていたのですか。
特に決めていなくて、表参道、青山、銀座などいろいろなエリアで物件を探しました。はじめは表参道がいいかなと思っていたのですが、ひとりのお客様に「表参道は行き尽くしたから恵比寿に来ている」と言われて。ほかのお客様にもヒアリングしたところ、恵比寿派がたくさんいらっしゃった。
しかも、恵比寿で美容室を出したオーナーさんを調べてみると、表参道のサロン出身者がとても多くて。美容師もお客様も、年齢や経験を重ねると表参道より恵比寿が落ちつくという流れがあるのかな…と思いました。
そこからは恵比寿を第一候補に探して、新築ビルを見つけたのですが、前サロンとすごく近かったんです。そこでオーナーに確認したところ、「いいんじゃない!!」と言っていただいて…。本当にオーナーには一生感謝してもしきれないくらい感謝しています。
――サロンのコンセプトはどのように考えたのですか。
僕のお客様は、建築家やミュージシャン、デザイナー、アパレル系などクリエイティブなジャンルの方が多いんです。そういう方が好む「質が高いけど自由な雰囲気」を大切にしたいと思いました。
質の高さは重視しながら、フォーマルなテイストではなくカジュアル。そこを意識しました。
――上質さと居心地のよさを感じる空間が素敵ですね。
ありがとうございます。あるお客様にピンタレストで集めたイメージを見せたら、「こういう雰囲気が得意なデザイナーさんを知っているから紹介してあげる」と言われて。お会いして話したら、僕が集めた写真の中にその方のデザインが2つあることがわかり、すぐに「お願いします!」となりました。
『商店建築』(2022年10月号/商店建築社)という雑誌のヘアサロン特集のページで、そのデザイナーさんが手がけたものとしてうちの店も載せていただいているんですよ。
――お客様につないでいただいた運命的な出会い…。すごい!
そうですね。だからこそ、中途半端なことはできないという思いも強く、細部までこだわってつくりあげました。
信頼できるスタッフとともに、少数精鋭でスタート
――お話を伺っていると、AWAKEのターゲット層は最初から明確だったようですね。
僕自身が好きなことを続けていたら、自然とクリエイティブな職業や経営者のお客様が集まってきて、今に至るという感じです。雑誌撮影やテレビ収録、ミュージックビデオなどでヘアメイクをさせてもらったのも大きいかもしれません。そのつながりで来てくださっている人も多いので。
――オープニングスタッフの採用でこだわったことはありますか。
最初は小規模で始めることにしました。軌道に乗るまでは、家賃や人件費を払って維持していけるギリギリの少人数でやろう、と。それから、前サロンの現役スタッフを引き抜かないということは決めていました。
美容師は僕と妻、そして僕の専属アシスタント経験のある子の3人。そしてレセプション兼サポートをしてくれるスタッフが1人。互いに信頼関係ができている、合計4人でスタートしました。
――ちなみに、AWAKEという店名の由来は何ですか。
自分の店を持つほかに、将来的に海外で仕事をしたいという思いもありました。だから、全世界の人がわかりやすいシンプルな単語で、造語ではなくて、ポジティブな響きがあって…、そういう言葉はないものかと。450語くらい自分で書き出してみたのですが、全然なくて!
結局、ニューヨークに住んでいるネイリストの友人に助けを求めて、30個くらい案を出してもらいました。その中でピンときたのが「AWAKE」。アルファベットなら「A」、カナなら「ア」から始まるので、インデックスの最初のほうに並びます。目覚める、進化するといった意味があり、「美が目覚める」「お客様のポテンシャルを引き出す」という美容室のイメージとも重なりました。
インタビューの中で、「すごく慎重派だけど、実は攻めるタイプ」と自己分析してくれた渡辺さん。方向性を決めて着々と準備し、ここぞというときに瞬発力を発揮したことで、今があるとのだと感じました。
後編では、オープンと同時期に始まったコロナ禍の中で、サロンを安定させるために工夫したこと、美容師&経営者としての今後の目標などをお聞きします。
撮影/喜多二三雄
取材・文/井上菜々子