サロンを超えたサロンとして『STEP BONE CUT TOKYO』がパワフルに移転オープン【STEP BONE CUT 創設者 SAYURI USHIO】#1
2020年に旗艦店として南青山にオープンしたSTEP BONE CUT TOKYOが、2023年8月に拡張移転しました。新店舗はかつて元アパレルメーカーが所有していた倉庫。環境に負担をかけないSDG’sな考え方が当たり前の昨今、廃材をなるべく出さない内装工事にこだわったとか。2年前には環境省が主催するグッドライフアワードのサスティナブルデザイン賞も受賞。環境に配慮しながらサロンの規模を拡張し、しかも前衛的であり続ける経営の秘策を教えていただきました。
お話しを伺ったのは…
一般社団法人ステップボーンカット協会
特許技術ステップボーンカット発案創始者
SAYURI USHIOさん
1980年に宮内学園 日本高等美容専門学校を卒業。サロン2店舗を経て、25歳でご自身のサロン「TICK-TOCK」をオープン。2013年にステップボーンカット©の特許を取得し、2016年にはN.Y.に進出する。ステップボーンカット©の技術を広めつつ、オリジナル商品の開発も手がける。現在は、神戸を中心に展開している「TICK-TOCK」6店舗の経営に携わるかたわら、現代美術作家としても活躍している。
ただ髪を切るサロンではなく、さまざまなスペースになる場として移転オープン
――2年前のオープンからまだ日が浅いのに、同じ南青山に移転オープンしたのはなぜですか?
最初に旗艦店としてオープンしたサロンは10坪の広さで、実験的な意味もありました。悪いことにコロナ禍だったので、販売促進も思うようにできませんでした。それでもご紹介や口コミで次第にお客さまの数が増え、サロンのキャパを超えてしまったんです。必要に迫られた面もありますが、せっかく拡張移転するのならSTEP BONE CUTアカデミーとオリジナル商品の拠点にもしたいと考えました。
――それが、このサロンなのですね。
もともとアパレルの倉庫として使われていて、無機質な空間だったんです。サロンとしての機能は必要ですが、廃材をあまり出したくなかったのでなるべく造作をしない内装工事にこだわりました。例えば、エリアを区切るのは壁ではなくシルバーのカーテン。カーテンを開ければ空間が広くなるので、ワークショップやアートイベント、フォトシューティングができます。カーテンの素材にもこだわっているんですよ。リサイクルが可能なうえに、燃やしても水と炭酸ガスに分解されます。
――インテリアもスタイリッシュで、アトリエのようですね。
このサロンはただ髪を切るだけの場所ではありません。髪を切ることでお客さまの不要なものが取り除かれるような、生命のアート表現の簡易版を実体験できる場でありたいと願っています。そのために光や音、香りなど五感を刺激するような空間をつくりました。
サスティナブルであることが評価されたステップボーンカット©
――STEP BONE CUTの名前が付いたサロンは何カ所ありますか?
ここ南青山とN.Y.のブルックリンの2か所です。このサロン以外にも、ステップボーンカット©の技術をマスターした認定スタイリストは日本はもちろん海外に1,000名以上います。
――サロン名にもなっていますが、ステップボーンカット©とは何ですか?
ひと言で説明するなら骨格補正立体カットですね。通常は削ぎを入れてディテールを作りますが、ステップボーンカット©は髪を削ぎません。すべて展開図に落として、ひとつのスタイルを仕上げます。アイロンやヘアスタイリングで作り込んだものではないので、髪の傷みや質、クセ毛、骨格などお客さまのあらゆる悩みに対応できる技術なんです。
――カットの技術が、環境省のグッドライフアワードでサスティナブルデザイン賞受賞にどのようにつながったんですか?
この技術は再現性がいいので、ブローは必要ありません。ドライヤーをあてる時間が大幅に削減できることで、CO2削減につながることが評価されました。
――このサロンがステップボーンカット©の拠点になるというのは?
お客さまを通してステップボーンカット©の魅力を発信することが第一。私たちは定期的にステップボーンカット認定講座を開催しています。コロナ禍ではオンラインでの開催になりましたけれど。この会場を使ってスキルアップのためのセミナーを開催することも考えています。
――ステップボーンカットの特許を取ったのは、なぜですか?
既存のカット技法では、思い描いたデザインにはならないんです。カットした当日はまとまりのあるスタイルに仕上がっても、お客さま自身でスタイリングしようとするとうまくいかない。再現性が今ひとつなんですよね。誰がカットしようとも、サロンで仕上げたスタイルをご自宅でも再現できることを目指しました。
この技法が広まれば、美容師の価値がもっと上がるのでは…とも考えました。というのも、若いころN.Y.のサロンで働いた時期があったんです。アメリカやヨーロッパでは美容師の価値がすごく高いのに比べて、日本では美容師の価値が低すぎることに驚きました。私たちはもっと自信を持っていいんだと、気づかされました。そうは言っても、なかなか現状は変わりません。本来なら美容師はめっちゃ儲かる仕事なんですよ(笑)。現状を変えるお手伝いをしたいと思って、特許を取った上で認定講座を始めました。
SAYURIさん流! サスティナブルに仕事を続ける3つの法則
1.環境に負担をかけないことをプラスに捉える
2.間仕切りの壁をカーテンに代えて、多目的な空間をつくる
3.カットの技術で再現性をあげ、ドライヤーレスを実現
南青山に拡張移転したSTEP BONE CUT TOKYO。五感を刺激する独創的な雰囲気に、SAYURIさんの感性がそこかしこに感じられます。前編では人気サロンがひしめく青山エリアで着実に業績を伸ばし、拡張移転したサロンについてご紹介しました。後編はサロンの代表であり、ステップボーンカット©の発案創始者でもあるSAYURIさんについて深掘りします。
撮影/森 浩司