lien.=絆。店名に込められた思いは、自身の生き方や働き方にも通じる【美容師 相楽顕さん】#1
カリスマ美容師ブームの影響を受け、美容師を志した相楽顕さん。入社したサロンで出会った憧れの先輩に誘われて、原宿のTierraでスタイリストに。「美容師としても人としてもたくさんのことを学んだ」と言い、そこで磨いた技術やマインドを大切にしながら、2020年に独立して「lien.」をオープンさせました。
前編では、美容師を目指した理由やターニングポイント、独立の経緯や出店準備についてのお話などをインタビューしました。
お話を伺ったのは…
lien.(リアン)
代表 相楽顕さん
美容専門学校卒業後、都内の大手サロンに入社。その後、原宿のサロン「Tierra」に移籍してスタイリストデビューし、自由が丘店で店長として経験を積む。2020年6月に「lien.」をオープンし、プレーヤーとしても経営者としても活躍中。一人ひとりの骨格や髪質、ライフスタイルに合わせた持ちのよいカットを得意とし、特に大人女性から高い支持を獲得。
学生時代は陸上競技に没頭。大学卒業後に美容の道へ
――相楽さんが美容師という職業を選んだきっかけは何だったのでしょうか。
僕が高校生の頃は、ちょうど「カリスマ美容師」ブームだったんですよ。当時は部活動で陸上競技をしていて大学進学も決まっていたので、自分の進路に対してあまり深く考えていなかったのですが、なんとなく美容師の仕事がカッコいいなと感じていました。
大学生時代に具体的に美容師の仕事を調べるようになったとき、あらためてすごく魅力的に感じました。「シザーズリーグ」(フジテレビ系列で放送されたカリスマ美容師バトル番組)に出ているサロンに片っ端から行って、窓ガラス越しに美容師さんたちを眺めたことも。大学卒業間際まで、実業団で陸上を続けるか、それとも美容師の道を選ぶか、ちょっと迷った部分もありました。ただ、年齢を重ねてもずっとやりがいを持って続けていけるのは、美容師かもしれないと思い美容学校に進むことに。
――大学卒業後に美容学校というのは、少数派だったのでは。
夜間部には結構いたんですけど、僕が入った昼間部ではクラスでひとりだけでした。周りより4年遅れて始めることに対する焦りは、若干ありましたね。スタイリストデビュー頃までは焦っていたかな。僕は29歳でデビューしたのですが、同い年の人たちはすでにデビューして活躍していたので。
――美容師になってから、ターニングポイントになったできごとはありますか。
まず、最初に入ったサロンは「シザーズリーグ」にも出ていた有名店で、当時200人規模のスタッフがいるところでした。入社して3年目のときに、一番憧れていた先輩の三笠竜哉さん(Tierra代表)が独立することになり、お誘いいただいたのが大きな岐路だったと思います。
すごく嬉しかったんですけど、もともと勤めていたサロンも大好きでしたし、環境もすごくよかったので1週間くらい迷いましたね。その頃は三笠さんとは違う店舗だったのですが、一緒に働きたい、仕事を見させていただきたいというのはずっとアピールしていたんです。だから、僕が即決しないので三笠さんはびっくりしていました(笑)。
店長としてサロンづくりに関わった経験が、独立への力に
――Tierraに移ってから、スタイリストデビューされたんですよね。
すぐにスタイリストデビューでいいと言われたんですけど、僕としてはアシスタントとして三笠さんについてからデビューしたいという思いがありました。それで1年半ほどメインアシスタントをやらせていただきました。
早朝の撮影から夜中の飲みまで、ずっと密着しているという感じでしたね(笑)。技術に関することはもちろんですが、人としてのあり方とか、美容師としての考え方とか、そういうものをすべて教わりました。
――独立を考えるようになったのはいつ頃ですか。
地方出身なので、美容師になったときから「最終的に自分で店を持つのがあたりまえ」という意識がありました。美容師歴が10年を超えた35歳のときに、三笠さんと中村さん(三笠さんとともにTierra代表を勤める中村康弘さん)に相談して、いずれ独立したいという話をしたんです。
そのときは、「自由が丘に新たな店舗を出すから、店長としてあと5年頑張ってほしい」ということを言っていただきました。
――独立の意思表示をしてからの5年は、長かったですか。
いえ、短かったです!新しい店舗で、新しいスタイリストもデビューして、お客様を増やしていこうというフェーズを「自由にやってみろ」と任せていただいたので。あっという間の5年でした。
経営者目線で考えることも、ひとつのお店をつくっていくのがどういうことなのかも、まったくわからない状態の中で、三笠さんや中村さんに相談しながら進められたことがすごく大きかったですね。
自由が丘店で6年経った頃に、やっぱり自分で店を持ちたいという気持ちが変わらなかったので、もう一度相談させていただきました。
――貴重な経験をなさってから独立できたわけですね。出店の準備はどのように進めたのですか。
独立することになったとき、知り合いの方から居抜き物件が空くという話をいただき、すんなり今の場所に決まったんです。だから特に物件探しはせず…。
――すごいタイミングですね!もともと自由が丘で出すと決めていたのですか。
僕は美容師として、新規客をどんどん呼び込むというよりは、お客様に長く通い続けていただくことを一番大切にしているんです。場所が離れることで今までのお客様が来にくくなるなら、独立しなくてもいいと思っていたくらいなので、やはり自由が丘がいいかなと。
もともと、Tierraの2店舗目を出すときに物件探しをする中で、自由が丘の街並がすごくいいなと感じていました。おしゃれな街でありながら地域密着な雰囲気が、僕がやりたい美容師のイメージにすごく近くて。それで、自由が丘がいいのではという僕の希望を聞いていただいたという経緯もあります。
気心の知れたチームで、大人女性のためのサロンをオープン
――lien.のオープンに向けて、物件がすんなり決まったとはいえ準備が大変だったのでは。
実はlien.のオープン前日までTierraで働いていたのですが、ちょうどコロナ禍が始まった頃で、Tierraも2週間ほど休んだ時期がありました。だから、ちゃんと営業に集中しながらも、lien.の出店準備もできたという感じです。
店内の改装はほとんどしていなくて、ほとんどスタッフの手づくりなんですよ。トイレの中などは工事業者が入っていますが、扉をDIYするとか、床材を敷くとか、そういうのは自分たちでやりました。
――お店の名前やコンセプトはどのように決めたのですか。
「lien」はフランス語で絆という意味なんです。お客様とのつながりやスタッフ同士のつながりを大事にしたいという思いを込めました。響きが可愛いのも決め手でしたね。
コンセプトとしては、大人女性をターゲットにして、その方達が落ちついて過ごせる空間というのをメインで考えました。自然光がたっぷり入るのでそれを活かしたり、木の温もりを感じられるインテリアにしたり。あとは、くつろげるかどうかは結局のところスタッフしだいだと思うので、大人女性に向けての対応というところを常に意識しています。
――大人女性をターゲットにしたのはなぜですか。
原宿で働いていた頃は20代中盤くらいまでのお客様がほとんどだったのですが、自由が丘に移ったときから徐々に大人女性にシフトしたんです。やはり自由が丘は落ちついた感じの大人女性が多いという印象でしたし、僕の年齢的にも、カットを売りにしていることからもそのほうがいいかなと思い、僕自身のターゲット層は35歳以上の女性を狙いました。
ただ、デビューしたばかりの若手スタイリストにとっては、最初から年齢差がありすぎると難しいかなと思ったので、lien.としてのターゲット層はもう少し年齢を下げて、20代後半くらいからをイメージしています。
――オープン時のスタッフは何人いらっしゃったのですか。
僕を含めて5人でスタートしました。ありがたいことに、Tierraのスタッフを連れて行っていいと言っていただいて…。僕のメインアシスタントとしてついてくれていた子がふたりと、シャンプー中心に入ってくれていた子がひとり、そしてもうひとりが新メンバーでした。
――すでにチームワークができている状態でオープンできたんですね。
そうですね。だから本当にやりやすかったです!
物件もスタッフもスムーズに決まり、コロナ禍での時間を有効に使って順調に進んだ出店準備。相楽さんはTierraの代表ふたりの懐の深さを「本当にありがたい」と感謝しつつ、lien.の経営者&プレーヤーとして躍進を遂げています。
後編では、オープン直後のエピソードや、サロンづくり&スタッフ育成で力を入れていること、そして今後の展望などをお聞きしました。
撮影/喜多二三雄
取材・文/井上菜々子