その時々の最善を選択して、自分と自分に関わる人の幸せを追求したい【cue 代表 蓑田朝菜さん】#2
美容師の蓑田朝菜さんは、銀座に「cue」をオープンし、おしゃれな「エイジレスヘア」を打ち出しています。少人数ならではの居心地の良い空気感や、何度も試行を重ねた厳選トリートメント、白髪悩みを払拭するカラーなどが人気を呼び、現在は新規予約が難しいほど。
前サロン時代の経験や独立の経緯をお聞きした前編に続き、この後編ではサロン作りやメニューのこだわりから、蓑田さんの人生の目標までインタビュー。「自分に関わる人の幸せ」にフォーカスした働き方や生き方への思いが伝わってきました。
お話を伺ったのは…
cue 代表 蓑田朝菜さん
日本美容専門学校卒業後、2005年LIPPS入社。4年目にスタイリストデビューし、28歳の時に表参道の副店長・店長を務める。29歳で銀座店に移動し、店長から代表に就任。その後、Ray GINZA店と吉祥寺ナカミチサイド店の店舗マネージメントを任される。2024年1月6日にcueをオープン。髪のエイジングケアや白髪ぼかしカラー、小顔カットなどの技術に基づく「エイジレスヘア」を打ち出している。
「エイジレスヘア」のためのメニューでお客様の満足度がアップ
――cueの始動とともに、「エイジレスヘア」を打ち出したそうですが、どんなことを提案しているのでしょうか。
ふたつのアプローチがあり、ひとつ目は「素材のケアに対するアプローチ」です。髪のツヤや、ハリ・コシ、年齢とともに失われてヘアデザインの邪魔になるものをケアして、若々しく保つメニューの提案です。具体的にはトリートメントとスパですね。
トリートメントは私自身もいろんなサロンに行って試してみたんですけど、価格・継続性・クオリティーの3つが揃っているものに出合ったことがありませんでした。お世話になっているディーラーさんの紹介で、自分のサロンが求めているものにぴったりの剤と巡り合い、導入することになりました。スパも、特に大人にとって嬉しい「トップの立ち上がり」が長持ちするものを取り入れています。
ふたつ目は、「色に対するアプローチ」。ブリーチを使用して白髪を目立たなくさせる、エイジレスなカラーデザインを提案しています。
――自分が本当に納得のいくものをお客様に提供できるのも、独立した大きな魅力ですね。
自分で1ヶ月くらい試して使い方を研究したり、どれとどれを組み合わせたら頭皮や髪に一番良いかを実験したりしました。まずは私自身が結果を実感して、一番響いたものだけを採用しています。自分の美容に対しての執着がより反映されますし、執着があるからこそ良いものをおすすめできると思っています。
「美容に命をかけている」くらいの私の熱量が伝わるから、お客様も「じゃあ、やります!」って納得して施術を受けてくださる感じです。
――お客様の反応や、集客状況はいかがですか。
おかげさまで、お客様には喜んでいただいております。特に、エイジングが気になり始める世代の人たちに一番フィットしやすいコンセプトでありメニュー設定なので、トリートメントやスパを目的にいらっしゃる方も多いです。
集客は、今のところ前サロンからの顧客様と、紹介のお客様で予約が埋まっている状況です。私のお客様は複数のメニューを組み合わせる方が多いので、例えば5〜6個のメニューをやれば3時間くらいかかってしまいます。そうすると、1日に3〜4名しか受けられないんです。カットやトリートメントのみなどのお客様が多ければ10名くらいになる日もありますし、結構ばらつきがありますね。
目指すは、スタッフもお客様も居心地の良いサロン
――cueは少人数サロンですが、これくらいの規模感で始めた理由はありますか。
独立したからには、自分と関わる人が満足して働いて、お客様も私と関わったことで良かったと思ってもらえる環境を作りたい。それをゴールにするとしたら、大人数では難しいことも結構いっぱいあります。
人が多くなればなるほど、それぞれが何に満足するのかも幅広くなりますし。少人数であればターゲットも絞られ、スタッフがやるべきことも明確。小回りが効くので、人に依存せず自分でどうにかできるんですよ。自分のやるべきことを、無駄なく、お客様やスタッフに提供できると感じています。
美容業界としてもみんなが変化を感じている中で、スタッフもお客様も居心地の良いサロン作りをしたいというのが今の私の思いです。
――スタッフは全部で何名いらっしゃるのですか。
スタイリストは私と安田愛佳さんの2人、アルバイトが4人の計6人です。バイトの人はそれぞれ週に2〜3日出勤しているのですが、キャリアを積んだ40代の女性が多いです。子育てしていたり、別のヘアメイクの仕事もやっていたりと、経験値が高い方たちなので、一緒に働いているとこちらにも学びがあります。
――学びがあるというのは、例えばどんなことでしょう。
私はこれまで、男性の先輩や同僚と一緒に働くことが多かったので、環境の整え方や結果の出し方が男性的なところもあると思います。でも、バイトの方たちは環境を賑やかにしたり柔らかい空気にしたりすることに長けているんです。
私が気づかない部分に気づいて、しかもちょっといじってくれる(笑)。「蓑田さん、こういうの不得手ですよね〜」って。それがすごく良い空気感なので楽しく働けて、多分お客様にとっての居心地の良さにもつながっていると思います。
自分よりキャリアがあり人として豊かなマインドを持っている人に囲まれているので、そこに学びがあると感じています。
――大型サロンと少人数サロンの両方を経験してみて、それぞれの良い点と課題点をどのようにとらえていますか。
大型サロンの良い点は、たくさんのスタッフと関わるため刺激が多いこと。そして、エネルギーを適度に仕事に使い、余った時間でプライベートを充実させることができること。課題点は、自分が注いだエネルギーが、他の社員にも分散するので自分に返ってきにくいことかなと思います。
少人数サロンの良い点は、自分のやりたいことを明確に構築して形にしやすいこと。全員が主体的になり自分たちのためにやるべきことが見えやすいです。課題点は、あらゆる情報を自ら取得していく必要があり、そのためのエネルギーがより重要になります。
75歳まで元気に働くのが大きな目標
――今後の目標は何ですか。
「魅力的な店」「魅力的な人」に向かうために、常に自分なりに正解を探しながら向上し続けることが目標です。
サロンを大きくすることは考えていないのですが、もう少し経ってからメンバー増員を検討してもいいかなと思っています。今いるメンバーの状況やバランスを見ながら、その都度、必要なことを選択していきたいですね。
――蓑田さんの成功の秘訣はありますか。
まだ成功していないので、途中段階の今は言えないです。
――では、蓑田さんにとってどんなことが成功だと思いますか。
仕事面で言えば、自分に関わっているスタッフとお客様、そして自分がみんな一緒に幸せを感じられることです。本人だけでなく、その人のパートナーや子供や家族の状況などにより幸せの形はその時々で違ってくるので、簡単なことではないと思いますが…。
私個人で言えば、75歳まで元気に働ければそれでOKです。そのためにどう道を辿るかは、その都度選んでいきたいです。
――これから長いスパンで、自分なりの成功に向かっていくわけですね。
今、自分で「55歳プロジェクト」を推進中です。「一番魅力的な状態」に足りないものを学んで、必要なものを選択していくという計画なんです。55歳までに理想を手に入れて、そこからは楽しく維持していきたいなって。最終的にビジネスで成功することよりも、私にはそれが大事。
一生を1日に置き換える「人生時計」という考え方では、50歳は夕方にあたり、まだまだ何かできる年代らしいんですよ。なので、少し幅を持たせて55歳に設定しました。それまでに自分のキャパを広げてベースをしっかり作っておけば、その後20年以上メンテナンスと維持が続いていくけれど、大丈夫かなと思っています。
――なんだか年齢を重ねるのが楽しみになりますね!最後に、蓑田さんにとって「働くこと」とは何でしょうか。
イキイキと生きて成長を楽しみ、自由に生き方を選択することです!蓑田さんが大切にしている3つのこと
1.自分に関わる人と自分が一緒に幸せを感じられる状況を目指す
2.学びがある環境に身を置く
3.その都度その都度の選択を大切にする
撮影/高嶋佳代
取材・文/井上菜々子