美容師が持続性のある仕事になることを目指して。スタッフファーストな店舗展開「キュービーネット株式会社」北野泰男さん
美容業界を支える企業の魅力を紹介する本企画。今回は、短時間でハイクオリティなカットを提供することで有名なグローバルブランド「QB HOUSE」を展開する会社「キュービーネット株式会社」で働くみなさんにお話をお聞きします。
前編では創業者の小西國義さんからバトンを受け継いで現在、代表取締役社長を務める北野泰男さんにQB HOUSEの成り立ちや理念、出店戦略などについて伺いました。
1996年に誕生した「QB HOUSE」は現在、日本のみならずシンガポールや香港など海外5カ国に展開し、総店舗数は約700店舗にも上ります。
そのほとんどが直営店なのは多くのスタッフに長く働いてもらいたいという想いがあるからだといいます。
今回、お話を伺ったのは…
「キュービーネット株式会社」代表取締役社長
北野泰男さん
大阪府出身。大学卒業後、日本債券信用銀行(現:あおぞら銀行)に就職。10年間勤めたのちに創業者の小西さんと出会い、2005年「キュービーネット株式会社」に入社。2009年にバトンを引き継ぎ、現在まで代表取締役社長を務めている。
およそ700店舗のグローバル展開。スタッフの安心感のため直営にこだわる
――企業の成り立ちについて教えていただけますか。
当社は1995年に会社を設立し、その翌年に「QB HOUSE」1号店を神田にオープンしました。創業当時から「10分の身だしなみ」をキャッチコピーに掲げ、短時間で低価格なカット専門店として口コミやメディアを通して認知されていったんです。
現在は直営店とフランチャイズを合わせて国内に563店舗、海外4カ国に128店舗を展開しています。もともとはすべての店舗が業務委託やフランチャイズでしたが、現在は約90%が直営店になります。
――直営店が多くなっていった理由は何でしょうか?
多くのスタッフが安心して長く働ける環境を作りたいという想いがあったからです。業務委託やフランチャイズでは日常はもちろん、とくに震災などの自然災害が起きてお客様の足が途絶えてしまったときに充分なサポートができません。直営店を増やし、1つの大きな船のようにすることでスタッフが安心して楽しく働き続けられるようにしたのです。実際、「QB HOUSE」はコロナの時期に2ヶ月間営業を停止したのですが、その間も直営店スタッフ全員には基本給はもちろん、過去の残業時間を参考に残業代を算出した給料を支払いました。
――会社の理念をお聞かせください。
無駄を省くこと、ひと言でいうと「もったいない」を理念としています。創業者の小西が「QB HOUSE」を立ち上げた理由のひとつにも「カットはしてもらいたいけど、シャンプーは時間がもったいない」という考え方があったのです。お客様としては時間、スタッフとしては技術を習得する労力、企業としてはシャンプーやパーマ、カラーの商材費用など無駄を省くことでそれぞれが豊かさを得られると思っています。
無駄を省くことは長く働ける環境の実現にもつながっているのです。美容師の悩みとしてシャンプー仕事での手荒れや腰痛などが挙げられますが、「QB HOUSE」はカット専門のためその心配がありません。また弊社は指名制でないため休暇も取りやすくライフワークバランスにも優れた、生涯現役で働ける環境づくりができています。ちなみに弊社の現役美容師の最高齢は80歳です。
地域に根づいた存在になるため難易度の高いベッドタウン展開に挑戦
――北野様のここまでのキャリアを教えてください。
私は大学時代、「将来は起業しよう」と考えていたのですが経営に必要不可欠な数字が苦手だったので、それを克服するため銀行に就職しました。銀行員時代は営業マンとして全国を飛び回ったり、投資部門に携わったりするなかでさまざまな企業の経営者の方と出会い、社会の困りごとを解決するサービスは多くの人に必要とされるなどさまざまなことを学びました。
その出会いのなかには弊社の創業者である小西さんもいたのです。私はもともと「QB HOUSE」のいちユーザーでした。面倒くさがりの性格なのでスタッフに軽く要望を伝えれば10分程度で思い通りの髪型にしてくれる時間価値の高いサービスはありがたく、日頃から利用していたんです。その背景もあったので小西さんと会えたときはうれしかったのを覚えています。それから関係を深めさせていただくうちにご縁もあって、2005年当社に入社しました。
そして2009年に小西さんが引退するタイミングでバトンを受け継ぎ、代表取締役社長に就任したんです。
――「キュービーネット」に入社した理由は何ですか?
ユーザーだったというのも理由の1つですが、とくに「QB HOUSE」の技術力を世界に広げたいという想いを持っていたことが大きいです。というのも私は大学時代に約1年ヨーロッパやアジアなどを旅していました。お金のない旅だったので節約のためにだいたいのことは自分で何とかして過ごしていたのですが、髪を切ることだけは難しくって。自分で切ろうとしても上手くできず、サロンに足を運んでいました。
ただ海外サロンは、日本人の髪質が固く切りづらいためかお世辞にもカット技術が高いとは言えなかったのです。そのときに日本のカット技術は高く、接客まで素晴らしいと認識することができました。小西さんと縁ができたとき「日本の技術を世界の人々に体感してもらいたい」と思い、当時すでに海外展開を進めていた当社に入社しました。
――ご自身の経験が大きかったのですね。海外店舗の出店戦略を伺えますか。
まず海外店舗はすべて直営店になります。というのも一度、フランチャイズで海外展開を行ったことがあったのですが、フランチャイズオーナーがブランドを勝手に切り替えるというトラブルがあったんです。その経験から直営にこだわって展開し、サービスについても質の高いものを提供するために日本人スタッフが現地に出向き、技術を教えるようにしています。
出店エリアは中心地ではなく郊外のベッドタウンが多いです。その理由には持続性の担保が大きくあります。中心地は観光客も多いので入客数も見込めそうに思えますが、家賃が高いため総合的にみると稼げず、長続きしないんです。かといって郊外エリアでの経営も簡単でなく、どちらかといえばより一層難しいです。しかし郊外での展開に成功すれば、地元の人に根付き、社会のインフラになることができます。それを目指して挑戦的ながらもローカル向けの展開をしているのです。
どんな人でも笑顔にできる仕事だから働きやすさを高めたい
――今の美容業界をこのように変えていきたいという想いはありますか?
美容師という仕事は日常的な身だしなみを整える仕事であるのはもちろん、晴れの日や人生の最期などの大事な節目にも寄り添える仕事だと考えています。亡くなる直前に父から散髪に連れて行ってほしいとお願いされて、私と2人で理髪店に足を運んだことがあったのです。そこでお店のマスターがあまり残っていない髪をていねいに仕上げてくれて、これが最後の散髪だと自覚していたであろう父がニコッとうれしそうに笑っているのを私は鏡越しに見ました。美容師はどんな状況の人でも笑顔にできます。そんな素晴らしい仕事に就く人が賃金などに悩まず、持続性をもって働けるよう他の業界と融合したりしてよりよい体制を整えていきたいです。
――最後に「QB HOUSE」に応募を考えている方へメッセージをお願いします。
私は美容師として働くうえでどのような環境が整っているかが大切だと考えています。高い能力があっても、それ以前にその能力を発揮できる環境がなければスタッフ一人ひとりが持つ理想の美容師像を叶えることもできません。「QB HOUSE」にはロジスカットスクールという半年で美容師としての技術を身につけられるアカデミーやサポート体制が整っています。いま不安や不満を抱えている人たちはぜひ来ていただき、いっしょに自立できる未来を叶えられたらうれしいです。
店舗展開のときにもサポートの充実を考えるなどスタッフファーストな「キュービーネット株式会社」。創業者の小西さんはもちろん、現在代表を務める北野さんが美容師や美容業界に強い想いがあるからこそスタッフが働きやすいと思える環境整備ができ、生涯働けるサロンを実現できているとインタビューを通して感じました。
後編ではスタッフが入社後6ヶ月の間、研修生として過ごすアカデミー「ロジスカットスクール」でトレーナーを務める栁田さんに登場いただき、仕事のやりがいなどについてお話をお聞きします。