表舞台の美容師「長山ゆうき」は渋谷に置いてきた。今は新たな人生を歩み始めたところ【AMBERGLEAM 長山友宇希さん】#2

ヘアサロンとアパレルショップを融合した「AMBERGLEAM(アンバーグリーム)」で、オーナー美容師とアパレルデザイナーを兼任している長山友宇希さん。独立する以前は、「長山ゆうき」として渋谷の人気店で活躍していました。

名前の表記を変えた理由をお聞きすると、「世の中に自分の名前を知ってもらいたいという思いがあり、平仮名の『ゆうき』でスタイリストになったんです。その思いはもう叶えられたと感じたので、親からもらった漢字の『友宇希』で再スタートしました」と教えてくれました。

今回の後編では、「AMBERGLEAM」として経験した大きな挑戦のお話や、お店にかける思い、今後の展望などをお聞きします。

お話を伺ったのは…
AMBERGLEAM Director/CEO 長山友宇希さん

2008年に美容学校を卒業後、池袋にある美容室に入社。2013年にL.O.G(ログ)の立ち上げに参加してスタイリストデビュー。特にメンズのお客様から高い支持を獲得して活躍し、2017年に新店舗L.O.G SHIBUYA(ログ シブヤ)の代表に就任。2021年から妻とともにアパレル事業も展開し、2024年にAMBERGLEAM hair(アンバーグリーム ヘア)のオーナーとして独立。

Instagram:@yuuki_nagayama
Instagram:@ambergleam_official

二足のわらじを履いて経験した、大きな挑戦と学び

「僕の人生、勢いです。勢いで進んで、失敗したら修正に入る。その繰り返し(笑)」(長山さん)

――前編で、アパレルブランド「AMBERGLEAM」はご夫婦で一緒に立ち上げたとお聞きしました。前サロンで美容師を続けながらファッション業界に飛び込んだわけですね。

そうですね。2021年にローンチして、そこから二足のわらじを履いたというか。右も左もわからない状態で商談に駆り出されましたし、洋服作りの工程から、さまざまな生地の肌触りや仕様の向き不向きなど、すべて一から学びました。今でも勉強している最中です。

――デザインに初めて関わったのはどんなものでしたか。

最初に作ったのはTシャツだったと思います。ちょうど妻が妊娠中だったので、赤ちゃんや子供、マタニティというのがひとつの大きな視点になっていて、洋服を作る上で一番念頭に置いていたことでしたね。生地からこだわり、敏感肌の子供でも、抱っこして肌に触れた時に嫌がらないような素材のTシャツを作りました。

――その頃はどのように美容師の仕事と両立していたんですか。

正直、うまく両立できていなかったと思います。朝から晩まで美容師として働いたあとにデザインの仕事をするので、睡眠不足や体調不良との戦いでしたし、アパレル業の方が忙しくなると日中に美容室に立てなくなる時もありました。

だから、その当時頑張ってくれていたL.O.G SHIBUYAのスタッフに対しては、感謝しかありません。

――そんな忙しさの中、「AMBERGLEAM」は2023年のニューヨークコレクションに出展されたそうですね。

ブランドを立ち上げる時から、海外のコレクションに出展することはひとつの目標でした。「ジェンダーレス」や「パートナーとシェアするファッション」をコンセプトにしているのですが、それも海外展開を視野に入れていたからです。今、ユニセックスブランドでも男女兼用というコンセプトで生まれている服は少なくて、レディースとメンズのプロダクトが分かれているブランドが多いんです。ちょっとそれだと面白くないなという思いもありました。

美容師になってからずっとつなげてきた人脈、妻の人脈、知り合ってきた人たちの総力をアパレルに注いだら、ありがたいことに認知度が爆発的に高まり、ブランド立ち上げから半年ぐらいでコレクションのお話が来たんですよ。何も知らなかったので、スカウトされたからタダで出られると思っていました(笑)。そんなわけはなく、どんなハイブランドでも有名ブランドでも、自分たちで資金を調達して出展費用に充てるんです。

かなり高額なのですが、「目の前にこんなに大きな夢の舞台があるんだから、やらないわけにはいかないでしょ!」という勢いで、銀行から融資を受けてコレクションのために投資しました。

――ブランドや長山さんにとって、コレクションはどんな経験になりましたか。

世界中のファッションが集まる祭典なのですごくインスピレーションを受けましたし、美容師としてもいろいろな方向性が見えてくるきっかけにもなりました

得るものが多かった一方で、代償も大きかったです。アパレル会社として物を売るために必要なたくさんの歯車があるわけですが、それをきちんと構築する前にポンっと海外に行ってしまって、会社内の歯車が全然噛み合わなかったんですよね。それを修正するための負担もありましたし、体力も必要でした。

世界を見ることも大事だし、洋服をデザインするだけでなく会社の仕組みをしっかり作ることも大事。多くの学びにつながる挑戦だったと思います

「成し遂げる」ことが大切。結果を出してから次のステージへ

「服飾の専門学校を出ているわけではないので、自ら『アパレルデザイナーです』と言うつもりはないんです」(長山さん)

――美容師とアパレルの仕事をするうえで、大切にしていることはありますか。

ちょっと語弊がありますが、洋服って作ろうと思えば誰でもできちゃうんですよね。例えば、Tシャツなどのありもののボディにオリジナルプリントをするとか。あとは販路やSNSの影響力があれば始められます。良くも悪くも、誰でもデザイナーと名乗れる時代なんです。そのため美容師でも他の職業の人でも、洋服のブランドを立ち上げたいという人は多いかもしれません。でも果たして、何かひとつの結果を出したあとに二足のわらじを履く決断をしているでしょうか?

僕は美容師として結果を出したという自負があり、成功する筋道のようなものがなんとなくわかります。日々をどういう風に過ごして、どういうモチベーションで仕事に取り組めばひとつの物事を成功させることができるのか。だから、新たな道にも踏み込むことができました。

自分が思う「成功したな」「結果を出したな」というところまで続けることが大切だと思いますね。何らかの結果を見るまでは先のビジョンも見えてこないし、ビジョンが見えないまま次のことに挑戦するのはナンセンスだなと。

――確かに、中途半端に二足のわらじを履くのはリスクが大きそうですね。

どちらの道も成功できずに諦めるという、最悪な結果になってしまうこともあります。今はいろんなものを簡単に学べる便利な時代なので、すぐにできた気になったり、成功した気になりやすいというのも落とし穴かなと思います。

――美容師として、長山さん自身の「成功」「結果」は何だったのでしょうか。

ンズスタイルの技術を極めた美容師として「長山ゆうき」という名前を確立できたことだと思います。さまざまな雑誌に掲載していただきましたし、数多くのセミナーも担当しました。多い時で1日25人くらいカットしていたので、売り上げの面でも自分が目指した美容師の姿になれました。29歳頃にそれを叶えられたのが、やっぱり貴重な経験になったなと思います。

もちろん、それがいいのか悪いのかはわからないですよ。お客様を1時間も2時間も待たせるとか、食事も取らずに朝から晩まで働いて月に何百万も売り上げを作るとか、そういうことが正解だとは言いません。僕が若い頃はカリスマ美容師ブーム時代で、その時にこうなりたいと思い描いた美容師像がありました。それを「成し遂げた」ということがすごく重要だと思うんです[/underline]。

AMBERGLEAMという店は、自分の人生を凝縮した場所

「ファションもヘアスタイルも楽しんで、ライフスタイルをより充実したものに」という思いが込められた店舗。店内で撮影されたシーズンごとのコレクションブック(右上写真)もおしゃれ。

――2024年の7月、用賀に「AMBERGLEAM」をオープンされましたが、どんな思いで独立に踏み切ったのでしょうか。

自分の年齢や体力的に、渋谷や原宿でトレンド最前線を走る美容師でありたいという気持ちがなくなってきてしまったんですよね。昔から担当させてもらっているお客様だけでも十分、1日の予約や1ヶ月の予約が埋まる状況で、美容師としてそれ以上の幸せはありません。若い頃から通って下さった方達がパパやママになって、彼らの子供の髪も切らせてもらって。

だから、表舞台に立ってバリバリ活躍する美容師像は、渋谷に置いていこうと思ったんです

――それで選んだのが用賀という街?

用賀は閑静な住宅街で、子育てをするのにも最適。何より自分自身が住み慣れた街なんです。特に子供が生まれてからは、家族のそばで働きたいという気持ちが大きくなり、こぢんまりとしたサロンでお客様一人一人と向き合える美容師になるという目標ができました

今、席数は5つでシャンプー台は2つ、スタッフは4人だけの美容室を作れて、すごく穏やかな状態で楽しく美容師をやれています。

アパレルの方はまだ立ち上げ3年ですし、そちらの忙しさに対応できるような場所で働きたいという思いもありました。事務所や会議室があって、そこで商談ができて、僕のお客様にも髪を切ったあとに洋服を紹介できる。そういうアトリエのような空間が、僕の人生に絶対必要だなと思いました。

――ヘアサロンとアパレルショップを併設した理由がそこにあるんですね。

二足のわらじとは言いつつ、全部つながってくるので、そういう場所を作れたことですごく生きやすいし働きやすくなりました。「AMBERGLEAM」という店は、自分の人生を凝縮した場所というイメージです

――これまでさまざまな働き方をされたと思いますが、長山さんにとって「働く」ということは?

年代によって働くことの意味は変わってくると思います。僕の中で20代の「働く」は、「自分が勝つ」ことであり、周囲を圧倒するくらいの気迫で自分の存在をアピールする時間でした。

30代の「働く」は、20代の時の失敗も成功も生かして、より意味のある時間を作ること。年齢を重ねることで一日の時間の大切さが変わってくるので、より効率的に働くことが大事だと思います。

――あと数年で40代に入りますが、その時の「働く」はどう変わりそうでしょうか。

会社を経営している身なので今もすでにそうなのですが、自分のために働くというよりは、社員の子達の美容師人生をサポートするために働きたいと思いますね。地元の群馬にも美容室を持っているので、もちろんそこのスタッフ達のことも。

――東京と地元の両方に拠点があって、今後も幅広く展開していけそうですね。

そうなんですよ。今考えているのは、地方での展開です。全国各地のセレクトショップで「AMBERGLEAM」というブランドを取り扱っていただいているので、その近くに「AMBERGLEAM hair」を出店できたらと思っています。地域の美容専門学校としっかりつながって、セレクトショップとも協力し合いながら、美容室のブランディングをできたらいいなと。東京からおしゃれなカルチャーを発信して、それぞれの地域に届けたいと思っています

これまでだったら、都内にたくさん店舗を出せばいいと思っていたものが、今はいろいろと状況が変わってきています。その中で、アパレルブランドを通して地方に目を向けたら、安定していてすごくいい環境があった。そういういい環境に自分達の仕事を広げていけたらいいですよね。

長山さんの成功の秘訣

1. 人との縁やつながりを大切にする

2. 失敗と修正を繰り返して成長する

3. 一度始めたことは結果が出るまで続ける

撮影/高嶋佳代
取材・文/井上菜々子


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AMBERGLEAM
住所:東京都世田谷区用賀2-41-11 平成Bldg Youga 路面店
電話:080-4915-1098

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