『サービス』と『おもてなし』は、違います!【茶道と着物に学ぶ、おもてなしの心 #1】
忙しすぎたり、慣れすぎたりで、ついおざなりの仕事体勢になってはいませんか?
お客さまを迎えるサロンワークは、仕事そのものはもちろんのこと、お客さまが居心地良く時を過ごせて、また次も来たいと思ってくださることがとても大切。それは、言わば“おもてなし”が基本的にできているかどうかに関わってきます。
そこで、今回ご紹介したいのは、茶道と着物という和の世界に学ぶ“おもてなしの心”です。
日本人ならではのこの美徳について、「煎茶道 松香庵流明香庵」の中野静詠さんにお話を伺いました。きっとサロンでのお客さまの対応に役立つはずです!
日本人ならではの、心に響くおもてなし
最近、“おもてなし”という言葉をよく耳にします。でも、この“おもてなし”の本当の意味を知っていますか?
“おもてなし”は、平安、室町時代に発祥した茶の湯から始まったと言われています。
もてなすという言葉は、1.客を取り扱うこと。待遇。2.食事や茶菓のご馳走。饗応・3.身に備わったものごし。身のこなし。4.とりはからい。処置。と辞書にはあります。
また、その語源は「ものを持って成し遂げる」、そしてもうひとつの語源は「表裏なし」。これは表裏のない心でお客様をお迎えするという意味です。
“おもてなし”はサービスと思っている人も多いようですが、サービスは英語で奉仕するという意味でお客様が主体。そして“おもてなし”は、じつはお客様を迎えるこちら側が主体となる言葉なのです。
「茶道ではお客様をお迎えする際には心を込めて準備をしますが、その準備する姿や行為はお客様には一切見せることがありません。それは余計な気を遣わせないという配慮からです。そして、心を込めて準備するしつらいやご馳走などに表現することが、茶道でいう本来の“おもてなし”です。
お客様が訪れた際に、四季に寄り添いながら、その場、その時、その一瞬を優雅に感じていただき楽しんでいただく、これこそが日本人ならではの気配り、心配りなのです。
つまり、“おもてなし”とは、どうしたらその方に喜んでいただけるか、どうしたらその方に満足していただけるかを常に考えて行動することです。皆に同じサービスをするのは、“おもてなし”とはいえません。お客様との一期一会を大切にし、相手の立場に立った丁寧な応対をすることこそが、最高の“おもてなし”ではないでしょうか」と中野さん。
一杯のお茶が人の心を変える!
「たった一杯のお茶でも人の心を変えることができます」と中野さんはおっしゃいます。
茶道は、ただ単に美味しいお茶の飲み方を説くのではなく、茶室や庭、空間、茶道具、会席料理や和菓子、さらにお客様を心地よくもてなすための作法や着物での振る舞いなどが、見事に融合した日本の伝統文化です。
なかでも“煎茶道”は明治から昭和にかけて重んじられた茶道。その作法やお茶の淹れ方、客人をお迎えする時の準備や心には、日本人独特のおもてなしの方法がいっぱい詰め込まれています。
「煎茶道には、玉露という最高級のお茶をたてる『玉露点前(ルビ ぎょくろてまえ)』という作法があります。滋味豊かで香気のある玉露の旨みをいただく作法です。
この点前(ルビ てまえ)は、茶葉に含まれる渋みタンニンを極力入れないように、テアニンというたんぱく質の旨みだけを抽出します。湯瓶で湯気がほうほうと吹き出すまで湯を沸かし、湯瓶を火からおろし、頃合いを見計らい、茶葉が入った急須に湯温を調節しながら、ゆっくりゆっくり注いでいきます。蜘蛛の糸のように細く繊細に。そして急須に注がれた湯が茶葉に馴染むのを待ってから小さな白い磁器の茶碗へ、一滴二滴と落としていきます。この滴こそが玉露の旨みなのです。
その滴を舌の上にのせて味わっていただきますが、初めてこのもてなしを受けた方は、その少なさにびっくりされます。さらに舌の上にその一滴をのせた瞬間、口の中に広がる茶の香りと甘みが全身を駆け巡ることにびっくりされます。
玉露点前を体験されると玉露の本当の味に驚かれる方が多いんです。『いままで飲んでいたお茶って何だったのかしら。お茶の概念が変わったわ』とおっしゃる方がたくさんいらっしゃいます」と中野さん。
お茶をいただくまでに15分程の時間を要しますが、その間こそが究極の旨みを引き出す時間なのです。玉露の旨みの極みが生まれる間(ま)に付き合う世界が煎茶道なのです。そして、その一滴にどれだけの味わいが出せるかが技なのです。
一滴の味わいにこだわる茶人がいることを知ってみると、さり気なく飲んでいたお茶にも“おもてなし”の心があることを知らされます。
一息つける待合の“おもてなし”
「茶道には『一息つける待合のもてなし』というのがあります。それは茶事そのものの前に、少し喉を潤して心を落ち着けていただくために、白湯や香煎をお出しするというもの。
つまり、順番を待っている人たちにも気遣いすることが、茶道の“おもてなし”。主催する側は、白湯や香煎をお出しすることでお客様をお迎えしているという気持ちを表現しているのです。
サロンでも施術の合間合間にお客さまにお茶や紅茶、コーヒーをお出ししているでしょうが、たとえば季節に合わせてシソ、柚子、百合、桜などの葉や花や実や皮を使った香煎をお出ししてみてはいかがでしょう。一般的には香煎とは米・麦などの穀類を煎ってひいた粉に、シソ・陳皮などを加えたものを白湯にといたものですが、現代ではアレンジした香煎があります。「これは何?」と、会話が弾むきっかけにもなります」と中野さん。
取材・文・写真/ORCA
Profile
煎茶道 松香庵流教授 中野静詠
煎茶道松香庵流 鎌倉教室「明香庵」を開催。(財)民族衣装文化普及協会認定講師。日本茶インストラクター。古流いけばな教授。
高校生の時、お抹茶を習っていたが、初めてお呼ばれした煎茶点前でお道具の愛らしさに惹かれ、さらに煎茶の美味しさに感動して煎茶道を始める。この道35年。現在は鎌倉「明香庵」にて煎茶体験・着付け教室を開催。
問い合わせ:鎌倉 明香庵
080-6668-3998
https://peraichi.com/landing_pages/view/kamakurameikouan
Information
衣装協力
京都 伊と彦 鎌倉店
http://www.kamakura-itohiko.jp
鎌倉レンタル着物 都
http://www.kimono-miyako.jp/
着物スタイリスト伊藤好江さんのお店。縁あって呉服屋さんに嫁ぎ、子育てをしながら着物のことを少しずつ学んだそうです。日本人の心ともいうべき着物を一人でも多くの方に着ていただきたいと、京都から鎌倉へ。「四季の移ろいをまとって、普段着の和を楽しんで欲しいです」と伊藤さん。
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