季節を身近にする“和のしつらい”レッスン!【茶道と着物に学ぶ、おもてなしの心 #2】

忙しすぎたり、慣れすぎたりで、ついおざなりの仕事体勢になってはいませんか?

お客さまを迎えるサロンワークは、仕事そのものはもちろんのこと、お客さまが居心地良く時を過ごせて、また次も来たいと思ってくださることがとても大切。それは、言わば“おもてなし”が基本的にできているかどうかに関わってきます。

そこで、今回ご紹介したいのは、茶道と着物という和の世界に学ぶ“おもてなし術”です。

日本の節句や四季の風物詩などをお部屋の飾りつけに取り入れる“和のしつらい”について「煎茶道 松香庵流明香庵」の中野静詠さんにお話を伺いました。

サロンでのちょっとした季節の演出は、きっとお客さまとの会話を弾ませてくれることでしょう。

日本人ならではの心に響く“和のしつらい”

「写真のお花は庭に咲いている紫式部とススキを活けました。これは秋の草花ですが、そんなお花があるだけで秋を感じさせてくれるのです。また、紅葉した落ち葉をさりげなく置くだけでも秋の演出になります。

茶道と着物に学ぶ、おもてなしの心
茶道と着物に学ぶ、おもてなしの心

このように床の間のお花と掛け軸、お香立てを秋の使用のものに変えるだけで、部屋のしつらいが変わり、心も秋の心に変われるのです。

茶道と着物に学ぶ、おもてなしの心

夏でお話しするとわかりやすいかもしれませんね。夏は襖や障子を簀(す)戸(ど)(竹を荒くあんで作った枝折戸)に替え、御簾をかけ、籐のあじろなどを敷いて涼しげな印象に部屋のしつらえをします。

冬は段通(だんつう)という敷物用の織物を敷いたり、床の間の軸や棚の置物を冬の風物詩に変えたり、火鉢を置いたりして、部屋全体を温かい雰囲気に変化させます。また屏風などを行事や季節によって替え、昔の人はその季節、その季節を思いっきり楽しむための演出を欠かしませんでした。

茶道と着物に学ぶ、おもてなしの心

しかし最近では生活様式がすっかり変わってしまい、こうしたことがほとんど行われなくなってしまいました」と中野さんは話します。

忘れられつつある和風住宅の良さ、そしてそこに芽生えた暮らしの知恵や素敵な暮らし方、そして日本の年中行事や節句を再認識することは、お客さまとの話題作りにも役立つはずです。

日本人の精神的美意識を豊かさとして捉えられるようになってきた今、日本人が育んだ知恵と伝統を学んでみてはいかがでしょう。

季節や行事・節句を取り入れた“和のしつらい”を、サロン演出の参考にしてみてはいかがでしょう。

半径30㎝の和の世界

お部屋の“しつらい”を変えるときに、全体のイメージを変えるのはとても大変ですので、節句や季節ごとに入り口やサロンの飾り棚などの模様替えをしてみてはいかがでしょう。半径30㎝でもその世界を作るだけで、印象はガラリと変わります。その意味を知って、お客さまの心に響く演出の参考にしてみてください。

節句の演出

「節句は、中国の陰陽五行説に由来して定着した日本の暦における、伝統的な年中行事を行う季節の節目となる日をいいます。季節の節目に、無病息災、豊作、子孫繁栄などを願い、お供え物をしたり、邪気を祓う行事で『節供(せっく)』ともいわれているんです。

日本の宮廷には年間にわたりいろいろな節句があったそうですが、そのうちの5つを江戸時代に幕府が公の行事として定めたそうです。それが人日の節句(じんじつ・1月7日)、上巳の節句(じょうし・3月3日)、端午の節句(たんご・5月5日)、七夕の節句(たなばた・7月7日)、重陽の節句(ちょうよう・9月9日)の5つで、五節句と言われるようになったそうです」と中野さん。

1月7日は春の七草の生命力を食べて邪気を払い健康を願う七草の節句。

茶道と着物に学ぶ、おもてなしの心
桃の節句

3月3日は、以前は穢れを祓うものでしたが、江戸時代のころから女の子を祝う節句に変わり桃の節句というようになったそうです。

茶道と着物に学ぶ、おもてなしの心
菖蒲の節句

5月5日は強い香気で厄を祓うため菖蒲の節句と言われています。また菖蒲湯に入ることで無病息災を願います。そして勇ましい飾りをして男の子の誕生と成長を祝う尚武の節句でもあります。

7月7日は七夕は願い事を書いた色とりどりの短冊や飾りを笹の葉につるし星にお願いをする習慣がありますが、当初は夏に、選ばれた乙女が着物を織って棚にそなえ、神さまを迎えて秋の豊作を祈ったり人々のけがれをはらうという行事でした。

9月9日は重陽の節句、菊の節句とも言われています。これは菊に長寿を祈る日です。陽(奇数)が重なる日そして、奇数の中でも一番大きな数字という意味で重陽といわれています。日本では奈良時代から宮中や寺院で菊を観賞する宴が行われているそうです。

これらの日にまつわる小物などでコーナーを飾りつけてみてはいかがでしょう。この5つの節句だけでも行ってみるとお客さまの反応は違うかもしれませんね。

季節の演出

「デパートやショップなど見てみても、頻繁に店頭ディスプレイが変更されています。これは季節感を出すことで人の心を動かすことができるからです。春夏秋冬の演出だけでなく、わずかな気温差を取り込んで梅春、初夏、晩秋などというようにショップ印象を変えることで、お客様の心をつかむことができるんです」と中野さん。

茶道と着物に学ぶ、おもてなしの心
茶道と着物に学ぶ、おもてなしの心
茶道と着物に学ぶ、おもてなしの心

「茶道では、お茶を点てる側は、お客さまの通る露地や庭を整え、茶室の中に季節の“しつらい”を施し、万全の用意でお客さまをお迎えします。

そしてそこには、お迎えする側とお招きしたお客さまの間に通う人間的な心の交流が何よりも大切にされているのです。このような精神こそ日本人ならではのものです。

茶道における『もてなし』と『しつらい』は日本人の心を形に表したものだと思います。そんな心でお客様をお迎えすれば、きっと素敵な関係が実現するのでは」と中野さんはおっしゃいます。

取材・文・写真/ORCA

Profile

中野静詠さん

煎茶道 松香庵流教授 中野静詠

煎茶道松香庵流 鎌倉教室「明香庵」を開催。(財)民族衣装文化普及協会認定講師。日本茶インストラクター。古流いけばな教授。
高校生の時、お抹茶を習っていたが、初めてお呼ばれした煎茶点前でお道具の愛らしさに惹かれ、さらに煎茶の美味しさに感動して煎茶道を始める。この道35年。現在は鎌倉「明香庵」にて煎茶体験・着付け教室を開催。

問い合わせ:鎌倉 明香庵
080-6668-3998
https://peraichi.com/landing_pages/view/kamakurameikouan

Information

茶道と着物に学ぶ、おもてなしの心
茶道と着物に学ぶ、おもてなしの心

衣装協力

京都 伊と彦 鎌倉店
http://www.kamakura-itohiko.jp
鎌倉レンタル着物 都
http://www.kimono-miyako.jp/

着物スタイリスト伊藤好江さんのお店。縁あって呉服屋さんに嫁ぎ、子育てをしながら着物のことを少しずつ学んだそうです。日本人の心ともいうべき着物を一人でも多くの方に着ていただきたいと、京都から鎌倉へ。「四季の移ろいをまとって、普段着の和を楽しんで欲しいです」と伊藤さん。

『サービス』と『おもてなし』は、違います!【茶道と着物に学ぶ、おもてなしの心 #1】>>

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