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『独立時に顧客カードの持ち出しはOK?NG?』サロンのトラブルを知る!

お客さまにもスタッフにも愛されるサロンであるためには、法律の知識が欠かせません。今回は、実際にあった裁判例から学び、愛されサロンへの道を探ります。
テーマは「独立時に顧客カードを持ち出して営業活動はOK?NG?」です。

事件概要
ヘアサロンの店舗を統括していた総店長が、退職・独立時にカウンター裏に輪ゴムで留めて保管してあった顧客カード〈記載されていた情報:氏名・住所・電話番号・メールアドレス・職業・出身地(顧客が記載)/来店日・整髪等の内容・育毛剤使用の有無・料金・毛髪や頭皮の特徴(担当者が記載)〉を持ち出し、新店舗の営業活動に使用。
ヘアサロンのオーナーが、その総店長に対し、売上が下がったとして、損害賠償を請求した。
判決内容
下がった売上の一部について損害賠償請求が認められた。
トラブルを回避し、愛されサロンへ

まず問題となるのは、同業者間の不正な競争を防止する「不正競争防止法」です。この法律では、「営業秘密」を不正な方法で取得したり、第三者に開示したり、利用したりする行為を禁止しています。

顧客カードは「営業秘密」にあたるのでしょうか。
営業秘密とみなされるには、次の3要件を満たす必要があります。

  • 厳重に管理されている(秘密管理性)
  • その企業にとって有用な情報である(有用性)
  • 他に知られていない(非公知性)

このヘアサロンでは、顧客カードを輪ゴムで留めた状態でカウンター裏に保管していたため、秘密管理性の要件を満たさないと判断され、「営業秘密」とはみなされませんでした。

では、なぜ損害賠償請求が認められたのでしょうか?
裁判例では、顧客カードを無断で持ち出し、たとえ短期間であってもそれを使って営業をかけたことが、「社会通念上相当ではない行為」であり、不法行為であると判断されました。「社会通念上相当ではない行為」とは、つまり、やり過ぎた行為ということです。不正競争防止法の「営業秘密」にはあたらないとしても、やり過ぎた行為は損賠賠償の対象になります。

会社の退職時には、主に2つの義務が問題になります。
ひとつは、独立して同じ業種をやることを禁止する「競業避止義務」。もうひとつは、元の会社の情報を持ちだすことを禁止する「秘密保持義務」です。

競業避止義務は、独立した者が当然に負う義務ではないので、契約書や退職する際の誓約書などで具体的に定められていなければ問題になりません。

一方秘密保持義務の方は、具体的な取り決めがなくても一般的に会社の情報を不正に利用しないという意味で労働者は義務を負っています。

サロンにおける強み、ノウハウといったものは法的保護に値するものです。もし、明確にそのようなものが存在しているのであれば、それはきちんと契約書に書くなりして、明確にしておくべきです。

管理の方法としては、ファイルに「マル秘」と書いて他人の手の届かない場所に保管したり、パソコンで保管するなら誰でもがアクセスできる状態にせずにロックをかけたりしましょう。

顧客カードなどの個人情報は、個人情報保護の観点からも保管に細心の注意を払うべきです。今回のように、独立時に持ち出されてしまうことや、何者かによって情報が流失してしまうことは絶対に避ける必要があるからです。住所や氏名、年齢や職業といった情報は、お客様の大切な情報であり、それを預かっているという当たり前の意識を持つことが重要です。

理美容業界においては、お客さまはお店ではなく、担当者につく性質を有していることは否定し難いでしょう。この裁判例においても、総店長が辞めることで必然的に一定程度、離れてしまうお客さんがいて、その分、売上が落ちることは前提となっています。そのため、下がった売上すべてを損害とはしていないのです。

トラブルを回避し、愛されサロンへ

美容師や理容師のみなさんの中には、独立開業を一つの夢としている方が多くいらっしゃるでしょう。ただ、独立開業後に顧客がつくかどうかということは、大きな心配ですね。「これまで自分を指名してくれていたお客さまは自分のお客さまだ!」という思いを強めてしまうかもしれません。しかし、顧客情報はサロンの財産であることを忘れないでください。また、オーナー側は、従業員の巣立ちを気持ち良く応援するためにも、法律上必要最低限の取り決めを事前に整えておきましょう。

インタビュー対象者

プロフィール

弁護士 大山 京

渋谷六本木通り法律事務所
東京都渋谷区渋谷3丁目6番2号エクラート渋谷ビル8階
TEL : 03-6868-3923

1979年横浜市出生。青山学院大学卒業
2015年 渋谷六本木通り法律事務所を開設し、独立。
民事事件・刑事事件のほか知的財産事件や医療事件まで幅広く業務を行っている。

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