北川毅 interview:トップ営業マンからの転進。心に決めた「鍼灸師」の道へ進む
名前を聞いたら驚くような世界の名だたるVIPたちから厚い信頼を寄せられる鍼灸師・北川先生。それまで治療技術だった「鍼灸」を美容で見事に定着させたのは、確かな技術に加えて「美と健康は表裏一体」という信念があったからに他なりません。鍼灸師になったきっかけから鍼灸業界のこれからまで、たっぷりとお伺いしました。
サービス業への憧れから、スイスへ留学
「小学生の頃は、医者の伝記ばかりを読んでいました。アルベルト・シュヴァイツァーとかね。『大きくなったらお医者さんになる!』なんて言っていたらしいのですが、成長するにつれて医者というのはそう簡単になれるものじゃないってわかってきて。
だんだんそれは意識の深いところへ沈んでいき、高校生の頃は飲食のバイトが楽しくなって、サービス業もいいな、と思い始めました。どうせやるなら一流のサービスがいい、将来はホテルマンかホテルのシェフになりたいという夢を持ちました。まだまだ全然世間知らずの頃です(笑)。
そんな憧れのままに、スイスへ語学留学に行きました。大学生の頃です。当時は7ヵ月学校に通うとアルバイトができるビザを発給してもらえたので、チューリッヒで一番格付けの高いホテルを紹介してもらって、働き始めました。言葉はまだおぼつかなかったので、皿洗いやワイン倉庫の番などの裏方でしたが、楽しかったですねぇ」
気がついたら鍼灸学校の試験場にいた(笑)
「僕は欧米のサービスに憧れてスイスへ行ったのだけど、スイスの人たちは日本に非常に興味を持っていて、僕に日本のことを盛んに聞くんです。空手を教えてくれとか日本のテクノロジーはすごいね! とか皆よく知ってるんですよ。
ところが逆に僕は日本のことをほとんど知らなかった。もし今後世界を相手にするとしたら、西洋の真似をするんじゃなくて日本人にしかできないことで生きるべきなんだ、ということを強烈に意識するようになって帰国しました。
しかし留学中は世界を強く意識していても、日本へ戻ったら日常の現実が待っています。そして結局は普通の大学生として普通に就職活動して、一般企業へ入社し、営業職のサラリーマンになりました。成績は良かったんですよ。社長表彰ももらいました。もしかしたら海外支社へ異動もできるかも、と淡い希望を抱いて海外進出をしている企業へ就職したんですが、サラリーマン社会で個人の希望がかなえられることはほとんどありません(笑)。
ああ、これはここで一生を終えるのか、と先が見えてきてしまったように思えて、いつの間にかフラストレーションが貯まっていたんでしょうね、気がついたら鍼灸専門学校の試験を受けていたんです(笑)」
覚悟が決まった頃に生涯の伴侶と出会う
「そんな非行に走ったみたいな受験だったので(笑)、絶対に合格しないだろうと思っていたら、合格通知が来てしまったんです。上司に相談したら『頭を冷やして一週間後にもう一度話し合おう』と言われ、それから連休の3日間に部屋にこもってずっと自問自答していました。
それまでいわば流されるように生きてきたので、その時に生まれて初めてじっくり自分に向き合いました。自分はこれをやるのか? 一生の仕事とするのか? そうして考えて自分で『やる』と答えを出しました。それからは今日まで迷ったことはないし今後もないと思います。
鍼灸の学校に入ってから今まで、辞めたいと思ったことは一度もない。人間は、覚悟が決まると強いんですよ。
鍼灸学生の時に将来妻となる人と出会うのですが、安定した企業勤めを辞めて鍼灸の勉強を始めたことに対して『それ、カッコいいね!』って言ってくれたんですよ(笑)。彼女は、僕が開業したら受付などの手伝いをしようと、雑用の勉強のつもりでエステで働き始めたところ、なんとその店で人気のエステティシャンになってしまったんです。
その頃から、将来は二人で美容と健康に関する幅広い需要に応えられる施設を作る、ということが目標になりました」
『美容なんて志が低い』から一転、大ブームに
「妻が美容の視点から、僕が治療の視点から話をすると、美容と健康は繋がっているということが本当によくわかります。例えば『肌がきれい』を医学的に言いかえれば『顔面部局所の皮膚の健康状態が良好である』ということと同じです。健康だからこそ美しい。
それと同時期に中国で中医美容というものが流行ってきました。中医学には“健美”という言葉があります。これは『健康を基礎として成立する人間の自然美』という意味です。人間の生理機能はいろいろなことを通じて身体の外側に現れる、という昔からの東洋美学の考え方を知るのは本当に面白くて、夢中で勉強しました。
でも日本の鍼灸業界は保守的なところがあって、最初はなかなか理解してもらえずに、治療家が美容なんて志が低いとかチャラい鍼灸師とかいろいろなことを言われました(笑)。
鍼灸の業界誌に企画を持ち込んだりしても全く取り合ってもらえませんでしたが、ある時若い編集さんの立案により、鍼関係の月刊誌で美容鍼灸の特集が組まれ、僕も原稿を書きました。それがあっという間に売れてしまったんです。実は興味がある鍼灸師が多かったのではないかという話になり、引き続いて臨時増刊号が刊行され、それも瞬時に完売してしまいました」
『二指推鍼法』の誕生
「その頃は僕の施術もまだ今のように大量の鍼を打つ手法ではなかったんです。きっかけは、仲良くなった美容外科の先生と半顔勝負をしたこと。顔を半分ずつレーザーと鍼で施術をし、その後比較検討会を行ったのですが、美容外科の先生に『レーザーの機械は面で攻めますが、鍼灸は点で攻めるんですね』と言われました。それでピカっとひらめいたんです。もともと鍼は深さや多さを自由に変えられる強みを持っていますから、素速く数多くの針を打って『面』にしたら、今よりももっと効果が高いのではないかという着想を得たんですね。
さらに、日本の高度な技術によって製造された素晴らしい鍼と出会って、多数の鍼を打つ『二指推鍼法』を編み出しました。僕が教えた人たちは皆、10分で100本ほど打ちます。これは世界中どこにもない、オリジナル手法なんですよ」
現代社会のニーズに応える鍼灸を
「とはいえ、開業当初の集客には相当苦労しました。妻のエステの方が人気があって、鍼灸院にはなかなかお客さまが来てくれなかったんです。鍼灸師の方が国家資格を持っていて施術は確実なはずなのに、世の中ではエステとかスパの方が人気がある。それはなぜかと考えると、お客さまは身体が軽くなることに加えて『癒し』や『くつろぎ』をも求めているんですね。
鍼灸の歴史をひも解くと、紀元前なんですよ。3000年前も昔に生きていた人たちは、農業とか狩りとか、肉体労働が多かったでしょう。その頃は頭を使う作業ってそんなになかったと思うんです。ところが、今やパソコンは一人一台、プライベートではスマホ。訴えられる症状は肩から上とか背中から腰とかばかりです。僕が資格を取った頃と比べても、かなり変化をしています。鍼灸も昔ながらのやり方だけではなく、そういう現代社会のニーズに応える工夫が必要なのだろうと思います。その一環が美容鍼灸なのです。
講演などでも『現代社会における新しい鍼灸の需要と可能性』というテーマでお話をさせていただいていて、美容もそのひとつ。鍼灸はこれからますます必要とされる、ニーズがどんどん広がっていく分野だと確信しています」
日本発、世界の“SHINKYU”へ。
「日本の鍼灸には、今や世界中から注目が集まっています。僕は時々タイにあるアジア最高峰のヘルスリゾートに招聘されて期間限定で日本発の鍼灸をしています。200種類以上のトリートメントを用意しているその施設でも、最も人気があるメニューの1つはなんと日本の鍼灸です。様々な健康法や美容法を体験している世界のVIPたちが、圧倒的に効果があることを認めている訳です。また、昨年はバルセロナで講習会を行ったり、ミラノコレクションに呼ばれて関係者の皆さんに鍼を打ったりもしました。僕が若い頃に『海外で勝負するなら、日本人しかできないことをすべき』と思ったことが、漸く実現されたと思いました。
鍼はもともと中国発祥ですが、海外では日本人の鍼灸師はきめ細かく丁寧な施術で桁違いに人気が高い。いつかは“Sushi”(寿司)みたいに”Shinkyu”(鍼灸)だって世界語にしたい!(笑)。“Shinkyu from Japan to the world!”ですね」
これからますます広がる鍼灸の世界
「技術職は何でもそうですが、簡単にはいかないものです。技術を磨く努力はもちろんのこと、常に利用者の立場に立って物事を考えられる人じゃないと難しい。歴史があり、国家資格もあるから忘れがちですが、鍼灸もサービス業ですから。
でも、可能性はすごくある業界ですよ。なぜ今、鍼灸がこんなに注目されているかというと、日本より先に欧米で西洋医学に対する医療不信が起きているからです。できる限り病院に行きたくない、薬は飲みたくないという人が増えている。いずれは日本もそうなるでしょう。すると、メスや薬剤を使わない鍼灸の需要が増えてくる可能性は極めて高い。美容にも、ストレス緩和にも、そして身体の不調を調えることもできる。僕が提唱している健康美容鍼灸や次世代実践鍼灸に対する需要も益々高まっていて、今年は箱根の最高級旅館である「強羅花壇」さんや東京最高峰のホテル「ホテル椿山荘東京」さんのスパにおいても施術の提供を展開する予定です。
また、そのために随時明るくやる気のある有能な人材を募っています。鍼灸はもちろん医療なのですが、美容・健康の維持増進を目的とする予防医学、スポーツ医学など幅広い需要に対応できる技術です。近い将来東京オリンピックもありますから、トレーナーとしての需要も多いでしょう。鍼灸師を目指す人は、それぞれに自分なりのテーマや得意分野を見つけ、その需要に対して着実に応えられるだけの知識と技術を身に付け、鍼灸の素晴らしさをもっともっと世に広めていって欲しいと思います。そして、それぞれの分野で、世のため人のため、世界のために活躍してくれることを願っています」
Profile
北川 毅(きたがわ たけし)さん
一般社団法人健康美容鍼灸協会理事長
一般社団法人日本美容鍼灸協会理事長
公益社団法人全日本鍼灸マッサージ師会スパ事業委員会委員 他
日本に「美容鍼灸」というコンセプトを提唱し、定着させた第一人者。東洋医学の理論と手法を基盤に、独自の発想と手法を加えた北川式健康美容鍼灸は“究極のエイジングケア”とも評され、世界中のセレブから熱い視線を注がれている。スパ経営、講演会や講習会など後進の育成にも力を注いでいる。関連書籍・DVDなど多数。
一般社団法人健康美容鍼灸協会:http://www.hhbsa.org
Company
東方健美
北川先生が統括院長を務める鍼灸による健康と美容の施設。
東洋の伝統療法のひとつ『鍼灸』の理論と手法を用い、健やかに輝く美しさを呼び醒ます「健康美容鍼灸」を実践する。
美容鍼灸ばかりでなく、肩コリ・眼精疲労などにおすすめの「鍼灸治療」、ツボを刺激するオールハンドの「経穴美顔術」などのコースもあり、さまざまな不調に対応してくれる。
東京本院の他、名古屋栄院も有。
東京都港区東麻布3-8-10 バーリータワーズ10F
TEL:03-3585-2511
HP:http://www.biyoshinkyu.net/
北川さんの書籍情報はこちら:http://www.yojospa.com/books.html
お灸女子1年生
北川先生による初心者のためのお灸本。女性に多い美と健康の悩み別に、効果の高い経穴とお灸法を紹介。
可愛いイラストによる解説で、お灸が初めての人でもわかりやすいと好評の一冊。
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