自分の可能性を信じて進んだ先にあったのは、本当に大好きな仕事 私の履歴書 【鍼灸マッサージ師 岡咲ともこさん】#2
神奈川県横浜市の関内・馬車道の鍼灸・整体のサロンにて、日本鍼・中国鍼といった鍼灸や整体、指圧マッサージを通じて訪れる人々を癒やしている岡咲ともこさん。
23歳で渡米してから指圧師のアルバイトを通じて鍼灸と出会い、アメリカ・ニューヨーク州にある医療系の専門学校で鍼灸(中国鍼)の技術とそのライセンスを会得。現地にある複数の治療院でキャリアを重ねた後、高校生の頃から憧れていたという横浜に移住するために帰国を決意したところまでを、前編でお伝えしました。
後編では、憧れの横浜暮らしが始まってからサロンを構えるに至るまでの経緯や、日本と海外における業界や環境にまつわる違い、そして岡咲さんの仕事観などにフォーカスしていきます。
ついに、憧れていた横浜暮らしをスタート!

――帰国した後は、横浜へ?
実は、本格的に帰国する直前の2019年12月に一時帰国しています。帰国後に職に困らないよう、勤め先を探しに来ました。その際に面接に行った中華街にある鍼灸・マッサージの治療院で、お店の方に私の技術力を高く評価していただけたんです。その上で「それほどの技術があるなら、開業した方がいい」とまで言われまして…。その道は全く考えていなかったので、目から鱗でした。
ひょんな時に、実業家である姉の知人にこの話をしたところ、開業をサポートしてくださることになりまして。その方が経営する会社に所属しながら、事業展開の一環として鍼灸・整体のサロンを開業し、そちらの運営を任されることになったんです。
――今のようにご自身のお店を構えることとなったのは、そういったきっかけや経緯があったのですね。
帰国して間もない私としては、ありがたいご縁とお話でした。
しかし、アメリカで取得したライセンスは日本で適用することができなかったため、国内の専門学校で再度学び直す必要がありました。そこで、帰国した翌年から「呉竹鍼灸柔整専門学校(現:横浜呉竹医療専門学校)」に入学。日本鍼の修得とライセンスの取得に励むこととなりました。
帰国して実感。鍼灸・マッサージ業界や環境を取り巻く日本とアメリカとの違い

――再び学校に通い直すこととなったのですね。大変ではありませんでしたか…?
思っていたよりも大変でしたね。アメリカで25年ほど生活した後だったことから日本へのカルチャーショックも感じつつ、厳格な日本の教育の場に戸惑うこともありました。
アメリカの教育は、学生のうちから「どんな施術者でありたいか」といったことを自分の頭で考えさせるような、より実践的な授業が多かったんです。日本の教育ではまず国家資格の取得を優先しているためなのか、より知識面を重んじているように感じました。
また、日本で学生生活を過ごすうちに見えてきたのは、専門学校在籍時から業界のネットワークにしっかりと入り込む必要があるということ。そのため授業の合間を縫って、いろんな先生たちと繋がる事を常に意識していました。
――日本とアメリカ・ニューヨークにおいて、学業の面以外にも鍼灸マッサージ師としての働き方や業界のことについて、違いを実感されたことなどはありますか?
日本の鍼灸では「鍼灸施術=痛みを改善」といったような、主にフィジカル面に焦点を当てていると感じています。そんな背景からか、患者様ご自身が施術に関して意見を話されることはあまり多くなく、我々プロフェッショナルにお任せされている印象がありますね。
一方アメリカでは、患者様が鍼灸の可能性をもっと信じているように感じていました。施術によるフィジカル面だけでなく、自律神経やメンタル面でのケアを目的に来院される患者様もたくさんいるんです。カウンセリングの際には、患者様から具体的なツボの名前などを出しながら施術について相談されることも。お互いで施術を作り上げていく感覚がありますね。チャレンジングでもありましたが、その分やり甲斐もありました。
――具体的なエピソードなどはありますか?
アメリカで就業していた頃、息子を連れてきた母親からご相談いただいたことがありました。「彼の父親代わりのようだった祖父が亡くなってしまったが、その後一度も涙を流していない。そんな息子の感情を解放し、泣かせてあげてほしい。精神状態が心配だ」と。正直難しいご依頼だとは感じましたが、これまでに学んだことや経験を生かしながら施術を組み立て、治療を行いました。
その後、母親が再来院して「あなたが施術してくれた翌日に、息子が泣いたのよ! ありがとう」と感謝の言葉をいただいたんです。ホッと胸を撫で下ろすと同時に、鍼灸施術の可能性を実感した出来事でした。
――鍼灸施術が精神面に影響するなんて、驚きました。
不思議なことですが、このあたりの見解に関してはアメリカの方が、日本と比べて見方が広いかもしれませんね。胸の内を明かす作用があるとされるツボなんかも、現地で学生をしていた頃に教わりました。
――アメリカで学ばれた中国鍼と、国内で主流とされる日本鍼との違いはありますか?
中国鍼は、鍼自体が日本鍼より太くて刺激も強めです。加えて、日本鍼よりも深めに刺しますね。東洋医学的なイメージの描写になりますが、“気”を掴みにいくような施術です。
対して日本鍼は鍼自体が細く刺激もマイルドで、中国鍼よりは浅めに刺します。先ほどと同様の描写をするなら、身体の奥に潜む“気”を浮かせるような感覚かな。
――それぞれの鍼の効果に違いはあるのでしょうか?
効果については、大きな差異はないのではないでしょうか。というのも、効果の実感そのものが患者様の主観によるもので、比較できるものではないと思うからです。患者様が感じる施術中の感覚などは異なるので、患者様にはどちらを希望されるかお選びいただけるようにしています。
アメリカでは中国鍼がベースなので、中国鍼は向こうで学び、現地での鍼灸施術にも用いていました。日本鍼を学んだのは帰国後、横浜の専門学校に通っている時です。

思い立ったが吉日。自分の可能性を自ら潰してしまわないで

――国内外での施術経験が豊富な岡咲さんですが、鍼灸マッサージ師として患者様に施術する上で心がけていることはありますか?
心身において疲労感を抱えていらっしゃる方が多いので、その分自分の心持ちはニュートラルに保つことです。もちろん、私にも日々の出来事でいろいろな気持ちにもなりますが、それは患者様には関係のないこと。身だしなみにも気を配り、決して表には出さないように心がけています。
――そのようにご自身を整えるために、何かされていることはありますか?
私の場合は、入浴と朝の掃除ですね。
毎晩、湯船にきちんと浸かり、その日の疲れをほぐすようにしています。また、習慣にしている朝の掃除は、いい香りの中で行うようにしています。空気が変わるような気がして、気持ちがシャキッとするんです。
――この業界を目指す方へのアドバイスがありましたら、ぜひいただきたいです!
何かを始める前に、自分の可能性を否定しないでほしいです。何かを諦める時の理由として年齢などがよく挙げられますが、やりたいことがあるのならいくつになっても始められます。
自分で自分の可能性を潰してしまうなんて、こんなにもったいないことはありません。やってみなきゃわからないこともたくさんあるのですから、まずは行動し、前に進んでみたらいいんじゃないかしら。
――岡咲さんにとって「働く」とは?
「生きること」。死ぬ直前まで働いていたいと思えるくらい、私はこの仕事が大好きなんです。
鍼灸施術自体も好きですね。施術による心身のレスポンスが早く、患者様の症状の改善やスッキリした表情、笑顔なども直に見られるので、施術のたびに達成感を感じられます。その一方で技術を磨くこと、自己研鑽に励むことに終わりがないので、満足してしまうことがありません。
あとは、施術を通じて患者様と深い信頼関係を構築できることも、この仕事の良いところです。アメリカ時代に担当していて、今でも交流がある患者様もいらっしゃいます。
また、誰かを癒やすことが好きな人が多い職業だからか、同業者にいい人が多いという印象もあります。アメリカの治療院に勤務していた頃から出勤して同僚に会うのが楽しみで、ブルーマンデーとは無縁の日々でした。
「この仕事を選んで、この業界を選んで幸せ」だと、嘘偽りなく、心からそう言えます。
岡咲さんの成功の秘訣
1. やりたいことや好きなことに対する素直な気持ちと、それに伴う行動力
2. 決めたからにはやり遂げる不屈の精神性
3. 周囲の人たちと信頼関係を築くコミュニケーション力と自己研鑽に励む探究心
撮影/内田 龍
取材・文/勝島春奈
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