憧れの地「横浜」を胸に異国で学び、キャリアを築いた20余年 私の履歴書 【鍼灸マッサージ師 岡咲ともこさん】#1

東洋医学の発想をルーツとする鍼灸。西洋医学とは考え方や治療法が異なるイメージですが、今や鍼灸はアジア圏にとどまらず世界的にも注目されています。特にアメリカでは鍼灸の需要が高く、中国や日本よりも盛んだと言われるほど。

今回お話を伺った岡咲ともこさんも、アメリカ・ニューヨーク州にて鍼灸を学び、現地の鍼灸院での就業経験を持つ鍼灸マッサージ師です。現在は神奈川県横浜市の関内・馬車道にて鍼灸・指圧マッサージ師として腕をふるう岡咲さんですが、どのような経緯から鍼灸と出会い、このような珍しいキャリアを歩むこととなったのでしょうか?

前編では、人生の約半分を過ごしてきたアメリカ時代の話を中心に、渡米から帰国までの紆余曲折をお話しいただきます。

TOMOKO’S PROFILE

お名前

岡咲ともこ

出身地

大阪府生まれ三重県育ち

出身学校

飯野高等学校 美術デザイン科
ラガーディア・コミュニティカレッジ
パシフィック・カレッジ・オブ・オリエンタル・メディスン(現:パシフィック・カレッジ・オブ・ヘルスアンドサイエンス)
呉竹鍼灸柔整専門学校(現:横浜呉竹医療専門学校)

プライベートの過ごし方

「とにかく掃除が好きなので、休みの日は朝から念入りに掃除をしています。あとは、気の置けない友人たちと飲むことですね」

趣味・ハマっていること

「横浜観光です! 横浜へ越して来てもうすぐ5年になりますが、去年まで学生だったことからあまり横浜をエンジョイできていなかったんです。最近では、みなとみらいの観覧車の大きさに驚きました」

仕事道具へのこだわりがあれば

「全ての仕事道具を常に清潔に保つ事を心がけています」

留学先で出会ったアルバイトが、今の仕事へのきっかけに

鍼灸マッサージ師として、アメリカでの就業経験を持つ岡咲さん。そのキャリアの経緯を伺った

――アメリカ・ニューヨーク州で、鍼灸マッサージ師として働いていたそうですね。

はい。鍼灸マッサージ師として働き始めたのはもっと後ですが、渡米したのは23歳の時ですね。

――アメリカに行かれたきっかけは何ですか?

子どもの頃からずっと、心のどこかで「海外に留学してみたい」という気持ちがあったんです。日本を飛び出して、異国の地で勉強してみたいなと。

高校がデザイン科だったこともあって、当時は語学留学も兼ねてアートの勉強をしようと思いました。そこで、サンフランシスコで2年ほど語学留学をした後、ニューヨークにある「ラガーディア・コミュニティカレッジ」にはアートを学ぶために入学しました。

――今の職業と、全く結びつかないご経歴ですね?!

そうですよね(笑)。今の職業に通じるようなきっかけが訪れたのは、あと数年で30歳になる頃のことです。

ニューヨークに拠点を移してからはアートの勉強をし始めましたが、そろそろ「将来の自分に役立つような仕事をしたい」と考えるようになりました。“手に職”と言いますか、何かしらの技術や資格を身につけようと思ったんです

そこで自分に何ができるかと考えた時、腰痛持ちの父親に、小さい頃からマッサージをしてあげていたことを思い出したんです。これは大きくなってからも、実家にいる間は続けていました。

――そんな原体験があったんですね。

そういった背景もあってか、マッサージをはじめ人を癒やすことに魅力を感じていて「これなら私にもできるかも!」と思っていました。

そんなタイミングで、友人が指圧師のアルバイトを紹介してくれたんです。運良くそこで採用してもらい、勉学に励む傍ら指圧師のアルバイトを始めることになりました

「手に職」をつけるべく、学び続けたアメリカ時代

そもそものきっかけはニューヨークでの学生時代に出会ったアルバイト。そこから本格的にその業界へ方針転換するべく、岡咲さんがしたこととは…?

――学生時代に出会ったアルバイトが、現職へのきっかけだったんですね。

元はと言えばそうなりますね。指圧師の仕事に適性もあったのか、アルバイト先の指圧師の上司から「せっかくだから理学療法アシスタントになるのはどう?」という提案を受けたことも大きいです

そこで、コミュニティカレッジの学科を変更して理学療法士となるための勉強を始めました。そして同時進行で鍼治療の勉強をするため、専門学校である「パシフィック・カレッジ・オブ・オリエンタル・メディスン(現:パシフィック・カレッジ・オブ・ヘルスアンドサイエンス)」に入学しました。

――思いきりましたね! 異国の地で方針転換して学び直すのは、大変ではありませんでしたか?

それはもちろん、苦労しましたよ! 現地の医療系の学校は、入るのも出るのも大変なんです。履修や単位のシステムも難しい上に、勉強量もものすごく多くて。専門用語が英語であるという、言葉の壁もありました

鍼灸師も目指そうと思ったのは、理学療法のインターンシップを経験した時です。無理やりストレッチされている五十肩持ちの患者様を見て「痛みをもっと和らげてからストレッチをした方が、心身共に楽なのでは?」と思いました。日本式の鍼だけでなく中国鍼を会得していることも私の特徴ですが、中国鍼はニューヨークで学んでいます。

――どうやって、大変な勉強期間を乗り越えられたのでしょう?

とにかく睡眠時間を削って勉学に励みました。しかし体を壊したら事なので、食生活には特に気をつけるなど、自分なりにできる工夫はしていましたね。

あとは「自分に負けたくない」と思う強い気持ちかな。現地での勉強は本当に大変で、ドロップアウトしてしまう人もたくさん見てきました。しかし「諦める」という選択肢は、自分の中にはなかったですね

――意志が強いですね…!

挫けそうになる時は、渡米した頃に使っていた英和辞典を手に取っていました。たくさん書き込み使い込まれたボロボロの辞典を見ると、言葉もロクに通じずに大変だった当時のことを思い出すんです。これに比べたら、この先どんなことでも乗り越えられるような気持ちになれました。

いつか住みたい、私の憧れの地「横浜」について

20年以上住んだアメリカでの生活にピリオドを打つこととなった、そのきっかけは何だったのか

――学校を卒業した後は、現地で就職を?

はい。苦労はしましたが、鍼灸師や理学療法アシスタントのライセンスを取得することができました。その後はニューヨークで鍼灸マッサージ師・理学療法アシスタントとして、現地の様々な治療院に勤務し、実務経験を積みました。一番長くお世話になった「マックスウェルメディカル」というクリニックでは同僚や患者様にも恵まれ、今でも交友関係が続いています。気がつけば、アメリカには25年も住んでいました。

――そこまで長くいたアメリカから帰国することとなったのは、なぜですか?

その理由は、実はここ「横浜」という土地にあります。横浜は私にとって憧れの場所で、「いつか横浜に住みたい」と高校生の頃から胸に秘めていました。

――横浜が理由だったんですね! 横浜に惹かれたきっかけなどあったのですか?

通っていた高校が鈴鹿サーキットの近くだったこともあり、時々F-1のレースを観に行くことがあったんです。その時隣の席だったお兄さんが、横浜から観戦に来ていた方でした。その方と話が弾み、彼が住んでいた横浜のことを聞いたんです。

この出来事から、横浜という場所に興味を持ちました。そして高校生のうちに、たまたま横浜に遊びに行く機会があったんです。そこで過ごした時間が楽しく良い思い出となったこともあり、いつか横浜に住むことを夢見るようになりました

ちなみにその時の横浜在住のお兄さんですが、帰国後、約30年ぶりに連絡を取ってみました。鍼灸・整体のサロンを今の場所に開業した事をお伝えしたところ、今ではお客様として来店してくださっています。

――高校卒業後、横浜に住もうとは思わなかったのですか?

ゆくゆくは横浜に住みたいとは考えていましたが、当時の自分は先に海外へ留学することを選びました。若いうちに渡米しておきたかったというのもあったと思います。

帰国のきっかけとなったのは、ニューヨーク在住中、家族に会いに一時帰国した2019年9月のことです。

私には姉がいますが、姉と富士山に登りに行った際、横浜にも立ち寄ってくれました。その時ふと「やっぱり横浜に住みたい。動くなら今だ」と強く思ったんですよね。

――そこから、帰国の準備を?

はい。思い切って日本に永久帰国して、横浜に住むことを明確に決意したのは、この時です。2020年の1月に帰ろうと準備を進めていましたがあいにくコロナ禍となってしまい…。結果、帰国できたのは6月のことでした。

2022年に立ち上げたというサロン「Kenkodo Queens 鍼灸&整体」の待合スペース。「サロン名の由来は、ニューヨークで働いていた指圧院の名前と、私が長年住んでいたニューヨークのクイーンズという地名を掛け合わせました」と岡咲さん
岡咲さんが鍼灸施術や整体、指圧マッサージの腕をふるう施術ベッド

23歳で海を超えてアメリカに移り住み、30歳を前に人生を見つめ直すことに。そんなタイミングで出会った指圧師のアルバイトや幼少期からの体験をきっかけに選んだ道は、鍼灸・マッサージや理学療法の世界でした。そのために学び続け、気がつけば人生の約半分をアメリカで過ごしていた岡咲さんが帰国したきっかけとなったのは、高校生の頃に思い出の土地となった「横浜」。一時帰国をきっかけに憧れの地・横浜に住むことを決意した岡咲さんの物語の続きは、後編でお伝えしたいと思います。さらに前編では語りきれなかった、鍼灸・マッサージ業界における日本とアメリカとの違いについても伺いました。

 

撮影/内田 龍
取材・文/勝島春奈


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住所:神奈川県横浜市中区住吉町5丁目64-1 Velutina馬車道506
TEL:080-1589-6478

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