自分の作品づくりの参考に!書店員がおすすめするアートブック
オリジナルのヘアスタイル作品をまとめたブック作りに挑戦中の方もこれからの方も、せっかくなら作品披露にとどまらず、一冊まるごとアート作品に仕上げたいですよね。テーマの選定、ページの構成、色使い…見る人の心に迫る、ストーリーあるものに仕上げるにはいくつかのポイントがあります。
なかでも一番重要なのは表現力。目に見えないものを表現する引き出しを持っているかどうかで作品に差が出るはずです。そこでこのコーナーでは、アートブックの目利きである書店員に「作品作りのインスピレーションにおすすめの本」をテーマに選書してもらいます。
今回は、古書、新本、洋書、ZINEなどをジャンルレスに取り扱っているブックショップSNOW SHOVELING店主の中村秀一さんが選んだBook selection。どんな本と出会えるでしょう。
“ユーモラスな編集”と“人間の視点を感じる写真”が本の力となっている
1冊目は『bad hair』。なんともノスタルジックな装丁と判型、そしてタイトルに興味をひかれます。
「これは世界中の“おかしな”“不思議な”ヘアスタイルを集めた写真集で、1950〜70年代の雑誌、広告、ルックブックなど過去のアーカイブからコレクションされています。
この本の面白さは、当時最新ファッションとしてエッジを効かせたヘアスタイルが、現代では「bad hair」とカテゴライズされているというユーモラスな編集の視点です。ヘアショーって、個性の度がすぎると奇をてらってしまう事があるでしょう。でもたとえ本来の製作意図から離れたとしても、こうやってコレクションすることでいろんなストーリーが生まれ、想像を広げさせてくれるのが本のよさですよね」。
本書は1頁に1枚ずつヘアスタイルが紹介されていますが、最初から最後までテキストは一切なし。ページをめくるたびに「何これ」「どうなっているの」と想像が掻き立てられます。シリーズに『big hair』もあるそう。気になる方は探してみてくださいね。
「2冊目はZineです。『髪が裸なのでとても怖い、ときみが言う。』著者は目黒の不動前で小さな美容室koko Manty(kissa)“ココ マンテュ キッサ”を営みながら写真家としても活動している成重松樹さん。旅先や地元で、自身の妻を被写体に撮り続けていたものがあるデザイナーの目に止まりZINEとして出版されたものです。美容師の作品集というよりは、“撮ってる人がたまたま美容師だった”といったところでしょうか。スタイルとしてはドキュメンタリーフォトグラフィー。よくわからないけど、なんだかひっかかるタイトルも作品の完成度を高めています。
この写真を通して見えてくるのはパートナーとの生活や、成重さんの視点感覚。インスタント・カメラで撮影した“紙やき”を見ているかのようなノスタルジーも感じます。背景に人間の生活感や感情を感じる写真は、写真自体が命を持っているような気がします」。
成重松樹さんの美容室koko Manty(kissa)は、1階はアトリエ、2階がサロン。髪としっかりじっくりの対話するための心地よい空間です。Zineについてのお問い合わせはお店まで。
世界のトップデザイナーが4000人のためだけに作った希少本
最後はとっておきの希少本。世界で4,000部しか作られていないアートマガジン。縦46㎝、横35.5㎝、厚さ4㎝のクラムシェル・ケースに収められています。
「これは『VISIONAIRE DECADES 49』。ニューヨークのVISIONAIRE PUBLISHINGが不定期で発行しているアート雑誌の49号です。『VISIONAIRE(ヴィジョネア)』はハイブランドとのコラボ雑誌で、毎号コンセプトを変えて挑戦的な製本をしているのが特徴です。例えば、「PLAY」がテーマのVol.39はソニーとコラボしてPLAYSTATIONの本体機そっくりなナンバーでしたし、「WORLD」がテーマのVol.41は写真集がGAP製のバックに収まっています。
今回ご紹介するVol.49のテーマは「FASHION」。伊勢丹120周年の記念にコラボしたものです。1880年代から2000年代まで120年間のファッションカルチャーの移り変わりをDECADES(10年間)で切り取り、アーティスト達が一冊ずつブックレットにまとめています。それぞれの10年間の表現方法・写真のインパクトをアーカイブ的に見ることができるので美容感度を高めてくれると思います」。
『VISIONAIRE』はどの号も少部数制作なので、ネットでは数十万円することも。装丁や紙もこだわり抜かれており、手で触れると本の持つ迫力を感じられます。SNOW SHOVELINGにはバックナンバーも数種類取り揃えているので、実物をぜひご覧ください。
ジャンルを超えた“体験”が表現力の源泉となる
アートブックの目利きである中村さんは、人の心に残るブックを作るには“感動”の体験を積極的に求めていくことが大切だと言います。
「人とは違う表現をしたいと思うなら、たくさんの“体験”をすることだと思います。レストラン、花屋さん、アーティスト…、自分とはジャンルの違う職業の人や作品と接していくことは重要だと思います。そうすることで、視点の自由さに気づくことができます。作者が自分の世界の深いところばかりを表現すると、鑑賞者が置いていかれてしまうでしょう。理解が追いついていけないと、注釈で説明文が必要になってしまう。ジャンルを超えた作品を見ることで、パースペクティブ(遠近感)を得られるんじゃなかな。
美容院できれいになる、美味しいご飯を食べる、山で美しい自然を見る、すべて“感動”という共通点がありますね。この“感動”をどう表現していくかがアートの根幹なのだと思います」。
SNOW SHOVELINGの店内もジャンルを超えた棚構成。ただ棚を眺めるだけであらゆる情報が飛び込んできます。本、音楽、雑貨、旅、人…、バラバラに存在するアートを束ねたSNOW SHOVELINGで、自分は何を感じとるのか。ぜひ“体験”してみてください。
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中村 秀一
SNOW SHOVELING BOOKS & GALLERY