カキモトアームズ・長戸寛典さん 美容師として“メンズグルーミング” #1

男性客が美容室へ行くのがごく普通になってきた中“メンズグルーミング”という新しい市場の発展をいち早く見据え、美容業でありながら男性専科のサロン業態を成功へと導いたkakimoto arms(カキモトアームズ)。そのトップを務める長戸寛典(ながと・ひろのり)さんは約10年前、美容師でありながら女性のカットを一切やめて、男性客だけに特化するという決断をします。そこには並々ならぬ覚悟と、10年後への希望があふれていました。

今回は、理美容業界で注目の高いカキモトアームズが、メンズグルーミングサロンを出店するまでの経緯をたっぷりとお届けします。

“大人の男性”をターゲットにするということ

――カキモトアームズがメンズグルーミングサロンをオープンして10年になりますね。
「ちょうど10年前、銀座2丁目にそれぞれのスペシャリストを配置した新店舗をつくることになり、メンズに特化した空間を創りたいと。誰かやらないかという話になり、チャレンジしてみたいと手を挙げました。当時僕は川崎市の商業施設内の店舗にいましたが、もともと男性客を切るのは好きだったし、男性客率も3割と比較的高いほうでした。ただ男性向けのサロンを美容室が本格的に一からつくるのは、かなり大変でしたね。

美容ではメンズカットのカリキュラム自体がないので、ほとんど独学です。今でこそメンズの勉強会も社員全員でやっていますが、当時はそんな機会もなく、レディースとメンズでは、切り方も違えば道具も違う。社長(現会長)のつてで理容界の重鎮に指導していただいたり、その方の仕事のやり方を見たり、店舗設計までアドバイスしていただきました。

美容師としてメンズ客だけでやっていくということは怖いというより、ごまかしがきかないことだなと思いましたね。ただその時点でうちのターゲットは‟大人の男性”で、カットだけでなくネイルやカラーを楽しんでほしいという明確な目標があったので、そこがブレなければ十分やって行けるだろうと思いました。そのときちょうど、うちでカラリストが誕生して10年が経っていたんですが、メンズグルーミングも10年取り組めば、きっと景色が変わっているんだろうなという、希望がありました」

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メンズの世界はハサミ一つとっても美容とは違うと長戸さん。インチ、大きさ、開閉や動かし方、持ち方まで、
日々試行錯誤してきたと今までを振り返る。

この先の10年のためのダブルライセンス

――長戸さんは去年、理容師免許を取得されたんですよね。
「はい、会社に企画書を出して、3年間かけて通信教育で取りました。費用は自己負担ですが、年2回10日間ずつのスクーリングのときは時短勤務にしてもらいました。理容免許を取った理由は、このサロンを立ち上げた当初、リクルートに苦戦したからです。当時はまだメンズグルーミング市場が少なかったことや、カキモトで働くならレディースでしょ、という考えが根強かったため、学生さんもそうですが、専門学校の先生方に、“美容師として入社しても女性の髪を切れない”ということを理解していただくのに時間がかかりました。

今、銀座、青山、六本木とメンズグルーミングサロンは3店舗あるのですが、スタイリストは全部で15人いて、あとはデビュー前のJr.スタイリストが1人、アシスタントが3人と、19人で回している状態です(※取材当時)。本当はもっと人数を増やしたい。僕が理容免許を取得してからは、卒業した理容学校へリクルートに行けるようになりましたし、近頃はメンズグルーミングサロンという業態が認知され、今年は5人の美容学生さんが面接段階からメンズを希望し、入社してくれました」

メンズに特化したからこそ、の成功

――長戸さん自身、女性をカットできなくなることに未練はなかったのですか?
「メンズを出す前、N.Y.へ視察に行かせてもらったんです。マンハッタンにあるシェービングが100ドル(約1万円)もするような高級サロンで実際にやってもらうと気持ちがよくって。ここなら1万円くらい出してもいいなと(笑)その経験があって、日本でもこんなサロンを創りたい、そのためにはメンズに特化してもいいと思いました。

その後、銀座2丁目店を出店。レディースとメンズを完全に分業しました。僕がもともと担当していた女性客はレディース専門のスタイリストが。逆に彼らが担当していた男性客は、僕たちメンズチームが担当するというシステムです。銀座2丁目店はほかにアイブロウリストやヘッドスパリストも備えたスペシャリストがいる店として立ち上げたサロンで、僕自身、あのときメンズにシフトしていなかったら、今の自分はなかったと思っています」

いかがでしたか? 次回、第二弾では長戸さんがこの10年で培った、メンズグルーミング市場に対する分析をリポートします。

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白シャツにデニムのエプロンといういで立ち。理容を学んで、美容師とは違う職人気質の部分に感銘を受けた、と長戸さん。

取材・文/山岸敦子
撮影/中川良輔

Salon Data

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MEN’S GROOMING SALON BY KAKIMOTO ARMS
(メンズグルーミングサロンバイ カキモトアームズ)

カキモトアームズのメンズサロンとして、2007年銀座2丁目店内にオープン。以後、青山、六本木ヒルズと出店し、現在3店舗を経営。
長戸さんはメンズグルーミングサロンの事業部長として店舗運営と後進の育成に勤しんでいる。
http://www.mensgrooming.tokyo/

カキモトアームズ・長戸寛典さん “メンズグルーミング”市場の魅力 #2>>

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