MINX土屋サトルさんがつなげたい。日本が誇るべき技術のバトン #2
名実ともに、日本 No.1 サロンの一つである MINX(ミンクス)。カットをはじめとする教 育にも力を入れていて、代表取締役社長の岡村享央(たかひさ)さんが監修した『Okamura Cut Lesson』(髪書房刊)は、国内はもとより韓国など、海外の美容師さんにも支持される ほど、わかりやすく身になる教則本と評判です。その岡村さんから薫陶を受けて、アジア への技術講習を行う MINX 執行役員の土屋サトルさん。彼の使命とは一体何なのか。穏や かな中にもフツフツと燃えたぎる、熱い美容魂をお届けします。
MINXでよかった、と言われるために
――土屋さんは『ガモウ エリアサーキット 2017』地区予選で入賞されたんですよね。
「はい、サロンワークを想定し、直前に出されるテーマに沿って、ヘアデザインを考える時間や仕上げまで含めて50分間といった内容で、デザインの発想力と完成度を競うウィッグカットコンテストです。
今年で 3 度目の挑戦で、過去 2 回は予選落ちだったので、名前を呼ばれたときは本当にホッとしました。ベーシックとなる技術レベルの高さが問われるコンテストなので、教育者として挑戦することで、自分の技術を磨きながらさらに次のステップ目指したかったんです」
――何が土屋さんをそこまで駆り立たてるんですか?
「もっともっとうまくなる必要を感じるからです。セミナー講師を担当させて頂いているTAMASI HAIR(韓国)のパク社長は、来日された際に日本の美容室の接客や技術のクオリティに感動し、「魂のこもったサロンにしたい」という想いから「TAMASI」と名付けたそうなんですね。
そのパク社長からのご依頼を受け、1 年ほど前から、14 人のエデュケーターを養成するカリキュラムを僕が担当していますが、講師というのはその場にいる誰よりも圧倒的に上手でなければいけない。そして彼らは自分が出来るだけじゃなくて、その下にいる人に教えられるまでにならなくちゃいけない。だから 1 回ごとのカリキュラムを必ず宿題にして、次回きれいな形にして持ってきてもらい、厳しくチェックし、ダメなら容赦なく落とす、を繰り返しています。
そのためには、自分にも厳しくないと。僕の教え方いかんで、あちらの全スタッフの技術が決まるワケですから、こんな責任重大なことはないですよね。MINX に教わってよかった、と思ってもらいたいですから」
セミナー講師なら誰にも負けない!
――以前から、こんなに教育熱心な美容師さんだったんですか?
「MINXに入社後数年経ったくらいからですね。後輩の教育で先輩とぶつかったり、意見が合わなくて悩んだ時期もありました。いろんな失敗を経て、いろんな意見を聞き入れて、より正解に近づきやすい道を探すようになったんだと思います。
何よりの手本が岡村なんですよ。「Okamura Cut Lesson」を制作しているときの話で、あるヘアスタイルの撮影が終わった後、データをチェックしながら「やっぱり気になるからやり直そう!」ってそのスタイルを全部撮り直しにしちゃったんですよね。
撮り直しをする前もすっごい綺麗なカットだったのに、正直なんで?と思いましたが、
そんなずーっと自分に厳しい岡村がいる以上、僕も自分に厳しくなきゃいけないわけですからね。
今は頂いた仕事に対して、生徒さんのニーズにお応えしつつ、技術やデザインを否定することなく、お互いのよいところをプラスに働かせられるような、セミナーにしたいと思っています。そのために講師として絶対に負けない! くらいの気概を持たねばダメだと、自分を追い込んでいます。どんな質問が来ても、質問した人がしっかり納得できる答えを出せる自信がないとダメだなと。
人に合わせて技術を替えられるだけの柔軟性や幅の広さ、引き出しの奥深さを保つために、 何事も否定をしないようにして、自分がやったことのない技術なら、相手が後輩でも聞き 出して教えを乞うようにしています」
50 年後の美容界のために今、できること
「海外での講習は完全にアウェイですし、最初は態度も露骨で(笑)でもそこがわかりや すくていい。お互いに値踏みし合っているようでも、こちらがきちんとしたセミナーを すれば必ずいい評価をしてくれますから。
伝えたかったことが伝わった、わかってもらえた、という瞬間は気持ちいいですし、勝ち負けとかではなくて、与えられたミッションをまっとうしたという達成感があります。
実際に受講した人に、そのカットを後日やってみた、と言われると心底うれしいですし、 ちょうど昨日も、以前カットセミナーで出会った中国の美容師さんが“土屋さんに切って もらいたい”とカットをしに来てくれたんですよ。
30、50 年後の美容業界が今よりよくなっていてほしいんですよね。僕らが引退していなく なっても、僕らの働いていた美容業界が発展していってほしい。そのためには先輩から受けたバトンを次の世代に確実に渡していかなきゃならない。
1から10まで丸暗記すればよいというマニュアルではなくて、そこにあなたたちがプラスαをつけ加えてくださいねと、次の子たちに余白を残して渡したいですよね。それをさらに次の世代の人たちが発展させることこそ、大事なのではないかと考えています」
取材・文/山岸敦子
撮影/石田健一
Salon DATA
MINX(ミンクス)銀座店
1985 年、東京・下北沢に高橋マサトモさんが開いたヘアサロン。
現在では青山・原宿に1店舗ずつ、銀座には3店舗と、つねに時代の流れを見極め、 市場のニーズに沿ったサロン経営でも信頼感が高い。 お客様に支持される「人材育成」が経営のすべてと捉え「人を育てる環境」に力を入れている。 土屋サトルさんは執行役員を務める傍ら、 銀座店でサロンワークを行い、国内外の講習を担当している。
アジアビューティーアカデミー
http://www.asiabeautyacademy.jp/
MINX土屋サトルさんに聞く。今、日本がアジアで求められていること #1>>