保健所薬剤師とは?仕事内容・年収・なり方を解説
薬剤師の免許を活かして働く場所は、病院や調剤薬局だけではありません。公務員として地域の健康を支える「保健所薬剤師(行政薬剤師)」という選択肢があります。
「行政の仕事って具体的に何をするの?」「臨床から離れても大丈夫?」と疑問や不安を感じる方も多いかもしれません。
本記事では、保健所薬剤師(行政薬剤師)の仕事内容、年収、メリット・デメリット、なる方法なども交えて詳しく解説します。
保健所薬剤師の役割と特徴
まずは、保健所薬剤師がどのような立場で働いているのか、その全体像を見ていきましょう。
行政薬剤師として地域の健康を守る立場
保健所薬剤師は、都道府県や政令指定都市などに所属する「地方公務員」です。
個々の患者さんを相手にする臨床現場とは異なり、地域住民全体の健康や安全を守る「監視・指導」の役割を担います。
特定の誰かを治療するのではなく、地域という大きなコミュニティを健やかに保つために、制度面から衛生環境を支える非常に重要な役割を担っています。
病院・調剤薬局との業務の違い
病院や薬局では「対人業務(調剤・服薬指導)」が中心ですが、保健所では「対物・対施設業務」がメインとなる傾向があります。
・病院・薬局 目の前の患者さんの治療をサポートする。
・保健所 薬局や飲食店、施設が法律を守っているかチェックし、地域全体の安全を底上げする。
「ありがとう」と直接感謝される機会は臨床現場より少ないかもしれませんが、自分の仕事が「食中毒を防いだ」「不適切な医薬品の流通を止めた」という目に見えない安心に繋がっていることに、行政職ならではの自負を感じる場面も多いでしょう。
保健所薬剤師の主な仕事内容

保健所薬剤師の仕事は多岐にわたります。薬に関することだけでなく、食や住環境まで幅広く担当するのが特徴です。
薬事衛生(許認可・監視指導・立入検査)
薬局やドラッグストアの開設許可、医薬品販売業の監視指導を行います。
店舗に不適切な広告がないか、管理薬剤師が適切に業務を行っているかといった項目を、法律(薬機法)に基づいて厳格にチェックします。
薬局実務を知っている薬剤師だからこそ、現場の「見落としがちなポイント」に気づける強みがあります。
食品衛生(飲食店・製造施設の監視指導)
薬剤師は化学や生物の知識が豊富なため、食品衛生監視員としても活躍します。
飲食店や食品工場の立ち入り検査を行い、食中毒の予防や食品表示の適正化を指導します。食中毒が発生した際の原因究明など、科学的な知見が求められる場面も多いです。
生活衛生・環境衛生(水道・住宅・温泉など)
理美容所、旅館、映画館などの公衆衛生環境を監視します。
また、プールの水質検査や飲料水の安全確保、シックハウス症候群対策なども担当業務の一つです。「こんなことまで薬剤師が?」と驚かれるかもしれませんが、人々の生活基盤を支えるやりがいがあります。
感染症対策・健康危機管理
感染症の発生時には、疫学調査やワクチン管理に携わります。
地域の健康リスクを最小限に抑えるための司令塔としての役割が期待され、公衆衛生の専門家としての知見が試される現場です。
試験検査業務とデータに基づく行政判断
保健所の検査室では、食品の残留農薬や河川の水質検査などを行います。これらの科学的データをもとに、行政としての正式な指導や処分を決定します。
主観ではなく、データに基づいて冷静に判断する姿勢が求められます。
保健所薬剤師の年収・給料・待遇
「公務員になると年収は下がるの?」と不安に思う方も多いでしょう。
ここでは、一般的な薬剤師の年収と比較しながら、保健所薬剤師の給与体系の特徴を解説します。
一般的な薬剤師の年収との比較
薬剤師全体の平均年収は、勤務先や地域によって幅がありますが、一説には約500万〜600万円前後という目安が示されることもあります。
薬剤師の年収相場について詳しく知りたい方は、こちらの「薬剤師の年収相場を解説した記事」もあわせてご覧ください。
参考: 薬剤師の年収は高い?相場・地域差・スキルで“高収入”を実現する完全ガイド
一方、公務員である保健所薬剤師の年収には以下のような傾向が見られます。
・20代(キャリア初期) 調剤薬局やドラッグストアなどの民間企業と比較すると、初任給や若手時代の月給は、支給額が抑えめに設定されている自治体が多いようです。
・30代・40代(中堅以降) 地方公務員は各自治体の条例に基づく「給料表」によって給与が決まり、経験年数に応じて段階的に昇給していく仕組みが整っています。長く勤め続けることで、民間の平均年収と同水準、あるいは役職に就くことでさらなる収入アップを目指せる可能性もあります。
転職直後の給与額を重視したい場合は、民間の条件が魅力的に感じられるかもしれません。
一方で、公務員はライフステージに合わせた収入のイメージを具体的に持ちやすいため、将来を見据えた長期的な安心感を大切にしたい方には心強い選択肢となります。
公務員薬剤師の給与を支える「二つの柱」
保健所薬剤師の給与は、以下の「制度の枠組み」と「具体的な金額表」の二つによって守られています。
1.給与制度の根拠(地方公務員法・条例)
地方公務員の給与は、地方公務員法に基づき、地域の民間賃金の動向を反映させて各自治体の「条例」で決定されます。ただし実務上は、地方公務員法に基づき設置されている人事委員会、または公平委員会による報告・勧告を踏まえて、条例改正が行われる流れが基本です。
これにより、景気や経営状況に左右されすぎない安定性が担保されています。
2.専門職としての評価(医療職給料表(二))
具体的な月給額は、一般事務職とは別の「医療職給料表(二)」という、薬剤師などの国家資格者に特化した表を用いて計算されます。
これにより、専門職としての業務の困難さや責任の重さが適切に給与へ反映される仕組みになっています。
また、病院や薬局などでの「前職の経験」が給与に反映される仕組み(職歴加算)があるため、これまでのキャリアを活かして納得感のある条件で転職することが可能です。
参考:総務省|地方公務員の給与制度の概要
東京都人事委員会|東京都職員給料表
・賞与・各種手当・福利厚生
地方公務員のボーナス(期末・勤勉手当)は、各自治体の人事委員会の報告・勧告などを踏まえて、条例改正で調整されます。
国の人事院勧告と同じ方向になる自治体も多いですが、必ず一致するとは限りません。
最新の令和7年度(2025年度)勧告では、民間の支給状況との均衡を図るため、年間支給月数が「4.65ヶ月分(夏・冬合計)」へと引き上げられることが示されています。
【支給月数の内訳(令和7年度勧告ベース)】
・期末手当 年間 2.525ヶ月分(0.025月分引上げ)
・勤勉手当 年間 2.125ヶ月分(0.025月分引上げ)
・合計 4.65ヶ月分
多くの地方自治体もこの人事院勧告に準じて条例を改正するため、保健所薬剤師の賞与もこの水準に合わせた支給が行われるのが通例です。
民間企業の業績に左右されず、社会全体の賃金動向に合わせて公的に調整される点が、安定性を支える大きな特徴です。
保健所薬剤師になるには
保健所薬剤師を目指すための道のりは、大きく4つのステップに分けられます。何をすべきかを明確にし、一つずつ準備を進めていきましょう。
【Step 1】まずは自分の受験資格をチェックしましょう
最初に確認すべきは「受験資格」です。保健所薬剤師は各自治体の地方公務員試験を受ける必要がありますが、そこには一定の条件が設けられています。
・薬剤師免許 取得済み、または取得見込みであることが必須です。
・年齢制限 自治体ごとに独自の年齢制限が設けられている場合があります。
年齢上限は自治体によって大きく異なるため、まずは希望する自治体の最新の「募集要項」を必ず確認するようにしましょう。近年は薬剤師確保のため、上限の引き上げや社会人経験者の採用に積極的な自治体も増えています。
【Step 2】希望する自治体の採用情報を収集しましょう
次に、試験の日程や内容を把握します。公務員試験は募集時期が限られているため、情報収集のタイミングが重要です。
情報源 各自治体の「人事委員会」や「採用情報」のホームページをブックマークしておきましょう。
スケジュール 自治体により異なりますが、地方上級試験などは夏〜秋にかけて実施されるスケジュールを組んでいる自治体が多く見られます。春頃には募集要項が公開されることが多いため、早めのチェックが欠かせません。
【Step 3】筆記試験(一次)と人物試験(二次)の対策を始めましょう
採用試験は通常、2段階で行われます。それぞれの特徴に合わせた対策が必要です。
筆記試験(一次) 教養試験と専門試験が行われるケースが多いです。専門試験は薬剤師国家試験の知識がベースになりますが、特に行政に関わる「法規」や「公衆衛生」を重点的に復習しておくといいでしょう。
人物試験(二次) 面接や小論文が課されます。行政薬剤師には、知識だけでなく「なぜ行政なのか」という強い志。そして、店舗指導などを円滑に行うためのコミュニケーション能力が求められます。
【回答のヒント】 単に「安定しているから」ではなく、「実務で感じた制度の課題を解決したい」「地域全体の健康を支える仕組み作りに携わりたい」といった、薬剤師としての想いを言語化しておきましょう。
【Step 4】社会人の方は「実務経験者枠」の有無も確認しましょう
現在、病院や薬局で働いている方は、一般枠だけでなく「社会人採用(実務経験者採用)」の枠がないか確認してみることをおすすめします。
病院や薬局での実務経験を持つ人材は、現場の悩みや業務の流れを熟知しているため、行政側からも「即戦力の指導員」として重宝されるケースが多々あります。現場経験は、試験において決してブランクではなく、強力な武器になることを忘れないでください。
保健所薬剤師のメリット・デメリット
保健所薬剤師としての働き方は、臨床現場とは異なる点が数多くあります。自分に合う選択肢かどうか、有益なポイントを整理して見ていきましょう。
メリット:公務員ならではの安定感と専門性の拡大
・ワークライフバランスの確保
土日祝日が休みで、有給休暇も計画的に取得しやすい環境です。私生活を大切にしながら、長期的なキャリアを築きたい方には適した環境といえます。
・「法務・行政」という新しい専門性
薬学の知識に加え、法律の解釈や運用という新しいスキルが身につきます。薬機法や食品衛生法のプロフェッショナルとして、地域の政策に関わることもあり、キャリアの幅が大きく広がります。
・多職種連携による広い視野
医師、獣医師、保健師、管理栄養士など、病院内とは異なる多様な職種と連携します。地域住民の生活を多角的に支える広い視野が養われるでしょう。
デメリット:行政職だからこそ知っておきたい注意点
・指導・監視という「立場の変化」
仕事の軸が「検査」や「指導」となるため、時には薬局や飲食店に対して改善を促す役割も担います。「患者さんに寄り添う薬剤師」から「制度を守る行政官」へと、役割に応じた意識の切り替えが必要です。
・臨床スキルの維持には自己研鑽が必要
調剤や服薬指導を日常的に行わなくなるため、新薬の知識や最新の治療ガイドラインなどは、自ら意識して学ばない限り維持が難しくなります。
・緊急時における地域を支える役割
食中毒の発生や感染症流行などの有事には、迅速な対応が求められます。責任ある立場として、通常業務とは異なる緊張感を持って対応にあたる場面もあるでしょう。
・行政特有の事務手続きへの適応
正確性と法的根拠が最優先されるため、稟議(りんぎ)や決裁といった厳格な事務ルールに慣れるまでには、少し時間が必要かもしれません。
調剤薬局・病院から転職する場合の注意点
臨床経験はどこまで活かせるか
薬の相互作用や副作用の知識は、店舗の監視指導時に役立つ場面が多いです。ただし、行政の仕事は「治療」ではなく「ルールの運用」が主体となります。寄り添う姿勢だけでなく、時には厳格にルールを当てはめる「冷静さ」への切り替えがポイントです。
未経験でも通用する理由と壁
行政実務は入庁後の研修が充実しているケースが多く、未経験からスタートする方も少なくありません。ただし、接遇(窓口での対応など)や、行政独特の用語、事務ルールに慣れるまでの期間は、人によっては「壁」と感じることもあるでしょう。
保健所薬剤師に向いている人の特徴

求められる適性・スキル
公平・中立な姿勢 相手が誰であれ、法律に基づいて平等に接することができる。
コミュニケーション力 指導を行う際も、相手を納得させる丁寧な説明ができる。
事務処理の正確性 法的根拠に基づいた書類をミスなく作成できる。
向いていないと感じやすいケース
「常に最新の臨床医学に触れていたい」「患者さんの笑顔を直接見たい」という想いが非常に強い方は、やりがいを見出すまでに時間がかかる可能性があります。
女性薬剤師・子育てとの両立
保健所薬剤師は、ライフステージが変化しても働き続けやすい職種として知られています。産休・育休の取得に加え、復職後の時短勤務も制度として確立されている自治体が多く、周囲の理解も得やすい環境といえるでしょう。
保健所薬剤師のキャリアパスと将来性
公務員薬剤師のキャリアは、数年ごとの「異動」を繰り返すことで形成されることが一般的です。自治体によって細かな流れは異なりますが、多くの薬剤師が「行政実務×薬学」という専門性を高めながら、以下のようなステップで進んでいく例が見られます。
キャリアアップのモデルケース
入庁後の配属先や異動のタイミングは自治体のニーズによって柔軟に決まりますが、現場経験から始まり、徐々に組織運営へと関わるようになるケースが多く見られます。
キャリア初期(現場での基礎づくり) 立ち入り検査や窓口業務などを通じて行政実務の基礎を学び、法律がどのように社会で機能しているかを肌で感じる時期です。
キャリア中期(視野を広げる異動) 数年おきに異動を経験し、本庁(県庁や市役所)の薬務課などで、より広域的な制度の運用や計画策定に携わる道もあります。
キャリア後期(マネジメントや調整業務) 経験を積むにつれて、チームをまとめる役職に就いたり、多職種間の高度な調整業務を担ったりすることが増えていきます。
将来性と市場価値
公衆衛生の重要性が高まる中、行政薬剤師の存在感はますます強まっています。また、行政で培った「法律の運用スキル」は希少性が高く、将来的に企業のアドバイザーなどとして活躍する際にも、強力な武器となる可能性を秘めています。
薬剤師の可能性を広げる、行政職ならではの喜びと誇り
保健所薬剤師の業務はデスクワークが中心であるため、一見すると事務作業がメインのように感じられるかもしれません。
しかし、その実態は、法律の厳格な解釈や科学的データに基づいた判断など、薬剤師としての高度な専門知識が不可欠な仕事です。
自分の指導によって地域の衛生環境が改善され、食中毒や健康被害を未然に防げた時、そこには臨床とはまた違った大きな感動と、地域を支えているという確かな誇りがあります。薬剤師としての専門性を活かし、社会をより良くしたいという正義感や志を持つ方にとって、保健所薬剤師はまさに天職となる可能性を秘めています。
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監修者
原瑞希
薬剤師専任キャリアアドバイザー
薬剤師免許保有
【経歴・実績】
・ドラッグストアチェーンにて薬剤師として3年間従事
・2024年度 新人賞(銀賞)受賞
【プロフィール】
元薬剤師として現場の空気感やストレスを肌感覚で理解しているため、悩みへの深い共感が可能です。
求人紹介だけでなく、入社後の教育体制まで徹底確認して提案。生活の変化を具体的にシミュレーションし、不安のない転職を支えます。
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