クリエイターと経営者、二足のわらじで挑む 私の履歴書 Vol.5 【LECO 内田聡一郎】#2

長年、ヘアサロン「vetica(ベチカ)」のトップディレクターとして活躍していた内田聡一郎さんが2018年2月に独立し、「LECO(レコ)」をオープン。ヘアサロン業界の競争が激しさを増す中で内田さんが独立を決意したきっかけや、業界のトップランナーになるまでの道のり、そして「LECO」の今後の展望に迫ります。

店長兼トップディレクター~新ブランド「vetica(ベチカ)」オープンに至るまで

キャリアを積み上げた次のステップは自分のブランドを持つこと。

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―VeLOで店長兼ディレクターになったのは何歳のときですか?

27歳です。美容業界誌に作品を出すようになった頃だったと思います。2009年にはセカンドブランドのvetica(ベチカ)ができたんですけど、店長になった2年後にはその新しいブランドを任せてもらいました。

―姉妹店を任されることが決まったときの心境は?

どちらかというと、僕が「出したい」と言って出してもらった感じなんです。ちょうどスタッフも増えてきた頃で、僕は29歳だったかな。自分もキャリアをちょっとずつ積み上げてきて、自信もついて、店長も経て、いよいよ次のステップ、となったときに自分の店を出したいとか、自分のブランドを持ちたい気持ちが強くなりました。そういう話をオーナーにしたときに、「セカンドブランドという形でやってみたら?」といわれて、ベチカを任せてもらうことになったんです。

―自分のブランドを持つ=独立ではなかったんですね。

そうですね。当時はお金もなかったですし、人脈もたいしてなかったのでそういう形のほうが合っているかな、と。そこでやれることもまだあると思って。ただお店の名前も、内装も、自分で考えてやらせてもらったので、出資は違うけどほぼ自分の店、というテンションでしたね。ベチカという名前は、「ヘルベチカ」というタイポグラフィが由来になっています。世界で一番使われているフォントがヘルベチカなんですけど、みんなに愛されるお店になればいいなという想いから名付けました。

―veticaはオープンしてすぐに軌道に乗りましたか?

そうですね、そのとき一番脂がのっていたというか、僕がやっていたクリエイティブなことも注目されていたし、スタッフも増えてきていた頃だったので順風満帆でしたね。

―脂がのっているという自負はやはり売上げに裏づけされたものなのでしょうか?

う~ん、それもまぁありますけど、売上げ以上にクリエイションで勝負したいという気持ちがあって、自分もまわりに負けたくないっていう気持ちが強かった。VeLOで徹底的にクリエイティブは叩き込まれていましたし。それで当時はヘアショーや撮影もばんばんしていたんです。そこで自分のクリエイションが評価され始めたという自負はなんとなくありましたね。「今、いいね」「勢いがあるよね」って言われることも増えてきて。

―もともと性格的には負けず嫌いですか?

どうかな? 負けず嫌いっていうとかっこいいですけど、承認欲求強めみたいな感じだったと思いますよ(笑)。「認められたい」という気持ちが強かったのかもしれないですね。

ブランドを持って、人を育てることの難しさを知った。

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―自分のブランドを持つとなったとき、誰かに相談したりしましたか?

ほとんどしなかったと思います。僕が一人っ子だからか、昔から誰にも相談せずに決めるタイプで。特に両親に対しては、だいたいのことが事後報告ですね(笑)。もちろん、小さいことはいろんな人に話を聞いてもらったりしますけど、大枠の、何か大きいターニングポイントについてはひとりで考えることが多いです。人に相談したりするのがいまだに苦手で。自分で決めたほうがその後に何かあっても納得できるし、なんかこう、弱みを見せたくないみたいな気持ちが強いんですよね。人にアドバイスを求めるイコール自分が弱い、と感じてしまうのかもしれません。

―veticaを盛り上げていく中で、ご自身に何か変化はありましたか?

自分の責任でブランドを育てていくという気持ちが芽生えたのは大きかったかもしれないですね。僕ひとりでは成立しないので、お店としてどうブランディングするか、というところで。それまではお店の一プレーヤーとしてまず自分が頑張る、みたいなことばかり考えていましたが、ブランドを育てるには当たり前ですけど自分だけの力では成り立たないので、下の子がどうしたら伸びるかみたいなことを考えなくてはいけなくて。自分は淡々とこう、ひとつのことを決めたらそれに向かってやっていくタイプなんですけど、みんながみんなそうではないから。スタッフの教育について考えるようになったのは、今の自分にとっても大きかったと思います。

―人材を育てることはもちろん大切ですが、そうたやすいことではないですよね。

はい、やっぱり難しいですね。僕に必要だなと感じるのは人を巻き込む力。僕が東京に出てきてからのキャリアは、結局その当時の上の人が「これがかっこいい」「美容師はこうあるべき」みたいなマインドに僕を巻き込んでくれたことが大きかったなと思うので。そういうことを今度は僕が下の子にやってあげなきゃいけないなと。ただ、今の時代って多様性の時代で個を尊重することも大切だから、バランスが難しいですね。否定することと肯定することのバランスが。でもやっぱり肯定ばっかりしていると伸びしろがなくなると思うし、どこかで僕が伸びしろを作ってあげないといけないとは思っています。それができているかっていわれたら、まだできていないですけど。当面の課題ですね。

LECO立ち上げ~現在

経営者とクリエイターの両輪で認められる存在を目指す

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―そして、2018年に満を持してLECOを立ち上げました。完全に独立するきっかけは?

具体的なきっかけは、3,4年前に体調を崩して緊急入院したことです。それまではバリバリ、仕事一筋でやってきたんですけどとある時期に病気になってしまって、2週間ほど緊急入院したんですよ。すべての仕事がストップして2週間ぼうっとする時間ができて、そのときに今後のことをリアルに考えて、独立するのもひとつの選択肢だなと思ったんです。

―自分のお店という意味ではveticaもそうだったと思うのですが、よりキャリアアップを目指しての独立だったのでしょうか

キャリアアップというより、もっと自分ができることとか経験することを増やしていきたいと考えました。入院したのが35、36歳くらいで、プレーヤーとしてのピークだと思ったんです。美容師ってだいたい40歳くらいまでにピークを迎えてあとは下っていくといわれているんで。それはもうセンスもそうだし、売上げもそうだし。プレーヤーとしての先を考えたら、いましていることをただ積み上げていくしかなかったんで、もうちょっと視野を広げて経営していくこととか、違う立ち位置で人を教育することも絶対自分の経験値にはなるなと思って。そういうことにすごく興味が沸いたので独立を選びました。まわりの同年代の美容師たちが独立してオーナーになり始めていたことの影響も、もちろんあります。

―今日(取材当日)も開店と同時に続々とお客さんがいらっしゃって、とても順調だとお見受けしました。今後はどういう風にお店を育てていきたいですか?

はい、ありがたいことに順調ですね。お店として大事にしているのは、さっきも言ったように人の個性をちゃんと尊重していくこと。その分難しさもあるんですけど、人が辞めない組織作りをテーマに掲げているので。オープンから1年弱経ちますが、まだ誰も辞めていないので、ここからさらによりよくして人が辞めない場所を作っていきたいです。

―せっかく入った新人が続かないというのはどの業界でも言われていますよね。

単純に今までのお店でも辞めていく人はいっぱい見てきましたけど、ただなんかこう、辞めると決めたことを否定するわけではなくて、ここにいたほうが絶対自分が成長できるなとか、何か夢が見られる店に、会社にしていければ単純に離職率は減ってくるはずなんで。まずはその土台を自分がしっかり作って、下の子たちが付随してなにか目標とか夢を達成できる場にしたいなと思っています。来年度新卒で3人入ってスタッフが10人を越えるので、このキャパでみんなの個性がMAXに発揮できるようにしてあげて、必要であれば店舗展開もしていきたいですね。

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―LECO(レコ)の由来を教えてください。

実は名前に意味や由来はまったくないんです。あのマークから思いついたんですけど、四角があって、左下に扉が開いて中に入るみたいな。このマークはコミュニティを意識していて、ひとつの空間の中でお客さんをはじめ自分が関わる人たちが扉の中に入っていってひとつのコミュニティになっていく、という意味を込めました。これを図に描いたときに、カタカナのレとコになっていることから「レコ」と名付けたんです。名前は完全にあとづけ。まずイメージ図があって、このマークをお店のメインのキャッチにしたかったんです。

―内田さんの今後の夢、目標を教えてください。

クリエイターと経営者っていう二足のわらじをどれだけやり切れるかが今後は大切になってくると思っています。これまではクリエイションが強い美容師さんってあまり経営に関わらないパターンが多かったと思うんですけど、僕はそこに挑戦していきたいなという気持ちがあって。自分が大事にしている、VeLOのオーナーに叩き込まれた「美容師たるものクリエイターであれ」ということも忘れずに、クリエイターと経営者の両輪で認められる存在になっていきたいです。

スタープレーヤーとして業界を駆け抜けた内田さんが新たにLECOで掲げた“人が辞めない組織作り”と“経営とクリエイションの両立”。今後、美容業界にどんな旋風を巻き起こしてくれるのか、とても楽しみです。

取材・文/山田理華子(レ・キャトル)
撮影/大柳佳緒里(スタジオバンバン)

Salon Data

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LECO(レコ)

住所:東京都渋谷区渋谷1-5-5 デュラス青山 B1F
TEL:03-6874-3850
定休日:毎週月曜

http://leco.tokyo/

私の履歴書 Vol.5 【LECO 内田聡一郎】#1・前編>>

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