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コラム・特集 2019-10-06

都会にこだわらず、心を広げて 私の履歴書Vol.16【美容師・川畑タケル】#2

都内のみならず関西や九州にも店舗を構え、日本各地に洗練されたスタイルを提案しているBEAUTRIUM。鎌倉の七里ヶ浜店でアートディレクターを務める川畑タケルさんは、数々のファッション雑誌で、長い間有名モデルのヘアを担当して来られました。今でも、川畑さんがつくるスタイルを求めて、都内からおしゃれ女子たちが鎌倉にやって来ます。

後編では、七里ヶ浜に移ったきっかけや一緒に働く後輩スタッフへの想いについて伺います。七里ヶ浜という場所から、東京に縛られる若者たちにメッセージをいただきました。

七里ヶ浜での美容師生活

ここはいつも風が通っているんです

――都内の店舗にいらしたときは、人間関係に疲れたりしたことはありましたか?

それは全然ないですよ。青山にいた頃はとにかく忙しすぎて…。雑誌の仕事が多くて、月の半分は撮影が入っていたんです。打ち合わせなどが夕方からだったので、それまでに15人の接客を終わらせていました。また、月に1本ヘアショーがあったので、カットしながらヘアショーの構成を考えたり。とにかくいつも頭をフル回転していたんですよ。

――東京にいれば良い経験を積める一方で、生活に疲れている人も実際は多いのでしょうね。

今、こっちに住んでいて思うのは、東京に住んでいる人は騙されてる(笑)。家賃は高いし、ご飯はあまり美味しくないのに値段は高くて当たり前。量もちょっとしか入ってないしね。埼玉に行くと、おいしいワインが当たり前の値段で売っているんですよ。

――東京で暮らすことはステータスでもありますよね。

その意識をちょっと手離せばだいぶ変わってきますよ。鎌倉は、家が隣同士ぴったりくっ付いているなんてことはないんですよ。いつだって風が通っているんです。心を変えればもっと楽になれるっていうのを伝えたかったんですよ。

――七里ヶ浜に店舗が出来たのは、やっぱり川畑さんの一声がきっかけですか?

BEATRIUMは東京に7・8店舗を出していて、1店舗くらい鎌倉にあっても良いんじゃないかなと思ったんです。その方がブランドイメージの幅が広がるし、スタッフも広い心を持てるようになりますしね。鎌倉に住んでいるクリエイターや会社の社長さんって多いじゃないですか。ここは、都内から電車や車で1時間くらいで来れるんです。だからもっと鎌倉を近くに感じることが出来れば、都内では中々持てない心の余裕みたいなものを持てると思うんです。鎌倉に限らずとも、おいしいレストランに行きたいなと思ったら浦和に出たり、山を見たいと思ったら山梨に行ってみるとかさ。普段と違うものを食べたり飲んだりして、心を広く持ってほしい。都会にしがみ付いている必要はないと思うんですよ。

――実際にこちらのお店ではどのようなスタッフさんが多いですか?

実は、うちのスタッフは、「海の前の美容室」を探して来た子たちがほとんどなんです。最近は、“BEAUTRIUM”というブランドを知らない子が多く、「どうしてうちの店を選んだの?」って聞くと、「海の前にあるから」と言うんですよ。それで、実際に入ってみると芸能人やモデルがいっぱい来るからびっくりするんですよね。

――こちらのお店に入ったときに、内装だけでなく、スタッフさんが白Tにジーンズという格好で、開放的な感じがしました。

僕はあまりうるさく言わないからというのもありますね。半年くらいすれば仕事の内容もわかってくるし、見た目も自然に磨かれてくるので、僕がごちゃごちゃ口を出す必要はないんですよ。都内だとそうはいかないですよね。うるさく言わないとダサいお店になってしまうから。生活費だって高くつくのに、服装にも気を遣わなくてはいけないから大変ですよね。

――ここはスタッフさんが個性を出しやすい環境なんですね。川畑さんのようにサーフィンを楽しむスタッフさんもいますか?

いますよ! だから、お店にはスタッフ用のサーフボードが20本くらい置いてあるし、シャワースペースも備えてあります。けれど、サーフィンをして良いのは、与えられた課題やカリキュラムをこなすことが出来てからですよ。朝にサーフィンをするなら、夜はしっかり練習するとか、新人さんの場合はシャンプーやマッサージで合格点をもらえたらサーフィンをはじめても良い、とかね。ここでサーフィンをやりたいんだったらお店を辞めたくなくなりますよね。だから、うちのスタッフはここで美容師の仕事が続いているんだと思います。

後輩へのメッセージ

技術さえあればどこでも美容師はできる

――七里ヶ浜に来て、接客やスタイルづくりで何か変わりましたか?

鎌倉に来て10年経つけれど、やっと頭をボーッとできるようになりました。けれど、スタイルはあまり変わっていません。相変わらずフランクですが、みんな誰だって、カッコよくなりたい、綺麗になりたいと思って来るわけだから仕事は今まで通りきちんと真面目にやります。わざわざここまで通って来てくれるお客さんに、確実に「他とは違うな!」と思ってもらえるようにしたいですね。あと、東京にいた頃から長く通ってくれている人も多いのですが、がっかりさせたくないですね。

――これからの夢は?

海の前でお店をやることが大きな夢だったので、もう叶っちゃったんですよね。他に何か夢を見つけなきゃと思っているんですけど…。今やってみたいことは、絵描き。あとは壷を焼いてみたい。宮崎でサーフィンするのも良いし、外国にも住んでみたいですね。

――美容師は続けていたいですか?

それはもちろん。ただ、ここで美容師をやっている中で悩みはありますよ。やっぱり東京よりも人がいないので。それに、お客さんに鎌倉まで来てもらうことに心苦しさを感じることもあります。その悩みはうちのスタッフも同じだと思うので、流れをつくることが僕の役割かなと思います。そういえば、10年前までは七里ヶ浜は江ノ電沿線で一番乗り降りの少ない駅だったんです。海がこんなにも近いのにですよ。でも、ここに店舗を構えてからは2番目に乗り降りの多い駅になったんです。近所の人は「この場所でパンプスの音が聞こえる!」ってびっくりしていました(笑)。そんな風に、もっと海に人の流れをつくってあげたいですね。

――スタッフさんにはどのような能力を持ってほしいですか?

BEAUTRIUMという大きなサロンにいても、大事なのは個人力なんです。個人力がなければ、たとえ大きなサロンで働いていても自分にお客さんは付きませんからね。また、インスタ利用が当たり前になっていますが、表現者として、人に知ってもらうためにどう表現したら良いのかという表現方法は上手な方がいいですね。あとは、一個で良いから、得意なことをつくりなさいと言っています。BEAUTRIUMには色々なスタイルのカットがあるでしょ? その中で、自分はこれだけは誰にも負けないというスタイルを一個持つように教えているんです。何か一個出来るようになるとコツを掴んで他も出来るようになるんですよ。何でもかんでもやろうとすると、結局どれも中途半端になるんです。

――ちなみに、下積み期間が長すぎて辞めてしまう、という美容業界全体の悩もありますよね?

うちの会社もね、技術力がすごく高いので、以前はデビューするまで5~7年かかっていたんです。でも、おととしから「3年計画」がはじまり、3年目でスタイリストになるための試験を必ず受けてもらうんです。だから、以前よりもデビューのハードルが半分くらいまでに下がったんですよ。とは言っても、みんな試験内容に慄いていますけどね(笑)。今は、昔よりも時間も休みもあるわけだから、自分の持っている能力を広げるために勉強しなさいと伝えているんです。とくに、海外に行くことが一番おのれを知ることができる勉強だと思っています。

――一番の勉強が海外旅行ですか。たしかに今は情報ばかりと向き合っている人が多いですもんね。

それだと何でも後追いになってしまいますよね。あの人がやっているから自分もやらなきゃとか、“こうしなければいけない”という道徳的な話に振り回されちゃう。基準が「自分」じゃないんですよ。もっと自分がリラックス出来るような選択をしてみても良いんじゃないかな。ここみたいな場所で働いても良いし、海外で一年働いてみるのも良い。「こういう美味しいものがあったんだ」とか「こんな風に表現しているんだ」とか、自分自身で見て感じて学んで帰って来ることで、誰も知らないことを提供出来るようになるんです。そうすれば優位に立つことも出来ます。

――最後に、美容業界の未来を担う後輩へメッセージをお願いします。

自分が納得できる仕事は、お客さんも納得する。オーナーさんも喜ぶし、メーカーさんも喜びます。納得するためには技術を磨くこと。それが一番の近道です。技術力があればニセモノではなくなりますから。僕は、大好きなサーフィンを40年してきたけど、サーフィンのおかげで色々な場所に行けたし、友達もたくさんできたし、美味しい魚も知りました。結果、別に東京じゃなくたって良いと思えました。技術さえ持っていればどこでだって美容師をやれるんですよ。

川畑さんの成功の秘訣

1.自分を知る
2.色々な映画を観て、色々な場所に行き、自分の肌で感じる
3.技術を身に付ける

▽前編はこちら▽
僕のカットは僕の人生あってこそ 私の履歴書Vol.16【美容師・川畑タケル】#1>>

取材・原文/佐藤咲稀(レ・キャトル)
撮影/石原麻里絵(STUDIO BANBAN)

Salon Data

BEAUTRIUM 七里ヶ浜

住所 神奈川県鎌倉市七里ガ浜1-1-1 WEEKEND HOUSE ALLEY 04
営業時間 10:00~19:00(木 20:00迄)
定休日 火・第3水
HP http://beautrium.com/salon/shichirigahama.php

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