仕事に対して楽しんで誠心誠意やっていけば、失敗はしない 独立を目指すあなたへ vol.9【風と雲の美容室 JUNさん】#2

キャリアプランのひとつである「独立」。42歳で有名サロンから独立し、表参道から高円寺へと拠点を移した『風と雲の美容室』代表・JUNさんが独立をした理由は、生涯美容師を続けるためでした。

独立を決めてから、お店に3年残ることになったJUNさん。後編では、その3年の準備期間のお話と、オープンから5年目を迎えた心境をお伺いします。

恩返しのための3年は、オーナーになるための準備期間

『風と雲の美容室』代表・JUNさん。表参道の美容室に20年勤めた後、2016年に高円寺にサロンをオープン。

――独立の意志をオーナーに伝えてから、3年働き続けるのはつらくなかったですか?

すぐ辞めろと言われなかったことは、必要とされているということなので単純にありがたかったです。あと、その3年が、今後自分がオーナーとしてやっていくために、すごく大切な期間になるんだろうなと思ったんですよね。

とは言え、精神的には、正直キツイところもありましたね。20年いたので、自分から言い出したこととは言え、やっぱり寂しかったですし…。まだ3年もあるのに(笑)。

あと、やっぱり人って、辞めると決意したら、どこかで糸が切れるんですよ。「ここに骨をうずめてやっていく」っていうのと「あと3年で辞める」のとでは、全然テンションって変わっちゃう。それを、いかに乗り越えて、緊張の糸を保ちながら、恩返しという目標を達成できるかっていうところにかけましたね。

――師匠への恩返しが、原動力だったんですね。

正直、人から見れば慈善事業でしかないと思います。その3年という時間を、自分の新しい道に対して注ぎ込んだほうがマシというか、居なくなる場所のことなんて知ったこっちゃないわけで(笑)。

それに周りも、辞めるとわかっている人間に対してだと、接し方も変わってきますから。いろいろ我慢の3年でした。でも、自分がオーナーになったときに、いろいろな波風があることは分かり切っていることなので、そういう様々なことに耐える練習というかね。

――精神的に鍛えられた3年?

やっぱり、いくらサロンでトップを張っていたって、その上にオーナーがいたら、守られている立場なんですよ、そもそも。ボスがいてくれるから、できていることってすごく多い。

だから、その3年は我慢と苦労をしましたけど、今後オーナーという責任を取る立場でやっていこうという人間の試練だったというか。今のオーナーとしての自分が、ちょっとまともになれた経験だったと思います。その期間がなかったら、今一緒に働いてくれている2人も、ついてきてくれていなかっただろうなって。

「生涯美容師」でいるために、ただシンプルに、継続していくこと

現在はレセプション、スタイリスト、アシスタントの3人体制。「最小限のスタッフで、シンプルにやっていきたいんです」(JUNさん)。

――オーナーになって、よかったことは何ですか?

「こうしたほうがいいかな」って思ったら、すぐ行動できて、すぐ反映できることですかね。組織の中にいると、すごく面倒なことが多くて。自分がしたいことがあっても、ダイレクトに反映するのは難しいんですよね。人が多ければ、その分考え方に違いがあるから、他の人の意見も聞いて、上にも下にも話を通して、それでも実現されないことも山ほどありますからね。

あとは、自分は古い考え方の人間なので(笑)、美容師は職人だと思っているんですけど。職人って、次の世代に技術を伝承していくじゃないですか。そういう「師匠と弟子」という関係がダイレクトに作れるっていうのも、いいところかなと思います。自分の想いと技術が、弟子にダイレクトに伝えられて、反映される。そういう簡単なシステムがわかりやすいですよね。気持ちというか、精神の整理がつきやすいというか。

――現在は、スタイリストはJUNさん、アシスタントさんが1名ですよね。

はい、レセプションと経理周りは妻がやってくれています。なので、美容師は2人ですね。今は僕が指導者で、彼はそれを学ぶ人なんですが、そろそろ彼にもお兄ちゃんになってもらいたいなと思っているので、もう1人探しているところです。下に人が入ってくれないと、次のステップに進ませてあげられないので。

いくら手先が器用でカットができても、部下がいなかったら指導者としては半人前なので、その経験はさせてあげたいですよね。当然、教わるよりも教える方が難しいわけで。人から教えてもらったことに感謝して、それを下に伝えていく。きちんと伝えることで、「この人についていきたい」という信頼感を得る。そういうことを繰り返さないと、上に立つ人間として成り立たないので、成長できなくなってしまうと思うんです。

――人を増やして、お店を大きくしていく予定は?

基本的には少人数制でやっていきたいと思っています。お店を長く続けていくためには、ある程度は向上していかないといけないのかもしれないんですけど、僕はそういうタイプではなくて(笑)。自分はある程度の生活水準が保てて、日々食べていければいいだけなので、あとはスタッフにきちんと給料が払えるように、というくらいですかね。だから、儲かってきたらお店を出そうとかは考えていないし、僕は望んでいません。

ただ、部下が望んだら、やらせたいとは思います。「俺やりたいです」っていうのを、止めるタイプではないですから。でも、自分は後ろで見ているだけでいい。進んでいきたい子がいれば後押しはしますけど、自分のスタンスは変えずにいたいですね。

「お客さんに来てもらって、真面目に仕事して、また来たいって思ってもらえる。その繰り返しですよね」(JUNさん)。

――独立から5年目を迎えて、心境の変化などはありますか?

弟子の成長のために、今年は人を増やしたいと思っていることくらいですかね。基本的には、気持ちがコロコロ変わるタイプじゃないので、独立したときから変わらず、やることはひとつだと思っています。「生涯美容師」が僕の志ですから、ただ単純に、美容師をずっと続けていきたい。

お客様が来たら一生懸命施術をして、値段以上に喜んでもらえて、また来たいと思ってもらう。自分は変わらずこの場所にいて、真面目にやる、ただそれの繰り返しだと思うんです、美容師って。

そのためには、もちろん技術は勉強しなきゃいけないし、難しいことに挑戦したり、先を見ることも必要だと思うんです。だけど、「ただ真面目にやって喜んでもらう」っていうシンプルさに立ち返ると、ホッとできるんですよね。

――表参道時代よりは、リラックスして仕事ができていますか?

そうですね。昔から、自分ではこういうスタンスだったと思うんですけど、表参道にいると、周りからどんどん背中を押されちゃうんですよね、行け行けって。だから、自分も撮影だったりショーだったり、一生懸命携わってきましたけど、そのステージにおいて、大体自分が出せるチカラは出し切れたし、自分でもわかったので、もうそこに戻りたいとは思わないですね。

表参道時代は、忙しさを喧噪って言葉に変えて、キレイごとのようにやってきましたけど、その忙しさは今の土地と空間には合わないので、僕自身がリラックスして仕事をするっていうのは空間作りのひとつとしても気をつけています。僕も歳をとれば、お客さんも歳をとるじゃないですか。若いころは表参道の忙しい有名店に行って、待たされてっていうのにステイタスを感じるところもあると思うんですけど、やっぱり年齢が上がると疲れちゃうんですよね、あの空間は。

だから、お客さんも、「私も今はこっちのほうがいい。前のサロンよりも、流れている空気が、今の私は好きかも」って言ってくださるんです。僕もそうなんですよね。若いころは、ピリッと張り詰めた緊張感のなかで勝負をかけているのが楽しかったし、今のリラックスした空気のなかじゃ働けなかったと思います(笑)。

――では、JUNさんにとって40代での独立は、ちょうどいいタイミングだったんですね。

うん、遅くてよかったなと思っています。20代、30代で独立してたら、きっと人に感謝することとかより、自分のチカラで乗り切ることを考えて、たぶん失敗していたんじゃないかな。オーナーとしても、ちょっとパワハラ気味な感じで(笑)、みんな辞めて独りぼっちになっていたかも。経験をつんで独立できたのは、すごくよかったんじゃないかなと思います。

独立を目指すあなたへ

「とにかく、この仕事に対して楽しんで誠心誠意やっていけば、失敗はしないと思います。とにかく、日々、真面目に、その人を本当にキレイにしたいと思って、やるしかないですよね。だから、難しく考えず、シンプルに。その想いを持って続けていけば、人は離れずついてきてくれるものだと思います」(風と雲の美容室 代表 JUNさん)

▽前編はこちら▽
独立を目指すあなたへ vol.9【風と雲の美容室 JUNさん】#1>>

取材・文:山本二季
撮影:片岡 祥

Store Data

風と雲の美容室

住所:東京都杉並区梅里1-8-15 1F
TEL:03-6796-9696
URL:http://www.kazekumohair.jp/

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