いい美容の環境を作ってあげられる。独立とは、そういう夢のあること 独立を目指すあなたへ vol.10【GARTE ATSUTOSHIさん】#2
「独立を目指すあなたへ」は、独立して前進をし続ける先人の体験談や考え方をお届けするインタビュー企画。前編につづき、「GARTE」のATSUTOSHIさんにお話を伺います。ヴィダル サスーン サロンシップのモデルサロン代表から始まり、現在は名実ともに「GARTE」のオーナーとして活躍されているATSUTOSHIさん。後編では、ATSUTOSHIさんが「GARTE」にかける思いと将来像についてお伺いします。
人を育てることは、僕を引き継いでもらうこと
――独立して一番大変だったのは、人を雇うことだったそうですね?
始めて数年は下の子がバンバン辞めました。雇っては辞め、雇っては辞め。そこが一番大変でしたね。
僕が超生意気だったんですよ。プラス、アシスタント時代に体育会系なサロンにいたこともあって、それが当たり前で。同じようなことを下の子にやると、どうしてもついてこない。一般的な20代の感覚とはズレてきちゃっていたんでしょうね。だから3カ月サイクルぐらいでどんどん下が辞めてしまって。
――今「スタッフが辞めないお店」になっているのは、何かを変えられたんですか?
なんで僕ができるのに出来ないの? っていう『僕基準』だったんですよね。でも、辞められるたびに「やっぱり何かが違うんだろうな」と思ったんです。だから、怒っても言い方を考えるようになりました。今は、お店の子たちがたくさん失敗してくれるんで、22才ってこんなもんだよな、という基準値が見えてきたのもあって。失敗が分かったその瞬間に怒りをぶつけない術を身につけましたね。この場所にお店を移した24才くらいからは、僕が原因で辞める人はいなくなりました。
――人を育てたいという思いは昔から?
昔からありますね。これが軸です。僕だけが上手くなって、僕だけが有名になったところで、死んだら繋がらないんですよ。だから、下の子に僕が渡せるものをどんどん渡していきたいんです。僕が10人に教えて、その子たちが10人に教えたら、100人じゃないですか。早く理論を完成させて、サスーンみたく広げたい。僕のベースはサスーンなんで、サスーンカット+αなんですけど、その+αを広めていくのが僕の使命。どんどん我流になっていくとは思うんですけど、僕が発した言葉がきっかけで変わってくれて、それがさらに伝播していってくれたらうれしいです。
――将来的に目指すところは?
今の美容業界にある10~15分で切って売上げてって感じは、僕自身は本質的には違うと思っていて。お客さんが自分で髪を乾かしただけでも彫刻のように頭の形がキレイになる、かっこいい髪形になる。それが好きだからこそ、時間をかけてでもキレイにカットをしていく、というのが僕たちなんです。イギリスのサスーンはそれの最上級。だから、カット料金でもすごい人は2~3万円する。時間をかけてもこの金額をもらえるのなら、かけられるじゃないですか。クオリティーを下げて価格を安く設定するのではなくて、クオリティーを上げて時間もかけて料金も高く設定する、という職人系のビジネスモデルも成り立つんじゃないかと。
将来的には、カット10万円とかになりたいです。65歳とかそういう年齢になったときですよ。でも、僕一人だけじゃきっと無理ですね。美容師の価値をどう上げていくか、どこまで美容業界全体を盛り上げられるかによりますね。
――美容師の価値を上げて、美容業界を盛り上げる。具体的には?
今の美容業界の足の引っ張り合い的な側面が嫌なんですよね。他店がどうのとかってどうでもいいじゃないですか。そういうのがなくなって、美容室、美容師が「ここの〇〇がすばらしいよね」とお互いにリスペクト出来るようになっていけば、美容業界の価値っておのずと上がっていくと思うんですよ。ネガティブワードに支配されていたら、その美容師はどこのお店にいっても成功するはずがない。
それに美容師って、例えばドクターのようなスペシャリストであっていいと思うんですよね。国家資格なんですよ。髪の悩みに対して美容師がこのシャンプーを使いなさいと処方するくらいのレベルまでいかなければいけないと思っています、将来的には。このレベルまで達しなければ、『10万円』なんか無理ですよね。
オジサンになっても「独立しないでよかった」と思える店に
―ATSUTOSHI さんの目指すサロン経営とは?
理想はPEEK A BOOさんみたく「年を重ねるにつれて魅力的な大人になることができる美容室」です。おっさんになってもスタッフが残るお店。PEEK A BOOさんのトップの方たちがずらっと椅子に座って並んでいるモノクロの写真があるんですけど、これがめちゃくちゃかっこいいんですよ! 渋い! それが信じられなくて。僕が美容師になろうと思ったのも、そこがきっかけかも。だから、僕は年をとるたびにカッコよくなる集団を作りたいです。それには、生涯雇用ですよね、やるべきことは。
――「生涯雇用」ですか?
単なる年齢的な意味だけじゃなくて。スタッフが手を怪我したりして美容師が出来なくなったとしても、今までお世話になったスタッフにお給料を払い続けてあげられる力をつけたいですね。自分で切ることはできなくても、講習で技術を教えることはできるんです。そういうことをやってもらって給料を払うとかを、将来的にはやれるようにしたい。それが僕の考える生涯雇用なんですよね。そのレベルまでもっていきたいですね。30年一緒に働いたのに、美容師できなくなったらハイさよならなんて、嫌じゃないですか。だから、未来の会社のために稼がなきゃなんです。
独立を目指すあなたへ
「何のために独立をしたいかが大切です。まず一回、フリーランスでもらえる給料、独立したときにもらえる給料、さらにその先、何年のお店をつくりたいのかまでを冷静に考えた方がいい。人を雇うということは、人の人生を買うっていうことだから。10年でつぶれるお店なのか、もっとやっていきたいのか、二世代までつなげたいのか。会社にやとわれていても、フリーランスでも、自分が死んだら終わりです。でも、独立してお店を上手く経営できれば、将来へ残せるんです。人と携わって、下の子がよくなって、お店がよくなって、もっとお店を出せる。もっといい美容の環境を作ってあげられる。独立とは、そういう夢のあることなんです。」(GARTE ATSUTOSHIさん)
▽前編はこちら▽
独立を目指すあなたへ vol.10【GARTE ATSUTOSHIさん】#1>>
取材・文:細川光恵
撮影:片岡 祥