誰にも負けない情熱が。私の履歴書 Vol.23【ACQUA 小村順子さん】#2
日本を代表する有名サロンACQUAのクリエイティブディレクター・小村順子さん。現在は、これまで約25年ACQUAに勤め、日本を代表する女性美容師として第一線で活躍し続けてきました。前半では、直感的に美容師になると決めた話やACQUA入社当時の話を伺いました。美容師として約30年働いている今でも情熱の炎が尽きないと語る小村さん。後半では、アシスタント時代の過ごし方や今まで続けてこられた理由をご紹介します。
ACQUAアシスタント時代
一生懸命やることで自ずと道は拓かれます
——ACQUAのアシスタントの当時の思い出を聞かせてください
1店舗目は大事ということを前半でお話しさせていただいたのですが、アシスタント時代が非常に大切な期間なんですね。撮影などでも、先輩のスタイリストの人が来なかったら、私が担当しますぐらいの勢いで、ヘアメイクを全部覚えて、道具も完ぺきに用意して臨んでいました。そうすることによってメーカーさんや雑誌・業界紙の人に顔を覚えていただけて、よく声をかけていただけるようになりました。
他にも先輩がメイクをしているときに、次の道具をサッと出せるようにしようと心がけていたりとか、そういう気持ちを持ってアシスタントをやることで、仕事のパターンを覚えたりすることも多かったです。今のアシスタントたちを見ていると、アシスタント時代の過ごし方がもったいないとは思いますね。
——どんな部分でもったいないと感じますか?
自分の美容人生の財産を作る時期なのに、仕事をやらされていると感じるマイナスな時期みたいになっているから、早く技術者にしないとみんな辞めちゃったりしますよね。最初の3年で無垢な状態からコームや道具の持ち方とか正しい使い方をちゃんと身につけるということをやれば一生大丈夫なのに。今をおろそかにしないできちんと学んで欲しいと思います。
——一生懸命努力することが大事ということですよね。
はい。実際、地道に目の前のアシスタント業務を一生懸命やっているだけで、大きな仕事をいただけることがありました。目立ちたいとか、トップに行きたいとか自己顕示欲みたいなものはなかったのに、何かに抜擢いただくことがすごく多かったなと思います。そうやって経験を積み重ねていく中で、自分が言った言葉や行動が誰かに影響を与えるとしたらそれがいい形で伝わるように一生懸命やらなければいけないなっていうのを自覚し始めていました。自分の仕事でちゃんと本物になるっていうのがすごく大事だなって。そうしたら、自分を世の中に広めようと思ってくれる人が絶対現れると思います。
現在〜今後
誰にも負けない「情熱」があるからこそ続けられています
——作品を作る上でのインスピレーションはどこから湧いてきますか?
私自身元々机にかじりついて勉強するタイプじゃないんで、感覚人間なんです。いいものの秘密が知りたいし、好奇心がめちゃくちゃあるので、一つのジャンルにとらわれず、いろんなジャンルに触れるようにしています。5年ぐらい前に美容の本質に辿り着いて。この仕事ってお客様やその人の内面を活かすことだと思うんですね。似合わせとかは当たり前の作業の話。手段であって目的ではないですよね。一番はその人の内面を輝かせてハッピーにすること。相手の内面に触れていくことによって自ずと十人十色になりますよね。そのためにもオールジャンル触れて、自分の幅を広げるようにしています。
——なぜここまで続けてこられたのでしょうか。
多分素質の面で優れている人はいっぱいいると思いますが、誰よりも一番持っているのは「情熱」だと思います。本当に上手くなりたいという気持ちだったりとか、この仕事に対してのこだわりや情熱だったりっていうのが、一番強いと思います。私は極端にこの仕事が好きすぎて、20年、30年やっていても、情熱の炎が増すばかりで枯れることはないんですよ。カットも好きだし、どの仕事も好きで。お客様はそれがすごくわかるらしいです。やっぱり目の前のお客様に対して、最高の仕事をして喜んでもらって、それに尽きると思います。そこに気持ちを込めて、腕を磨き続けたいです。
——辞めたいと思うことは今までありましたか。
もちろんありますよ。私もこれだけ美容師人生を続けていて、向いていないと思うことも何度ありました。でも仕事って向いている、向いていないじゃなくてそこに向かって努力したときに初めて自分に向いている仕事になるんだなっていうのをふと思ったんですよね。向き不向きとか才能や素質という言葉はただの言い訳だなって思います。8割は努力ですよね。お客様に、「小村さんは美容師が天職ですね」と言われるけど、自分ではそういう実感が全くなくて。そうやってお客様や人から言われることの方が自分でも「天職になったんだな」と実感します。だから今では、自分でも美容師は天職だと思っています。自分の魂がふれる、魂レベルであっているのが美容師なんだろうなと思います。
——なるほど。突き詰めていくことで自分の仕事になるんですね。
美容師になろうって決めたことだったり、このお店に入ろうっていう決断ってあるじゃないですか。ほとんどの人が行なっている決断ってただ選んでいるっていうだけなんですよね。このお店に入ろうって思ったら、このお店を選ぶけど、ほかのお店も候補にいるわけですよ。でも本当の決断って、一つ選びきったら、他を断つことだと思います。そうすることをできるかできないかで仕事への向き合い方も変わってくると思います。
美容師になろうと決めた時点で、世の中の他の職業になる選択肢は抜け落ちてしまったんです。美容師を辞めて他の仕事行ったり、中途半端なところでやめて他のサロンに行くっていう選択肢が無かったんですよね。でも、美容師ってその選びきったっていう意味でのほんとの決断をして、東京きたときも、ACQUAに入ったときも、やっぱり絶対ここでものになるように頑張ろうと、ある意味本当の決断をしたんですよね。だからここが嫌だったら他へ行こうとか、この仕事がいやだったら他の仕事探そうっていうそういうのが全くなかった。だから、前を見るだけだったんです。
——今後の夢や目標を教えてください。
エベレストに登りたい! というような壮大な夢みたいなのはないのですが。今、自分がこの仕事に巡り逢えたというだけで私は本当に幸せだと思います。ACQUAに入ってから本当に恵まれていると思います。何を持って夢とするかって難しいじゃないですか。自分は生涯美容師だと思っています。自分の中では美容師として完全体ではないんですよね。だから、まだまだいろんな技術を身に付けたいこととか色々あるので、自分が思う真の美容師に近づいていきたいですよ。
昨日よりも今日、今日よりも明日をよく! したいという思考回路なので、自分の中で限界を決めてしまうと変化がないじゃないですか。もっともっと上手くなりたいっていうのがまだあります。この仕事が誰よりも好きだから、本当に楽しく美容人生が送れたらいいなと思います。
小村さんの成功の秘訣
1.一生懸命努力する
2.昨日よりも今日をよくする
3.誰よりも強い情熱をもつ
▽前編はこちら▽
女性としての挑戦が始まりました。私の履歴書Vol.23【ACQUA 小村順子さん】#1>>
撮影/三好宣弘(STUDIO60)
取材・文/梅澤 暁