美容師の独立 「人として」を大事にできるお店に Vol.16【siki 代表 磯田基徳さん、伊藤竜さん】#1
美容師として「独立」というビジョンを描いている人に向けて、独立して成功されている先輩たちの経験談をお届けする本企画。
今回は、「siki」代表の磯田基徳さんと伊藤竜さんのお二人にご登場いただきます。纏う空気が同じで、二人が出会って初めて「独立」という選択が出てきたのだそうです。
前編では、二人でお店を構えるまでの経緯や、共同経営をこなすヒント、「人を育てる」教育論を教えていただきます。ゆるさ、柔らかさ、温かさを感じさせるお二人ですが、それは時代の変化とスタッフを受け止める器の大きさの表れでもありました。
自分に似ている人がいるな、と思ったことがきっかけ
――独立前、お二人の出会いについて教えてください。
伊藤さん:僕は都内で2店舗を経験したのですが、磯田は1社目のときの先輩だったんです。歳は3つ上で。
磯田さん:僕は青山店、伊藤は吉祥寺店で店舗が離れていたのであまり会う機会はなかったんです。でも、たまたま見かけたときに「自分に似ている子がいるな」と。コアラみたいなほっこり系の可愛い美容師さんだなって(笑)。当時、そのサロンはギラギラした感じのちょっと怖い人が多くて、伊藤みたいな優しい雰囲気の人は珍しかったんです。
伊藤さん:僕だって、磯田のことをめちゃめちゃゆるい人だなと思いましたよ(笑)。僕が1年目のときに磯田が他のサロンに移っちゃったんですが、そのあともよく飲みには行っていました。
――お互い似たものを感じたのですね。それでは、独立を目指したきっかけは何だったのですか?
磯田さん:働いているうちに自分のやりたい方向性が違ってきたというか、もっと自分たちの力で、自分たちが求める「理想」を形にしたいなと思うようになったんです。
伊藤とは波長は合うけどジャンルは僕と真逆だったので、一緒にやるのも面白いかなと思ったんです。というか、一緒に独立するならもうこの人しかいないなって。
――ちなみに、その当時はおいくつだったのですか?
伊藤さん:僕が26歳で磯田が29歳ですね。僕は最初、独立はまだいいかなという気持ちもあったのですが、せっかく声をかけてもらったし、このタイミングに乗るのも良いかなって。周囲からは案の定「まだ早いんじゃない?」とは言われましたが。
磯田さん:確かに、結構反対されましたね。先輩が心配して色々アドバイスをしてくれたのですが、申し訳ないけれど…全部スルーしていました(笑)。だって責任を取るのは自分たちだし、後悔したくないじゃないですか。
面貸しからのスタート
――最初から共同経営をするつもりでいたのでしょうか?
磯田さん:実は、最初は面貸しでやっていたんです。
伊藤さん:「siki」というブランドを先に立ち上げ、最初の一年間は箱だけ借りてやっていました。僕と磯田にそれぞれ一人ずつアシスタントがついていて、計4人でスタートしたんですよ。そして、ここにお店を構えたときに初めて共同経営という形になりました。
――当時はどのようなスタイルを発信していたのですか?
伊藤さん:ナチュラルを売りにしていて、ハイトーンからダークトーンまであくまでナチュラルに仕上げるということが僕らの共通認識でした。
磯田さん:ハイトーンなのにナチュラルに。ナチュラルだけどブリーチカラーをするっていうのが当時の美容業界では斬新だったと思います。僕らがブランドを立ち上げた3年前って「ナチュラルなブリーチ」という概念がなかったんです。ブリーチは派手な人がするもので、ナチュラル志向の人はブリーチを選択しなくて。でも、伊藤の技術でブリーチの幅が広がったというか、それで差別化ができてうちの強みになったのだと思います。
――面貸し時代はどのように集客されていたのですか?
伊藤さん:インスタですね。お客様はインスタを見て来てくださる方がほとんどだったのですが、それでも僕ら4人で月の売上500〜600万くらいまでつくれていましたからね。インスタが頼りでした。投稿写真は全て一眼で撮っていたから、写真のキレイさでみんな来てくれたんでしょうかね。ハイトーンだけに絞って投稿していたのも良かったのかも。
磯田さん:これまで集客の面で苦労したことはあまりないですね。
「一人で独立」という選択肢はない
――集客以外で大変だったことはありますか? 例えば、お二人の考え方が合わなかったり…。
磯田さん:たまに意見が割れるくらいです。
伊藤さん:稀ですけどね。
磯田さん:僕ら、基本的に仲良いので。カルチャーも、実は出身も一緒なんです。性格は違うけどノリは一緒みたいな。性格でいうと普段は僕がよく喋って、伊藤はあまり喋らないですね。クラスで一番のお調子者と裏番長みたいな(笑)。
一緒に仕事をする上で大事にしていることは、きちんと伊藤の意見を聞くことですね。僕は新しいことをポンポン思いつくタイプなんですが、それを実行に移せているのは伊藤のGOサインがあるから。彼は意外と悩まないというか、決断が早いので。共同経営って他のサロンの様子を聞くと、コミュニケーションを取らないところも多いみたいですが、僕らは結構コミュニケーションを取っている方なんじゃないかな。
――お二人の仲の良さが伝わってきます! でも正直、一人でやっていた方が良かったと思ったことはありませんか?
磯田さん:一人では絶対に無理だと思っていて、独立するにしても、僕は「誰とやるか」が出発点です。数年後の目先の収益ではなく、人生という単位で考えると一人では限界があると思うんですよね。僕だけでは今のsikiはなかったですし、二人でやってきて本当に良かったなと毎日思っています。
伊藤さん:僕も一人では無理です。というか一人では独立していないですね。僕、コミュニケーションが苦手で…。もちろん後輩は好きですが、自分からは積極的に話しかけにいかないんです。磯田は逆にそういうところがすごいなと思っていて。コミュニケーション力はもちろん、気遣いもできるし、優しいし、愛があるんです。
――お二人が出会わなかったらお互い独立していなかったのですね。ちなみに、他のオーナーさんとも交流したりされますか?
磯田さん:交流はありますが、最初にスタートしたときから決めていた「自分たちらしく」ということをとても大事にしているんです。今の時代、気づくと人の真似をしているので、自分らしさを保つのって案外難しくないですか? 他のサロンを意識するようになると自分たちらしさがなくなってしまうので、飲みに行くことはあっても、サロンとしてアドバイスを求めたりはしませんね。
技術以前に人間としてしっかりした子に育てたい
――スタッフ教育ではお二人はどのようにアプローチされていますか?
伊藤さん:あまり二人でスタッフの前に出ていく感じではないですね。その代わり、店長に任せています。現在、sikiと隣にあるsiki factory、大宮店にそれぞれ店長がいるんです。
磯田さん:技術的な教育はほとんど彼らに任せていて、僕らは最終チェックで見るくらい。僕らは、生き方や仕事への向き合い方を見せていけたらいいなと思っていて。スタッフには美容師をしながら人生を楽しく、幸せになってほしいんです。美容師としても極めてほしいけれど、それ以前に人として大事なものを教えていきたい。だから、僕からは「感謝の気持ちを持ちなさい」としか言わないかも。お客様に関わることであればもちろん注意はしますけどね。
「売上げ300万を稼いだ」「給料100万もらった」というスタッフがいたとして、でも稼ぎ方があまりよろしくないというか、使っているアシスタントに感謝の気持ちがなくて、自分のエゴイストだけで成功していてもそれは成功とは言えませんし、結局幸せな時期は長続きしないでしょうね。そういう人は周囲の反感を買って誰にも助けてもらえなくなるので。
僕、うちの子には少しでも長く幸せでいてほしいんですよ。だからこそ人間としてきちんとした子に育てたい。その子がたとえ美容師として成功しなくても、人としての幸せを掴むことができるのであればそれで良いのかなと思っています。僕らはそのくらい広い枠で見ているんです。
今の時代の「働きやすい」サロンとは?
肩の力を抜いて、楽しむことが前提にあると話すお二人。独立後、まもなく人気店となりましたが、お店の内部は「売上げ」「競争」などの殺伐とした空気はやはり感じない様子。スタッフがそれぞれの強みを活かせていることがその理由なのかもしれません。それが成り立つための条件をお二人に教えていただきました。
1.人間性を大事にする
2.「美容師として」以外に活躍できる場を増やす
3.見守る姿勢でいる
▽後編はこちら▽
美容師の独立 必要なのは柔軟性。「美容師」という枠を超えて活躍の場を広げる Vol.16【siki 代表 磯田基徳さん、伊藤竜さん】#2>>
取材・文/佐藤咲稀(レ・キャトル)
撮影/柴田大地(fort)