ティール組織による美容師の幸福論とは?「BONDZSALON」鈴木太一さんの助言
ティール組織とは、組織変革に関する専門家フレデリック・ラルー氏が提唱し、世界各地に浸透しつつある次世代型の組織モデル。日本でもベンチャー企業などが積極的に取り入れている仕組みですが、美容業界ではあまり耳慣れない言葉です。
2021年6月、ティール組織としてリニューアルオープンした美容室「BONDZSALON」の経営を軌道に乗せ、注目を集めているのが鈴木太一さん。トップスタイリスト兼マネージャーとして、ニューヨークと日本を行き来しながら活躍を続けてきた経験を生かし、「美容師の幸せを追求する組織」を築いたそうですが……ティール組織って何!?
今回お話を伺ったのは…
鈴木太一さん
新潟県出身。都内の美容学校卒業後、2年ほどイギリス、イタリア、フランスなど海外をめぐる。約20年前にニューヨークにて美容師としてのキャリアをスタート。2020年10月に独立を果たすまで、トップスタイリスト兼マネージャーとして日本やアメリカで活躍していた。2021年6月には東麻布「BONDZSALON」をティール組織としてリニューアルオープン。2022年8月、初の著書である「『ティール組織』がもたらす美容師の幸福論: 美容室3.0の時代!ティール組織で業界を再編せよ!」を発行。
個人の自由を最大限に保証する改革でメンバーみんなが幸せに!?
――さっそく著書のお話しからお聞かせください。Amazonレビューが軒並み星5で高評価ばかりですね。
2〜3日前、はじめて星1という最低評価をいただいたのですが、それも嬉しかったです。「それは違う」というご意見があって当然ですから。さまざまな考えをお持ちの方に読んでいただき、賛否両論があるのが一番だと思います。それに高評価ばかりだったら組織票みたいで、なんだか胡散臭いですし(笑)。
――書籍を出したのには何か理由があるのでしょうか?
「BONDZSALON」をティール組織としてリニューアルしたら、メンバーみんなが楽しく働ける環境になったので「今まで作ってきた組織より良いものだ!」と実感しまして。単純にたくさんの人に知っていただき、導入できそうな組織があれば、ぜひ取り入れていただきたいと思って本を書きました。
――あらためまして、ティール組織とはどういうものなのでしょう?
一般的にティール組織は「自立分散型の組織」と言われています。「それぞれの個人がやりたいこと、得意なことを生かしながら参加できる組織」と考えれば分かりやすいはず。経営者などが上から指示を出すトップダウン型でなく、各個人が決定権を持って自由に働くことができます。
助言プロセスにより色々な角度から検証すれば、組織を自由に動かせる
――なるほど、各個人が自由にですか……組織として成り立つものなのでしょうか?
組織の意思決定に「助言プロセス」を導入することで成り立っています。各個人が組織の力を借りて行動する場合には「提案者」としてチームコミュニケーションツールの「slack」で提案し、そのほかのメンバーから「アドバイスをもらう」という決まりごとです。シンプルに「そのアイディアいいね!」となる場合もあれば「経費を使いすぎるんじゃない?」といった反対意見が出るケースもあります。そのうえで意思決定を行うのは、あくまで「提案者」。さまざまな意見をもらって多面的に物事が判断できれば、より良い決断ができるものです。もちろん、大前提として「個人の利益だけを追求する行為はやめましょう」というルールにはなっています。
――なんと、提案者本人に決定権があるんですか。ほかにも色々と細かなルールを設けないと問題が発生しそうですね。
そんなことはないですよ。そもそもルールとは信頼の欠如から生まれるものです。例えば「誰かがお金を盗んだ」としたら、それを禁止するルールを定めないといけません。そうして問題を起こす1パーセントの人のせいで、残りの99パーセントもルールに縛られて、結果的に生産性が低下しています。互いが信頼できる組織であれば、細かなルールを定めない方が効率的なんですよ。
集客をサポートしてもらいつつ報酬は自己評価制。信頼関係で成り立つ組織
――給与などの金銭面はどのようなルールがあるのでしょう?
「BONDZSALON」の場合、美容師としての基本的な報酬は全員が担保されています。そのうえで月額が保証される契約、売上に対するコミッション契約、レントチェア(面貸し)など、どのような形態でも選べるんですよ。金額に関しては「個人売上」と「仕事を担当した量」を基準に自己評価を申請する仕組みで、他人から評価されることはありません。また、会社としての利益をメンバーに再分配するルールなども設けています。
――報酬まで自己評価制とは……それでは集客も各個人が行うのでしょうか?
メンバーによる個人集客、メンバーが組織を利用して行う集客、組織が外部のマーケッターに委託して行う集客、3つのパターンがあります。予約サイトなどの有料サービスも「助言プロセス」で提案すれば、会社の資金が利用できるんです。サイト内でメンバーが掲載される順序なども「会社への貢献度」を基準にした自己評価で決めています。
――本当に個人の自由を最大限に保証する組織なんですね。お互いの信頼関係があって成り立つ組織だということが良くわかりました。メンバーから不満などは出ないものなのでしょうか?
これから入るメンバーも含めて15人ほどが在籍していますが、これまで組織に対する不満は聞いたことがないですね。もしも不満に感じることがあれば、それを自分自身で解決できる仕組みがありますから。人は誰かに規制されていることに対して不満を持ち、それを愚痴などで発散するものです。「BONDZSALON」の場合、個人の責任は伴いますが、本当に何でもできます。だから愚痴や不満の言いようがないんですよね。
みんなが幸せに働ける組織づくりのための3つのルール
今回の鈴木さんから伺ったお話しをまとめると、以下の3つが次世代型組織のポイントのようです。
1.組織と個人、それぞれの目的の重なる部分を見つけて追求する
2.メンバー全員が組織の決定権を持ち、さまざまな助言を受けてからどんなことでも実行に移す
3.役職がないので役職を演じることがなく、いつでも自分のままでいれて誰もが気持ちよく働ける
ティール組織の複雑な仕組みを、できるだけ分かりやすい言葉で噛み砕いて話してくれた鈴木さん。そのおかげで表面的な部分は理解できましたが……まだまだ奥が深そうです。後編では、ニューヨークで働いていた際の印象的なエピソードなど、鈴木さんの考え方を形成したバックグラウンドを交えつつ、ティール組織のデメリットなども聞き出します。次回もお楽しみにどうぞ!