「BONDZSALON」鈴木さんがニューヨーク&東京で感じた美容業界の未来とは?
組織としての意思決定をメンバー全員で行い、報酬、集客、働き方などに関しても個人の自由を最大限に尊重している「BONDZSALON」の鈴木太一さん。前編では、その仕組みの土台となっているティール組織についての基礎知識をはじめ、具体的な取り組みについても詳しく語っていただきました。
「ルールとは信頼の欠如から生まれる」「誰かに規制されているから不満が出る」など、目から鱗の考え方は、やはり自由の国であるアメリカでの経験で得たのでしょうか? 後編では、鈴木さんのバックグランドを教えていただきつつ、ティール組織についても一歩踏み込んだ質問をぶつけてみました!
今回お話を伺ったのは…
鈴木太一さん
新潟県出身。都内の美容学校卒業後、2年ほどイギリス、イタリア、フランスなど海外をめぐる。約20年前にニューヨークにて美容師としてのキャリアをスタート。2020年10月に独立を果たすまで、トップスタイリスト兼マネージャーとして日本やアメリカで活躍していた。2021年6月には東麻布「BONDZSALON」をティール組織としてリニューアルオープン。2022年8月、初の著書である「『ティール組織』がもたらす美容師の幸福論: 美容室3.0の時代!ティール組織で業界を再編せよ!」を発行。
自己主張しずらい重い空気が、日本の組織を停滞させている!?
――美容師としてのキャリアをニューヨークでスタートさせたそうですが、何か決め手があったのでしょうか?
色んな都市をめぐったなかでも、特にニューヨークは刺激的だったからです。電車のなかでダンスする人もいれば、歌い出す人もいたり、2000年くらいのニューヨークは大都市なのに荒削りな感じもある自由な雰囲気で、街からのパワーを感じました。毎日のように人生初の出来事が起こるので、歩いているだけで楽しかったです。
――「BONDZSALON」は個人の考え方を尊重する魅力的なサロンだと感じましたが、やはりニューヨークでの経験が大きく反映されているのでしょうか?
もちろんニューヨークで学んだことは多いですが、ティール組織についての知識は向こうで得た訳ではありません。アメリカは「自由の国」という印象が強いですが、日本のように格差が少ない世の中ではないため、どこにフォーカスするのかで見え方はずいぶん変わってきます。日々がむしゃらになって働いていて、休む暇もない優秀な人達がいる一方で、真面目に働かず物を盗むような人も多いです。
――確かに信頼関係で成り立っている「BONDZSALON」の印象とはかなり異なりますね。
そうですね。契約関係で成り立っている社会です。スタイリストとして契約を結んでいる相手に掃除を頼んでも「それは私の仕事じゃない」と断られてしまいます。そういった「主張をすること」は、自分と価値観の異なる相手とのコミュニケーションには大切なことなのです。
――「人種のるつぼ」と呼ばれているニューヨークらしいエピソードですね。
日本ではしっかりと主張しなければいけないことも、なかなか言い出せない空気が流れています。上司の機嫌を考えて提案方法を変えたり、相手のタイプを考えて主張を取り下げたり。そういった忖度のようなものは、組織にとって大きなマイナスです。その問題意識を持っている経営者にとって、ティール組織の仕組みは非常に役立つと思いますよ。
従業員が会社に対して抱くネガティブな気持ちは、組織改革で解決できるか!?
――鈴木さんがティール組織に興味を持ったきっかけを教えてください。
独立直後に顧問税理士から「太一くんが話している組織改革論は、ティール組織に近いと思うよ」と教えていただいたのがきっかけです。さっそく「ティール組織」の本を読んで学んでみたのですが……書いてあることは素晴らしいと思ったものの、実際に組織に落とし込む方法がまったく分かりませんでした。その後、愛知県の会社で実践されている「HOLIS式ティール型経営」という仕組みを知り、それを美容室の経営に落とし込みました。
――もともとお考えだった組織改革論はニューヨークで育まれたものですか?
ニューヨークと東京を合わせて、15年ほどマネージャーとして働く中で考えたことです。当時、東京で1店舗だったお店を4店舗にまで増やし、ニューヨークで展開していた支店の立て直しも行いました。企業目線で言えば順調なのですが、そういった経営拡大のなかでも次々と人は離れていきます。それぞれ辞める理由は異なりましたが「根本的に解決する方法があるのではないか」と、ずっと考え続けていたんです。僕は「従業員が辞めない組織」を目指したかったのですが、大きな組織で実行に移すことは不可能でした。
一緒に働いている人が幸せだから、自分も幸せに働くことができる
――ティール組織のデメリットも、そういった部分にありそうですね。
そうですね。ティール組織は「所属するメンバーが幸せに働くための組織」であって、株主を喜ばせるような仕組みではありません。ティール組織の目的が店舗数の拡大になることがないので、事業拡大を目的にすることには向いていませんが、従来の組織と比べて人が輝くので生産性も向上し、拡大を狙わずに自然と拡大ができます。
――そう聞くと、従来の仕組みって株主や経営者だけが幸せで、従業員がつらい思いをする組織になってそうですね。
恐らく、そうなっている組織も多いでしょう。しかも株主や経営者は、その問題をなかなか認識できないものなんです。トップダウン式の場合は、下からの声は上に届かないですから。つらい思いをさせて従業員を働かせている会社は、不幸せの連鎖が起こります。そういった空気はお客さまにも伝わるもので、居心地の悪い空間になり、集客などに悪い影響が出ている場合もあるでしょう。ティール組織の場合は個人の自由度が保証され、会社の理念に当てはめようともしません。個人は会社の目的と個人の目的の重なる所を探し、自分の中でブランドを構築していけます。
――みんながハッピーな組織の方が魅力的ですよね。
そうですね。僕自身も好きな仕事だけをしています。楽しくサロンワークをしているうちに、自然とメンバーが増えて、店舗が手狭になったので、表参道に新しい店舗ができました。メンバーみんなが笑顔で働いているし、こんな幸せな環境を広めていけるんだったら楽しそうだなと思って、最近コンサルティング事業もはじめたんです。すでに2社と契約を結んでいるので、どのようにより良い組織を作るのか、ティール組織ばかりに固執せず、集客のノウハウだったり、単価アップだったり、これまでに実践して上手くいった取り組みを全て提供して、さまざまな問題を解決していけたらと思っています。
美容業界のみんなが幸せに働くために重要な3つのこと
今回の鈴木さんのお話しには、これからの美容業界に大切なヒントがたくさんありました。
1.考えたことをしっかりと主張できる環境と風潮を組織が整えて、個人も組織も成長に導く
2.自由と責任、決定権を持った個人が組織をよりいいものに変えれるように、信頼で成り立つ規制のない繋がりをつくる
3.美容師が美容師を最大限楽しめて、幸せに働ける環境を構築し、その幸せをお客さまにお裾分けできるような好循環を作っていく
ティール組織のような幸せに働ける環境を美容業界に根付かせて、組織同士の横のつながりも広げていきたいと語る鈴木さん。「自立分散型のティール組織」の集合体がDAO的な「自立分散型の組織」になって……と、さらに遠い未来まで見据えているご様子でした。今回の内容に興味を持った方はぜひ鈴木さんの著書「『ティール組織』がもたらす美容師の幸福論: 美容室3.0の時代!ティール組織で業界を再編せよ!」もチェックしてみてくださいね!