俳優とパーソナルジムトレーナー経営、二足の草鞋を履く男 私の履歴書 【パーソナルトレーニングジム・トレーナー兼オーナー 山口大地さん】#1
今回ご登場いただくのは、舞台やドラマ、映画などで幅広く活躍する俳優・山口大地さん。俳優としての山口さんは広く知られていますが、実は、もう一つの顔があるのをご存じですか? 自身のパーソナルトレーニングジム「精神と時のジム(通称:時ジム)」を開業・運営し、トレーナーとしても活動されています。
俳優業とパーソナルトレーニングジム事業との両立を見事にこなす山口さんですが、そこに至るまでには様々な挫折や葛藤を乗り越えてきました。
前編では、トレーニングとの出会いや事業立ち上げの経緯、そして苦しい時期を乗り越え、見事成長を遂げるまでをお話しいただきます。
DAICHI’S PROFILE
- お名前
- 山口大地
- 出身地
- 鹿児島県鹿児島市
- 年齢
- 36歳(2024年9月時点)
- プライベートの過ごし方
- キャンプ、釣り、サウナ、犬の散歩
- 趣味・ハマっていること
- キャンプ、トレーニング、料理、DIY
- ジム設備へのこだわりがあれば
- 「DIYを駆使した内装です。トレーニングマシンや器具の色も、極力内装に合わせた色調にしています。渋谷店のモルタル調の壁も自分たちで塗りました。渋谷店も二子玉川店も内装にこだわることで、親しみやすいカフェのような感覚でお越しいただきたいですね」
「トレーニング」は精神的にも肉体的にも自分の軸となっている
――山口さんとトレーニングとの出会いは、どのようなものだったのでしょうか?
22歳の時、事務所に所属してからずっと自分の武器やアイデンティティを探していました。その一環として本格的に始めたのがトレーニングです。
当初はジムに通うのではなく、自宅にトレーニングのマシンを購入し、独学でトレーニングをしていました。日々の努力が目に見えて形になっていくトレーニングに夢中になっていき、どんどん習慣化・本格化していきました。俳優業のプラスになればと、大会に出場したこともあります。
しかし20代後半の時期、なかなか思うように進まない現実に直面し、自律神経失調症や不安神経症を患ってしまったんです。
――そんなつらい時期を、どのようにして乗り越えられたのですか?
まずは、生活習慣や食事、仕事への向き合い方や人間関係、運動習慣の見直しを行いました。体調を崩したのは今の自分がいろいろと無理をしているからだとわかっていましたし、何かしら見直さなければいけない時期なのかなと感じていたからです。
また、その中の一環として、トレーニングに対しても今までより本格的に向き合うようになりました。トレーニングの習慣化により自律神経のバランスも整い、体調もメンタル状況もどんどん良くなっていきました。今では、自律神経失調症や不安神経症もほぼ完治しています。
――そこから、パーソナルトレーニングジムを開業するに至ったのはなぜですか?
俳優業だけでなく何か事業を立ち上げ、誰かの役に立ちたいという思いが強くなったからです。
そして「僕が少しでも誰かの役に立てることはなんだろう?」「自分の得意なもの、自分の武器はなんだろう?」と考え抜いた先にあったのが、トレーニングに関する事業でした。
トライアンドエラーを繰り返しながらもスタートしたパーソナルトレーニングジムに、試練到来!
――パーソナルトレーニングジムを開業するにあたり、具体的にどのように動きましたか?
まず、トレーニングやマッサージなど、体づくりを行う上で必要となる知識を幅広く補強しました。具体的には、その道のプロの方に依頼をして、スタッフと一緒に講義を受けたり、実際に研修をしていただいたりしました。
場所については、最初は間借りから始めましたね。料金形態を定額にして通い放題にする、いわゆる“サブスク“の制度を取り入れて「パーソナルトレーニングジムは高価ではない!」というメッセージを打ち出したのも刺さったと思います。
そのうちに少しずつお客様も増えてきたので、記念すべき1店舗目を渋谷で開業することにしました。
――パーソナルトレーニングジムを開業するにあたり、心がけていたことはありますか?
トライアンドエラーを恐れないことですかね。とにかく行動あるのみでした。始めてみると改善点はいくらでも出てくるので、その都度修正の繰り返しです。ただ、リスクを取りすぎても後から大変ですから、取れるリスクの許容範囲を決めることが大切ですね。
この頃はまだ事業を行っていることを、俳優・山口大地として公表していなかったので、基本的に僕は裏方に徹していました。今になって思うことですが、俳優としての名前を使うことなくビジネスを成立させられたことは、自分の自信にもなりました。
――順調に進んでいたのですね!
全く順調ではなかったですね。融資を受け出店した直後、コロナ禍になってしまったんです。売上も3分の1まで落ち込み、かなり危機感を覚えました。
また、トレーナーの人材育成や人選も自分の中では大きな課題でした。パーソナルトレーニングはお客様がトレーナーに依存しやすいサービスですので、トレーナーの退社に伴いお客様が退会してしまうんです。2人しかいない店舗で、その2人のトレーナーが同時に辞めてしまった時は、本当につらい状況でした。
加えて、トレーナーが自らの成功体験をベースにした、お客様のニーズと向き合えていない指導をしてしまうケースも見受けられました。
お客様は「人」につく——失敗からの学びを生かして、V字回復!
――厳しい時期を乗り越えたきっかけや経緯を教えてください。
弟のように思って親しくしていた後輩が、精神と時のジムに入ってくれたことが一番のきっかけですね。
彼は僕が「パーソナルトレーニングを通してお客様に提供したいこと」を丁寧に汲み取ってくれ、僕の代わりに現場でそれを体現してくれました。そして新しいスタッフが入ってからも彼らの手本となってくれたんです。おかげで、やっと自分が思うパーソナルトレーニングジムに変化していきました。
――このような苦しい時期から、学んだことはありましたか?
「お客様は“人”につく」ということ、そして「スタッフの人柄や誠実さが、ジムの評価に直結する」ということですね。そこで、僕は、2つの施策を打ちました。
まずは、お客様がトレーナーに依存しないビジネスモデルの構築です。1人のトレーナーがお客様を抱え込まないようにシステムを変えたことで、各スタッフの人柄や知識をお客様に楽しんでもらうことができるようになりました。
続いて、「お客様ノート」というものを始めました。お客様とのトレーニング内容だけでなく、その際に話したお客様の好きなものや最近の出来事など、話題にできそうなことも合わせて記しておき、トレーナーみんなで共有できるノートです。
一緒にトレーニングをしていても、なかなか距離の縮まらないお客様もいます。そういった時は、まずお客様が興味のあるものを聞き出し、それを体験するところまでやろう! とスタッフに指導しています。すると徐々にお客様も居心地が良くなり心を開いてくれるんです。お客様の好きなアーティストがわかれば、その時間はそのお客様が好きな音楽をBGMにすることにしています。些細なことかもしれませんが、それだけでもジムで過ごす時間がぐっと楽しいものになるんです。
大切なのは、お客様がトレーニングだけをしにきているという認識を捨てること。僕らができるすべてでここにいる時間を楽しませる、ということなんです。トレーニングはそのツールの一つでしかありません。
――トレーニング以外でもパーソナルな心遣いを感じられるのは、とても心地よいですね。
コロナ禍を乗り越え、スタッフの選定や人材の育成、店舗の立ち退きや騒音問題など、あらゆる事を経験し、その度に精神と時のジムはより良い場所になってきたと感じています。ユニクロの柳井会長がおっしゃっていました。「すべての答えはお客様の満足にある」と。そういった考えを大切にしてきた結果、会社の状況も少しずつ良い方向に向かってきました。
今、パーソナルトレーニングジムって本当にたくさんありますよね。しかし、今の「精神と時のジム」のトレーナーの質、続けやすい価格帯と内容、そしてお客様を大切にする姿勢など、どれをとっても他に負ける気がしません。
心身の不調をトレーニングによって復調させた経験を世の中に生かしたいとの思いから、思い切って始めたパーソナルトレーニングジム事業。コロナ禍による経営難をはじめ試練が舞い込みますが、信頼できる仲間と協力しながらトライアンドエラーを繰り返し、見事V字回復を遂げました。後編では、俳優業との両立についてや山口さんの「精神と時のジム」に対する思い、そして今後の展望についてお伝えします。
撮影/内田 龍
取材・文/勝島春奈
Gym Data