偶然から生まれた『美しさ』を形にNAGAE+ #2
日本国内のモノづくり、どのくらいご存知ですか? 大量生産に埋もれて、ますます価値のあるものが見失われていくいまこそ、ていねいなモノづくりをしているブランドを知るべき時。日本全国の、さまざまな“モノ”や“コト”をストーリーを交えて、いま一度見直してみたいと思います。きっと生活を豊かなものにしてくれる、モノやコトに出会えるはずです。
工業製品と聞いて、いったい何を連想しますか? 車や機械といったものを想像して、なんだか物々しく硬くイメージを持ってしまう方がほとんどではないでしょうか。今回ご紹介するのは、工業製品の中でも金属加工の技術を生かしたものづくりをしているブランドです。冷たいイメージを持つ金属が、美しい製品に生まれ変わるまでのお話を、このブランドをプロデュースしている鶴本晶子さんにうかがいました。
溶かした錫を砂型に流し込み、それを取り出して美しく研磨する。簡単に作り方を説明するとこうなりますが、職人にとっては、いかに美しく均一に研磨したものであるかが価値あるものとして長く認識されてきました。けれどもNAGAE+の製品は、工業製品の製造で培ってきた、品質にこだわりぬき、ひとつひとつが同じ高い品質性を保つ製品であることと、またそれと並行して、工業製品と工芸品の間のような製品も開発しています。これは、以前のチタンのテーブルウエアブランドの経験から得た職人とのやりとりから。当時、工場で偶然できた形をそのまま生かすことで、製品に特徴と付加価値をつけられることを学んでいたからです。
「きれいな仕上げをしてこそ製品である、と思っている職人にとっては、形がふぞろいであったりするものは“これは失敗作”という位置付け。私はその製品は、とても素敵で意味のあるものとして必ず人々に受け入れられると、何度もお願いして製品にしてもらいました。そして製品が売れた時の嬉しさといったら。売れるという実績をつくることで、職人も製品として価値があるものということをわかってもらえたのです。
現在NAGAE+で開発中の錫ゴブレット(仮称)も、職人との試行錯誤を繰り返し、ようやく形になってきたところなんですよ」
「このSHIKICOLORSのカップは、錫を流し込む時にできた表面の気泡のざらつきや、そして凸凹の底をあえて研磨せず、自然の形のまま生かしていることが特徴です。つまり、世界でひとつのカップでもあるのです」
表面は手触りの良いところまで、ニュアンスを残して体裁を整えているというのが、またこだわっている部分でもあるのです。使う人の気持ちにもきちんと寄り添っているのがNAGAE+の気配りでもあると言えそうです。そして、もうひとつの特徴が美しい色。
「錫に色をつけるのはとても難しいことなのです。既存の錫製品といえば、シルバー色というイメージ通り、金属の色そのものでしかなかったものが多いのです。けれども私はここに美しい発色の色を施してみたかったのです。そこで見つけたのが、東京の町工場。京都の老舗の染料を使って、この工場が持つ技術であの美しい色をつけることが可能になりました。その時の嬉しさといったら。工業製品の技術と京都の伝統的な染料が美しく融合したといえる、まさにNAGAE+が目指しているものが実現したのです」
色を纏った錫のカップは、セラミックコーティングで最後のお化粧が施されています。半透明のガラス質を通して発色はさらに鮮やかに、そして製品全体を上質なものに見せてくれます。
「この錫の取り組みにあるように、工業製品といっても、機械があればなんでもできるというわけではないんです。そこには人の知恵や工夫、そして技術が伴うのです。同じ機械を使ったからといって、だれもがこの錫のカップをつくりだせるわけではありません。高い技術力、モノづくりに対する熱い思い=パッションがなければ、なりたたないのです。そういう姿勢でものを作る人々の思いを繋げていくのが、私の仕事。だからNAGAE+の母体であるナガエの製品作りだけでなく、他の企業とも協力して世界に誇れるものを作っていく。そういう取り組みをしていくのが私の使命であり、やりたいことでもあるんです」
ひょんなことから金属加工の世界と出会い、そして日本のものづくりを世界発信することになった鶴本さん。その思いが形になって、どれも素晴らしいものが続々とできあがっています。次のPart3では、女性を彩るNAGAE+の取り組みについてご紹介します。
構成・文/高橋麻紀子 Edit&Text:Makiko Takahashi
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