菅原順二 interview:ラグビー選手から、パーソナルトレーナーの道に進んだ今
『人体の動きのペースを作るトレーナー』として、野球選手やバレリーナなどから信頼を得てきた菅原さん。彼が立ち上げたパーソナルトレーニングスタジオには、トップアスリートやモデル・女優も身体のメンテナンスに通っています。「10年後も生き生きと動けるように、まずベースを作ること」にこだわり続ける菅原さんの熱い仕事論をお伺いしました。
ラグビー名門校を卒業後、ニュージーランドへ
「小さい頃からスポーツが好きで、勉強よりも水泳や野球をやってばかりの子供でした。小学校高学年くらいにラグビーに目覚めて、中学・高校はラグビー部、そしてラグビーの名門である法政大学に入学し、ずっとラグビー三昧の日々を過ごしました。大学を卒業すると大抵のラグビー部員は企業に就職し、社会人ラグビー選手となります。ところが僕はあまりいい選手ではなかったので、誘ってくださったチームがあまり強いチームじゃなかった。生意気にも「嫌だな」と思い、どうせなら一番強いところに行きたいと考えて、思い切ってニュージーランドに渡りました。世界で一番ラグビーが強い場所。それがニュージーランドだったんです。
ニュージーランドではラグビーは国民的スポーツで、小さな子供から女性までやっているスポーツです。プロになるとお金を稼げるので、ちょっとアメリカンドリームみたいな感じで、周りの国の人たちが移住してくるほどです」
世界の壁の高さに挫折を味わい、トレーナーの道へ
「ニュージーランドには丸2年いました。1年目はラグビーをやりながら語学学校へ行き、2年目はラグビーを辞めた後のセカンドキャリアにつながるよう、スポーツトレーナーの専門学校に入学しました。
結論から言うと、世界のラグビーはとんでもなくて、プロになるためのハードルの高さが半端なかった。自分はプロにはなれない。そう思いました。そこでトレーナーを目指したのは、挫折感もありましたが、カルチャーショックの部分も大きかったです。
ニュージーランドって、環境がすごく良いんです。ラグビー環境はもちろん素晴らしく、至るところに地元に密着したクラブがあり、さらに様々なグレードに分かれています。ですから、ほとんどの人が自分に合ったレベルでラグビーができる。それとはまた別に、人が生きていく環境というものも素晴らしいんです。朝はジムでトレーニングしてから会社に行き、会社が17時で終わったら、帰ってラグビーをする。遊びと仕事を両立するのが当たり前。自然も多いですしね。ふと見ると羊の群れがいて、人間の数よりも羊の方が多い感じで(笑)。
そういうことを感じるうちに、自分がラグビーをやり続けるよりも、日本でいろいろな事を伝えていける人になりたい、という気持ちが強くなり、トレーナーの勉強を始めました」
帰国後、母校ラグビー部のトレーナーに
「勉強が終わってから、ノープランで帰国しました。さてこれからどうしようと考えていた時に、母校である法政大学からトレーナーをやらないか、と声をかけていただきました。まだ実務経験がなく、ただニュージーランドから帰ってきたってだけの僕に声かけてくれて、すごく嬉しかったです。
その上、前任のトレーナーが辞めた後に入ったので、初の職場で先輩も上司もいない。全部任せてもらう形になりました。監督やコーチ陣と話し合いながら、「こういうトレーニングはどうですか」と提案していって、納得してやってもらう。最初は大変でした。ただ、僕が4年生の時に1年生だった学生たちが、そのチームでは4年生。つまり顔見知りだったんです。なので、コミュニケーションを取りやすく、みんなに助けられました。学生からしたら嫌だったでしょうけどね(笑)。
トレーナーの仕事は、チームが勝つ方向に持っていくこと。チームの伝統を継承しながら、今いるメンバーのパフォーマンスが最大限に上がるようにすることです。始めた当初は、ニュージーランドの経験が大きかったです。海外の練習方法を取り入れるように提案したり、日本のトレーニングで必要ないものを削ったりしていきました」
選手が活躍するサポートをできることが一番嬉しい
「ニュージーランドから帰国直後から、ずっとフリーで活動しています。ありがたいことに、いろいろな方から声をかけていただいたので。最初の頃は二つのラグビー部でコーチ兼トレーナーをやっていましたし、スポーツジムのパーソナルトレーナーやピラティススタジオのアドバイザーなども入れると、同時に3~4つの仕事を請け負っていたことも。ところがある年、全ての仕事の契約が切れてしまったことがありました。
でも、あんまり深く考えてなくて(笑)。ニュージーランドにいた頃から、子供たちをトレーニングしたいという気持ちが自分の中に強くあり、ちょうど時間ができたので子供のラグビーチームをボランティアで教えていました。そうやってしばらくブラブラしていて、せっかくだから自分のスタジオを持って教えたらどうか、と考えて始めたのがこのスタジオです。
自分が選手時代にいちばん辛かったことは、大学4年生の時に試合に出られなかったことです。なので、伸び悩んでいる選手や、怪我や体力の衰えなどの理由で試合に出られない選手を活躍させてあげたいという気持ちがすごく強いです。今は、担当している選手が試合で結果を残してくれること、そのサポートをできることが一番嬉しいです。自分が評価されるよりもずっと!」
全くできなかった、初めてのピラティス
「ピラティスを知ったきっかけは雑誌で行った対談です。僕の対談相手がピラティススタジオを経営していて、『遊びにおいでよ』なんて軽く言われて、こっちも『行きます行きます』って軽いノリで行ってみました。そこで体験してみたら、なんと全くできなかった(笑)。習っている人はダンサーさんとかしなやかな人ばかりで、無駄な筋肉がついて身体が硬いのなんて自分だけで、完全に劣等生でした(笑)。
今まで運動神経が良いと思っていて、ある程度なんでも動けたのに、ピラティスでは全く何もできなかった。自分はこんなにできないんだ、こんなにも足りないんだ、と思い知りました。それが、逆に面白かったんです。続けたら自分の身体が良い方に変わるんじゃないかと思い、ピラティスを習い始めました。そして、指導者資格を取って、みんなに少しずつ教えるようになりました」
身体の基礎を作るピラティス
「ピラティスの特徴は、体幹やコア、インナーマッスルを鍛えると言われています。もちろんそうには違いないのですが、それはピラティスの一要素でしかないと思っています。僕がピラティスの大きな特徴と考えているのは、『身体全体を上手く動かせるようになる』ことです。例えばずっとPC作業などで同じ姿勢を続けたり、スポーツの練習で同じ動きを反復したりすることによって身体にクセがついてしまうんですが、それを元に戻し、人間が生活しやすい本来の身体に戻すことができるメソッドなんです。
ピラティスは身体を本来の動きができるように整え、さらにベースを鍛えることができる。ベースが鍛えられると腰痛などのトラブルが減りますし、怪我が少なくなります。スポーツ選手にとって怪我が少なくなることは非常に大きな意味があります。現役を長く続ければ続けるほど経験値が増えるので、セカンドキャリアの幅が大きくなります。一般の方も同じです。10年後、20年後にもずっと健康な身体でいられるように、基礎を鍛えなければいけません。飽きずに楽しんで、身体をメンテナンスしていってほしいです。今やっている人とやってない人とでは10年後の身体が全く違いますから、年齢を重ねた人はもちろん、若い人もぜひトレーニングを始めてほしいです」
将来は、ジュニア選手をしっかり育てたい
「僕は、仕事のストレスはあまり溜まらないタイプなんです。ストレスを感じないことはないけど、あまり持続しないというか、引きずらないようにしています。あまり、仕事っていう観念がなくて、スポーツ選手と遊んでるだけって感覚だからかもしれません。
2019年に東京でラグビーのワールドカップが開催されます。そしてその翌年は東京オリンピック。個人的な夢としては、これらに何か関われたらいいと思っています。とはいえ、僕は日本代表のトレーナーをしたいとは思っていなくて、ジュニアをしっかり育てたいという思いがあります。今から育てることを考えると、今の中学生・高校生が重要になってくる。ニュージーランドにいた時から子供たちの育成に興味があったので、将来の選手たちをちゃんと育てられる仕組みを作っていきたいと思っています。簡単ではないでしょうけどね(笑)」
アップデートは一生続く
「今、このスタジオでおすすめしているのは、マスターストレッチというもの。イタリアから輸入した靴のような器具を履いてトレーニングをするもので、すごく筋肉が伸びます。全身の筋肉を伸ばしながら鍛える。そうすると関節がちゃんと動かせるようになります。僕は最初、ピラティスと同じように全くできなかった(笑)ので、足りないところを補えるんじゃないかと思い、始めました。
僕がトレーナーとして大事にしていることは、『万能なものはない』という考え方です。ピラティスをやってさえいれば全ての筋肉が鍛えられるかというと、そういうことはないです。やはりウェイトトレーニングなどの従来のトレーニングは必要だし、医学が進歩すればトレーニングの考え方も変わってくる。トレーニング学はお医者さんと一緒で、一生アップデートしていかなければいけないものだと思っています。
これからスポーツトレーナーを目指す人がいたら、どんどんやってほしいと思います。未病……つまり、病気になる前に何とかすることができるし、怪我した人のリハビリもできる。素晴らしい仕事だと思います。そのためには、常に医学やスポーツにアンテナを立て、自己投資をして、自分をブラッシュアップしていかなくちゃいけない。勉強することがたくさんあって大変ですけど、深く知ることは面白いですよ。
僕は古いものが好きなので、調べることは苦ではないんですよ。そうして、スポーツにおいてもっと上のレベルに行きたいと高みを目指す人々のサポートができたら、こんなに嬉しいことはないですね」
Profile
菅原 順二(すがわら じゅんじ)さん
全米公認ストレングス&コンディショニングスペシャリスト(NSCA-CSCS)
トレーニングスタジオ アランチャ代表
名門・法政大学ラグビー部でプレーした後、単身ニュージーランドへ渡る。「日本のラグビー界に恩返しがしたい!」とNZISに入学し、トレーニング学等を学ぶ。帰国後ピラティスと出会い、マスタートレーナーの資格を取得。自身の経験からの分かりやすい指導で、ラグビー選手、プロ野球選手やバレリーナなど、各アスリート達から絶大な信頼を得ている。
Profile
トレーニングスタジオ アランチャ
ピラティスを中心に、マスターストレッチなどの新しいメソッドを取り入れた、身体と心のコンディショニングエクササイズを提供するスタジオ。一人ひとりにカスタマイズされたパーソナルトレーニングが受けられる。
プロのアスリートはもちろん、ダンスやマラソンなどでパフォーマンス向上を目指す方、肩こりや腰痛などでお悩みの方なども、気軽に相談できる。
一日体験レッスンも可能。詳しくはサイトへ
〒153-0061東京都目黒区中目黒1-7-17-2F
TEL:03-6324-5528 ※完全予約制
アランチャ 公式サイト
http://www.arancia78.jp/