二神健一 interview:まわりから「求められること」に応えたいという思いと気持ち
「自分にしかできないことは何か、自分に求められているもの何かを意識しながら仕事をしています」と語る二神健一さん。自分という形をしっかりと持ちながらも、置かれた立場で柔軟に対応し、常に成長する努力を続けています。ヘアメイクアーティストの枠を超えて自分の可能性を追い求める姿は、転職を考える皆さんに勇気を与えてくれるでしょう。
自ら選んだ厳しい美容室で
「僕にとっての『美容師』のイメージは母でした。カット、パーマ、メイク、着付けなど全てをこなし、休みはほとんどない。どんなに高熱があってもお店では笑顔でお客様に接している。そんなに忙しいのに、母は『やりがいがある』と言うんです。そのやりがいって何だろうと思ったのが、美容師になるきっかけでもあります。母に勧められて東京の美容専門学校に通い、卒業後は学校が推薦された吉祥寺の一番厳しい美容室に入りました。担任に『最初に厳しい店に行けばどんなところにも行ける』と言われたからです。美容師になってこれまで、仕事を辞めたいと思ったことはたった一度だけ。その店で働き始めて3ヵ月ぐらい経ったころでしょうか。上司と自分の『美容師』としての考え方が違うと感じた時です。でも諦めるのが嫌な性格なのと、3年間でデビューをするという目標を立てていたので、がむしゃらに突き進みました。結局、同期の中では2番目にデビューできました。厳しさの中で先輩たちとの絆も深くなり、今でも交流が続いています」
お客様の要望でメイクの世界へ
「その店で、お客様の一人から『メイクを教えてほしい』と言われました。でも、僕には学校時代に勉強したメイク技術しかなかったんです。そこで、美容室を辞めてメイクの勉強をしよう、どうせなら超一流の方に弟子入りしようと(笑)。有名なメイクアップアーティストさんのサロンに電話して、幸運にも採用していただきました。そのサロンは六本木にあり、吉祥寺の美容室とは客層も料金もまったく違いました。その差を埋めるにはどうすればいいのか悩みました。その時気づいたのが、満足度を高めることです。表参道のおしゃれなカフェで800円のコーヒーを飲むのと、チェーン店の300円のコーヒー。同じコーヒーで何が違うのか。それは、カフェの質、過ごした時間、サービス、すべてが満たされるからだと。そして、それができるのがプロだと思ったんです。
それからは、メイクのレッスンやミーティングなどで、休みはほとんどありませんでした。でも、最初の美容室も大変でしたし、それを当たり前のようにしていた母を見ていたので、僕にとっても当たり前のことでした。3年間ほどそこで働いたころに先輩に声をかけていただいて、ヘアメイクの事務所を一緒に立ち上げた後、自分で試してみる時期なんじゃないかと思い、10年ほど前にヘアメイクアーティストとして独立することを決めました」
その場にしかない一瞬を大切にする
「先輩の事務所では、ヘアメイクアーティスト、スタイリスト、フォトグラファー、スタジオ運営、キャスティングなど、さまざまなことに携わってきました。おそらく、多くの美容師さんやヘアメイクさんとは違った生き方していると思います。ヘアメイクアーティストですが、時にはキャスティング、時にはフォトグラファーのマネージャー。状況によって自分の立ち位置を変えます。撮影媒体をヘアメイクの目線から見るのと、フォトグラファーの目線から見るのと、モデルから見る目線とはすべてが違います。でも、みんなで一つのものを作るという方向性は同じ。クライアントが求めているものを明確にして、何が必要かを考えるのが自分の仕事だと考えています。ヘアメイクアーティストは現場が命です。その時間、その天気、そのメンバーで仕事をするのは一度きりです。たった一枚の写真でも、その場でどれだけ最高のものを出せるかどうかが勝負。だから絶対に妥協はしません。モデルさんが有名だろうがそうじゃなかろうが関係ありません。最高級のもの目指さすからこそやりがいがあるし、ハマって仕上がった時の達成感も大きいです。クライアントから『仕上がりが良かったよ』という評価をもらえると、やった! と思いますね」
プロと働くために自分もプロになる
「最初に言ったように、美容師は何でもできるというのが僕のイメージです。もちろん、これは人それぞれであり、ヘアだけのプロでも、メイクだけのプロでもいいと思うんです。ただ僕自身に限って言えば、全部のことができてこそ、ヘアメイクアーティストをしているという感覚です。ノンジャンルで生きている……という感じですね(笑)。知らない分野があると、なんだか悔しくて陰で勉強しちゃうんです。例えば、ナイトセットをしている知り合いを手伝いに行った時に、自分には全然うまくできなかったのが悔しくて、ナイトセットをしている友達のところに夜な夜な練習しに行ったことがあります。実際には使わないテクニックでも、身についていれば要素を引き出して自分なりに噛み砕いて使えます。逆に吸収しなければ、自分の幅は広がっていきません。
撮影の現場では、この人はほんとにプロのモデルさんだなとか、この俳優さんすごいなという人と出会います。このフォトグラファーさん、すごいプロだなと思うとプレッシャーを感じますね。でもそのプレッシャーがいい刺激になって、僕もやろうってなります。プロの世界の仕事だから、自分もテクニックに磨きをかけて、プロであり続けたいと思います」
自分を見つめなおす時間も大切に
「これだけ自分を主張してますが(笑)、時には自分を客観視するようにしています。まず、自分に何ができるか、何をしたいか、どういう人間かを自己申告して書き出します。それから、自分という人間が他人からどう思われたのか、何を言われたのか、その言葉を全部書き上げます。そうすると、自己申告したことと他人からの評価には、たいてい誤差があるものです。もし合致していれば、自分が思っていることが他人からも認められているという証拠です。それで言えば、『教育』の面で特に結果を出せたと思いますね。ビューティースクールの講師をしていた時、スクールから『出席率が86%と図抜けて高いのだが、どんな授業をしているんですか』と尋ねられました。僕がしたのは、以前の先生のマニュアルを一旦白紙に戻し、僕にとって伝えやすい授業のカリキュラム作りでした。ここまで覚えてくれればいい、という内容です。教えたいと思うことが100あるとして、30%が相手に伝われば、言いたいことは分かってもらえるはずです。あとは本人たちが自分なりにやっていく。ヘアメイクというのはそういう仕事だと思います」
自分に合う仕事を探している皆さんへ
「僕は、何が何でも美容師になりたいと思っていたわけではありません。就職先に迷っていた時に、美容師の母に後押しされました。ヘアメイクアーティストになったのも、お客様の一言からでした。いつも周囲からきっかけをもらい、それに従って自分の目標を立ててやって来ました。やるって決めてからはすごく勉強しましたし、やりがいも生まれてきました。でも、すべての人が僕と一緒である必要はまったくありません。理由は何でもいいんです。美容が好きだから、なんとなく興味があるから。それだけでも十分だと思います。ただ、何をするにしても期限を決めるといいでしょう。それは僕が自分に課していたことでもあります。時間はみんなに平等です。1年間ここで働くと決めたら、1年間がんばってみてください。
よく、うまくいかないと他人のせいにする人がいますが、それはダメだと思います。選んだのは自分なんだと意識すること。自分が決めた期限の中で、何ができて、どうだったのかを考えてみる。もし自分に合わなかったと感じたら、その時点で次の目標や期限を決めるといいんじゃないでしょうか」
Profile
二神 健一(ふたがみ けんいち)さん
ヘアメイクアーティスト
愛媛県松山市出身。山野美容専門学校卒業後、美容室勤務を経て、一流メイクアップアーティストに師事し、サロンワークだけでなく撮影の現場で数多くの経験を積む。2009年、ヘアメイクアーティストとして独立し、「Rire」を設立。TV、CM、MV、広告撮影、各種ショーなど幅広いジャンルで活躍。ヘアメイクセミナーの講師として人材育成にも携わる。
Company
Rire(リール)
イベント、ショー、テレビ、講演など、さまざまなシーンに対応して、経験豊富なプロのヘアメイク、フォトグラファー、スタイリストの手配を行っています。モデルエージェンシーと提携してモデルのキャスティングもしていますので、企画の趣旨に沿ったクリエーターの手配をまとめてお受けしています。
東京都渋谷区本町1-7-7-villa301
TEL 03-6276-1705
Rire(リール)