優良施設は業務効率でわかる! 経営改善に必要なオペレーションの見直し
新型コロナウィルス感染症(COVID-19)で世の中の流れが大きく変わった2020年、そしてまだまだその影響が続く2021年も、早くも4分の3が過ぎています。比較的新型コロナの影響が少ないとされた介護業界でも、新型コロナを機に浮彫りになってくる課題も多々ありますが、その中でも最重要課題としては少ない人数でもしっかり回すための業務の効率化でしょう。
今回、withコロナといわれる介護業界の現状とこれからについてを、株式会社船井総合研究所にて介護事業や医療業界全般の専門コンサルタントとして活躍中の沓澤 翔太(くつざわ・しょうた)さんに伺いました。
お話を伺ったのは…
株式会社船井総合研究所
地域包括ケアグループ マネージャー
沓澤 翔太(くつざわ・しょうた)
デイサービス、特別養護老人ホーム、有料老人ホームなどの新規開設、収支改善、異業種からの介護事業への新規参入支援などを手がける。現在は、デイサービスや有料老人ホームの利用者獲得や新規開設を中心にコンサルティングを行っている。
介護事業所のコンサルティング以外にも、療養病床の転換や訪問診療など医療業界のコンサルティング実績や医療器具の販売促進支援など介護周辺事業についても実績を持つ。
従業員から見た良い施設のポイントは、給与よりも働きやすさ
まず、今回の新型コロナで大きく打撃を受けたのが働き方です。そもそも深刻な人材不足が指摘され続けた介護業界ですが、新型コロナの陽性者や濃厚接触者が出た場合2週間待機となるため、少ない人手に対してさらに負荷が大きくなりました。
さらに新型コロナによる三密予防のため、これまでまとめておこなっていた業務も細切れでの処理や都度消毒作業が必要となり、業務効率が落ちています。そのため、従業員の待遇としてはさらに悪化しているところも少なくありません。
従業員としても、入浴や食事の介助は濃厚接触者となり感染リスクも上げることから、新型コロナの対応が定まっていなかった2020年の前半でクラスターが出てしまった施設では退職するスタッフもいました。介護業界は基本的に社会保障のスキームの中で成り立っているので、たとえ業務量が増えたとしても、忙しさに比例して給与が上がるわけではない点が働き手としてはネックです。
「介護施設の収入の大部分を占めるのは介護報酬です。エリアによって、報酬に若干の差はありますが、基本報酬には差がありません。そのため、エリアによっては人件費や地価が高いので、必要経費が多くかかってしまうところもありますが、基本的な利益率としては変わりません。
ほかの業界で待遇をよくするとなるとまずは給与アップのイメージだと思いますが、介護施設の場合、売上を上げるにあたっても定員が定められており、売上に上限があるため、給与を上げる・上げ続けるということは現実的ではありません。」
従業員の待遇を給与でカバーできないため、職場環境を整えるためには、休みや勤務体制といった施設のオペレーションを見直す必要があります。実際、オペレーションがスムーズな施設はスタッフの負荷が最小限で済む工夫がされているため従業員満足度が高い傾向にあり、できていないところは採用がうまくいっていないケースが多いようです。
介護職のスタッフの労働条件に対する悩み調査を見てみると、圧倒的に人手不足を感じていることが分かります。令和元年度「介護労働実態調査」の結果によると、労働者の労働条件・仕事の負担に関する悩み、不安、不満等において、「人手が足りない」は 55.7%(54.2%)で「仕事内容のわりに賃金が低い」39.8%(39.1%)よりも高く、介護現場での人手不足は賃金より大きな悩みや不満となっています。
出典元:公益財団法人 介護労働安定センター 令和元年度「介護労働実態調査」の結果
賃金についても給与そのものというよりも仕事量に対しての対価として不満を感じているケースが多く、有休取得率の低さも人手が足りていないことに紐づいてきます。つまり、いかにして人材不足を補うか、スタッフの負荷を減らすかという点が各施設の課題といえます。
オペレーション見直しで個人の生産性がアップ
そうはいっても、業界全体で人材不足は続いており、すぐに人材不足自体を解消するのはなかなか難しい問題です。まずは今すぐ取り組めることとして、施設内のオペレーションの見える化をおこないましょう。
「介護施設でよくあることとして、サービス内容が毎日同じにも関わらず、出勤する人数が毎日異なることがあります。入居型施設の場合、24時間365日稼働しておりスタッフに固定の休みがあるわけではなく、変形労働となっています。休みについても、希望日に取得することもあります。そうするとサービス提供lを行うにあたって現場に携わっている人数が今日は10人だけど明日は8人という日が発生し、人数が減ったとしても同じ仕事量をこなさなくてはいけません。
当然、少ない人数の日は忙しく感じます。しかし、人数が少ないから食事を提供しないということは起こりえません。サービス提供は成り立っています。つまり、人数の増減に関わらず基本サービスは提供できるため、本当に必要な人数が何人かということを考える必要があります。現場に何人いれば運営可能なのか? を考える必要があり、そのために1日の人数の流れと作業量を洗い出し、業務の効率化について検討していきましょう。」
飲食店など繁忙日が読める職場の場合はそこに人数を集中させることで負荷を軽減できます。、しかし、365日休みがない介護の現場においては、食事や入浴のように毎日決まった時間に発生する業務と、書類作業のように隙間時間にできる業務、毎日処理しなくても対応できる業務と、タスクを整理を行わなくては人材不足は解消しません。
タスク分けをする中で、省くことができる業務については人が足りている日に回すことで、少ない人数でも最小限の負荷で業務にあたることができます。また、毎日この人数がいれば運営可能というボーダーの数字が生まれれば、人数が多い日には有休も取得しやすくなり、有休消化率も上げることができます。
また、勤務時間中の各スタッフの動線も併せて整理していき、関連性がある業務や同じフロア・メンバーでおこなう業務については同じタイミングで処理するなど、少しでも無駄な動きを省いていきましょう。
IT&人材紹介会社の活用 外部の手を借りて負荷軽減を図ろう
短期的な取り組みとしては、施設内の見える化をおこなってオペレーションを整理することが第一段階ですが、長期的にいうと、いかに人材不足を補填していくかを施設側は注力していかねばなりません。コロナ禍で、これまで頼みの綱だった外国人雇用も難しくなってしまったことから、国内での人材採用も取り組んでいく必要があります。
自社での採用で人を集められない場合は、人材派遣会社に依頼してでも、人の補填が急務です。
人材不足は、「人材不足→業務の圧迫→残業が増え、休みが減り有休取得率が下がる→不満がたまる→離職してしまう→さらに人材不足となる」という悪循環を生みます。これを断ち切るためにも、お金をかけて積極的な採用は続けていかねばなりません。
人材不足をどうしてもカバーしきれない場合はIT導入を進めるのもひとつの手段です。
「新型コロナワクチン接種が徐々に進み、介護施設としてはコロナ対応の終わりがある程度見えてきましたが、人材不足については外国人労働者が入ってくるまでは今のままの状況が継続します。そのため、どうすれば今の人数で運営ができるかを考えなくてはいけません。
政府としてこれまで人材不足の対応は外国人登用でカバーしようという方針でしたが、外国人のかわりにIT導入することで人材不足を補填しようという新たな動きに変わってきています。」
令和3年度介護報酬改定の主題の中で、介護人材の確保・介護現場の革新という形でIT導入を強く推奨しています。
○テクノロジーの活用や人員基準・運営基準の緩和を通じた 業務効率化・業務負担軽減の推進
○文書負担軽減や手続きの効率化による介護現場の業務負担軽減 の推進
(令和3年度介護報酬改定の主な事項)
難しい表現ですが、見守り機器を導入して夜勤の人数を緩和しようとする動きや、電子署名や電子記録による書類の電子化を推進しようという内容です。
まだまだ古い体制の施設も多いですが、少しずつIT化を図ることでひとりひとりの業務負荷を減らし、長く働いていける職場環境を作っていくことが、離職率の低い優良施設となる第一歩となります。
出典元:
公益財団法人 介護労働安定センター 令和元年度「介護労働実態調査」の結果
令和3年度介護報酬改定の主な事項