優しい鍼灸と東洋医学の面白さにハマり、SEから鍼灸師へ【ヘルスケアのお仕事 Vol.40 自然なからだ 手塚幸忠さん #1】
ヘルスケア業界のさまざまな職業にフォーカスして、その道で働くプロにお仕事の魅力や経験談を語っていただく『もっと知りたい「ヘルスケア」のお仕事』。
今回は、東洋医学をベースとした優しい施術で慢性的な不調にアプローチする鍼灸マッサージ治療室「自然なからだ」院長の手塚幸忠さんにフォーカス。
SEとして働いていた手塚さんは、「SEを辞める理由が欲しい」という軽い気持ちでヘルスケア業界の門を叩いたそう。そこから鍼灸マッサージ教員としても活動するなど、東洋医学に深くハマっていきました。
前編では、そんな手塚さんのこれまでの道のりと、現在の働き方について詳しく教えていただきます。
お話を伺ったのは…
表参道鍼灸マッサージ治療室「自然なからだ」
院長 手塚幸忠さん
鍼師、灸師、あん摩マッサージ指圧師。コンピューターエンジニアとして4年半勤めた後、鍼灸の世界へ。専門学校卒業後、鍼灸マッサージ教員免許を取得。教員として活動する傍ら、共同経営サロンに6年勤務。その後、2017年に表参道鍼灸マッサージ治療室「自然なからだ」を開院。サロン経営をしながら非常勤講師としても活動中。
整体師になるはずが、東洋医学の面白さに触れて鍼灸師に
―前職はSEだったそうですが、ヘルスケア業界に入られたきっかけは?
SEの時は、当たり前のように家に帰れない職場でした。子会社だったので出世の道も見えず、こうなりたいと思える先輩もいなかったんです。「これは体がもたないな」と思って、他の仕事を探すことにしました。
でも「つらいから辞める」とは言いたくなくて…。「やりたいことができたから辞めます」と言えることを見つけようと思ったんです。そこで興味を持ったのがマッサージ整体でした。もともとマッサージをよく受けていたので、おもしろそうだなと思ったんです。だから最初は整体メインで考えていました。
―現在は鍼灸をメインにされていますよね。鍼灸にシフトされた理由は?
退職して整体師を目指すと周りに伝えた後、SEの先輩の知り合いだった鍼灸師さんからアドバイスをいただいたんです。整体は国家資格ではないから、あん摩マッサージ指圧師の資格を取ったほうがいい、もし鍼灸にも興味があれば同時に取れるよ、って。
正直、僕はもともと注射が大嫌いだったので、鍼はあり得ないと思っていたんですけど(笑)。一緒に資格が取れるなら、という気持ちで鍼灸も学ぶことにしました。
でも学び始めると、鍼灸や東洋医学がすごく面白かったんです。学外で「痛くない鍼」の勉強会があり、そこで師匠の先生と出会って学んでいく中で、やり方を工夫すれば刺激が少ない鍼でも効果が出ることもわかりました。
また仕事として続けることを考えると、年齢を重ねて体力が落ちても鍼灸なら続けられるなと感じたので、鍼灸をメインに学ぶようになりました。
習いながら実技が覚えられる「臨床実習」に魅力を感じて教員養成科へ
―専門学校卒業後から開業までの道のりをお聞きします。手塚さんは鍼灸マッサージ教員の免許をお持ちですね。
はい。僕がやりたかった施術は東洋医学的なもので、当時は就職という考え方がほぼなく、卒業後は開業するか、先生に弟子入りするかが、ほとんどでした。でも僕はいきなり開業するのがちょっと怖くて、師匠の先生に相談したんです。すると教員免許を取ることをすすめられました。
僕は人前で話すのが大の苦手だったので、教員になる気はまったくありませんでした。でも教員養成科なら毎日のように臨床実習があって、偉い先生に質問をしながら実技を学べると気づいて(笑)。専門学校在学時は、卒業まで無免許だから臨床を経験できないんですよね。だから「習いながら実技を覚えられる」ことに惹かれて、教員養成科に入りました。
同時に、夜は東洋医学に精通した学校で事務職のアルバイトも始めました。師匠の先生も講師をしていたので助手をしながら、いろんな先生たちのサポートもしたりして。そのおかげで教員養成科を卒業後は、そこで専任教員も務めました。
―教員は、治療院と並行して?
共同経営の治療院だったので、週4日は教員、週3日は治療院で勤務していました。その治療院は特殊で(笑)。教員養成科2年目の秋に、講師の先生が持っている治療院が締めっぱなしだから、そこで開業の練習をしてみたい人はいるかと授業の時に聞かれたんです。そこで手を挙げた3人でスタートしました。
ただ、場所を借りて売り上げも先生に渡すので、収入にはつながらないんです。僕は実家暮らしでしたから、臨床の練習ができるならと思って参加しました。だから収入は教員のほうからでしたね。
共同経営から完全独立し、表参道に「自然なからだ」を開院
―共同経営の治療院から独立して「自然なからだ」を開いた経緯を教えてください。
3人の方向性が違ってきたというのと、プライベートで子どもが生まれたということもあり、今後のことを考えて独立することにしました。銀座にある治療院だったので家賃も高くて…。
4年前に開いた「自然なからだ」は、銀座に通っていた患者さんが来られる範囲で、自宅から近い表参道にしました。今は非常勤の講師を続けながら、治療院をメインに働いています。休日は月曜日と日曜日、祝日。非常勤講師の日は、昼のクラス2コマ、夜のクラス2コマを受け持っているので、一日学校に行っています。
コースによりますが、お1人の施術は短くて45分、長くて2時間程度。休憩は予約状況に合わせて空いた時間に取っています。夜の予約が入れば、もう少し遅くなることもあります。
銀座の治療院にいたころ同時施術もしてみたんですが、患者さんの満足度が明らかに下がったと感じたんです。それからはマンツーマンでの施術にこだわっています。
―鍼灸師のお仕事を始める前と後でギャップを感じたことはありますか?
前職がSEだったこともあり、鍼灸師の仕事にはゆったりしたイメージがありました。鍼灸師になるための本を読むと朝行って夜早めには帰る感じで、すごく健康的になれそうだなと思っていたんです。
でも実際は、会社が終わってから来たい人もいますし、若いうちは夜の患者さんもよくとっていましたから終電まで治療することも多くて。結局のところSE時代とあまり変わらない状況が一時期あったくらいでした。時間の面も体力面も思っていたより大変だなと思いましたね。
ただ好きでやっていることなので、精神的なストレスはないんです。今は身体的にも年齢的にも大変なので、夜の治療は入れていません。楽そうだなというイメージで鍼灸師になってしまうと、ギャップが大きいかもしれませんね。
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SEからヘルスケア業界に入り、軽い気持ちで鍼灸師を目指し始めた手塚さん。しかし学びを深めるにつれ、東洋医学の魅力にハマっていきました。次回は、そんな手塚さんが感じているお仕事の魅力や苦労をインタビュー。鍼灸師を目指す方へのアドバイスもお伺いします。
取材・文/山本二季
撮影/米玉利朋子(G.P.FLAG)