ヘルスケア&介護・看護・リハビリ業界の応援メディア
ヘルスケア 2021-11-17

日本のセラピストの水準を世界レベルに!【もっと知りたい「ヘルスケア」のお仕事 Vol.42 MTI 國分利江子さん #1】

ヘルスケア業界のさまざまな職業にフォーカスして、その道で働くプロにお仕事の魅力や経験談を語っていただく連載『もっと知りたい「ヘルスケア」のお仕事』。

今回登場いただくのは、2021年10月に「マッサージセラピー・インスティテュート(MTI)」を開校した國分利江子さん。さまざまな職業を経験した後、セラピストこそ自分の天命だと気づいたという國分さん。アメリカへ大学留学しマッサージセラピーを学ばれました。

そして帰国後サロンを開いた時、日本のセラピストが置かれる現状に気づいたそう。そこから國分さんのセラピスト教育がスタートしました。

前編では、そんな國分さんがセラピスト教育に尽力されている理由と、10月からスタートした「MTI」について教えていただきます。

今回お話を伺ったのは…

アメリカNY州政府認定マッサージ・セラピスト 國分利江子さん

ホリスティック医学に基づくマッサージセラピーを学ぶため、2001年アメリカの名門校Swedish Instituteに入学。NY州政府認定のマッサージ・セラピスト試験に合格する。2006年に帰国後、Body(身体)、Mind(心)、Spirit(魂)を調和するメソッド『BMS Therapy』を創設。2008年にスクールを開校し、世界水準の教育を日本のセラピストに提供する傍ら、雑誌『セラピスト』の連載や特集などを通して広くセラピストの育成に尽力する。2021年「マッサージセラピー・インスティテュート(MTI)」の構想を立ち上げ、クリエイティブ・ディレクター兼校長に就任。

職業病だらけの日本人セラピストを守る知識を広めたい

セラピストになると決めた時から、アロマやエステティックではなくオイルマッサージの治療家レベルの仕事をしたかったという國分さん。しかし日本とヨーロッパには学べる場所がなく、見つけ出したのはアメリカ・NYの大学。30代前半で語学の勉強から始め、留学を決めたそうです

——國分さんは長年、セラピストの育成に尽力されています。教育に力を入れ始めたきっかけを教えてください。

アメリカには、アロマのセラピストではなく「マッサージのセラピスト」という職種があることを知り留学を決意しました。そこは1916年創立で「マッサージセラピー界のハーバード大学」と称され、100年以上の歴史をもつ名門校。セラピストの在り方や知識、技術を深く学びました。1916年当初の授業から、既に、1,666時間のカリキュラムで、666時間は病院内での研修という驚くべき内容でした!名実ともに世界最高峰のマッサージスクール。そんなスクールがあることが、日本では全く知られていないことにも驚きました。

その後、帰国してまた驚いたのが、日本のセラピストは95%以上が職業病を持ちながら働いているということでした。指や肘の関節痛や肩こり、腰痛があるのは日本のセラピストの常識で、長く続けられないのは当たり前。でもこの仕事が好きだからやっている・・という人が多い、と。

それを聞いた時に、涙が出てきてしまって…。好きだから体が痛くても続けるって、なんて犠牲の精神なのって。

それと同時に、なぜその問題が起こるのか不思議でした。セラピストが健康なままずっと働けるようになるために、その問題を解決してあげたいと思って調べ始めたんです。

——体に不調を抱えるセラピストさんは多いですよね。その理由とは?

日本のオイルマッサージはヨーロッパから入ってきているので、美容と芳香療法がベース。だからソフトタッチが正解なんですが、日本は指圧の国だからお客様に強い圧を求められるんですよね。それでソフトタッチを学んだのに「強い圧をつくる正しい身体の使い方」を知らないまま対応して、無理な体の使い方が常識になってしまった。それが原因だとわかりました。

ヨーロッパからきたソフトタッチの手法は「皮膚」にアプローチするものです。でも肩こりや腰痛は「筋肉」がターゲット。皮膚と筋肉はまったく質の異なるものなのに、皮膚に圧を届ける施術方法で筋肉の問題を解消しようというのは無理がありますよね?

それがわかったころ、サロンのお客様としてセラピストの方々がいらっしゃるようになりました。みんな肩こり腰痛で、どうにか自分の体をケアして仕事を続けたいと。そのなかから「私も國分さんのような専門的な仕事をしたい」という人たちが出てきたんです。

——でも学べるのはアメリカの大学…。

そう(笑)。そう答えると「そんなの無理です!」って、みなさんがっかりされるんです。何人かそんなやり取りをするうちに、「もし私が教えられるようになったら、この人たちを助けられるんだよね」と考えるようになりました。それでスクールを作るという発想が出てきて、3カ月で準備して立ち上げたんです。

スクールでセラピストの在り方を伝え続けた13年

予約10カ月待ちのサロンと並行してスクールを立ち上げ、
セラピストに必要な知識と技術を普及するように

——2008年にスタートした「BMSマッサージセラピー・スクール」ですね。

アメリカで学んだ筋解剖学をベースとした施術の技術と、潜在意識レベルのカウンセリングを融合した「BMSセラピー」。そして、日本のような「おもてなし」接客業ではない、プロフェッショナルなセラピスト教育。自分が知っていることを一生懸命、小さいことから地道に伝えていく日々でしたね。

アメリカの世界基準のセラピストの在り方は、日本のセラピストの状況や働き方よりもかなり進んでいるというのは理解していました。それでも、私が学んだ、世界水準のセラピストの在り方は、日本のセラピストを飛躍させるものになるんじゃないかという気持ちは、ずっと持っていました。

だから自分が作り上げた施術メソッドを伝えるのはもちろん、それよりなにより「セラピストが本当に自立できるようになって欲しい」と思ってカリキュラムを作ってきたんです。

——そんな13年続けてきたスクールを閉校された理由は?

13年続けて新たな課題も見えてきました。日本のセラピストの実力アップと自立を助けるためには、まず必要なのは、オイルマッサージの技術に特化した大学レベルのスクールである、と。

日本のセラピストの95%以上は、「型のある施術」によって誰にでも同じマッサージを提供しています。サロンに勤めながら働き始める人が多いので、オーナーはお客様からクレームがこないようにするため、セラピストみんなに同じ施術をさせています。私は、日本のサロンオーナーの多くが「運営しやすさを重視」して、「セラピストの実力を高める働かせ方をしていない」と気づいてショックを受けました。

WSなどで、多くのセラピストから「5年経っても10年経っても同じような施術。目の前にいるクライアントの肩こりや腰痛がなぜ起こるのかも理解できずに、決められた施術をしている」と聞かされ、悲しくなりました。そこで、セラピスト自身が自分の力で立ち上がって、実力をつけて独立できるような、オイルマッサージに特化した日本一のスクールにしたいと心に決めたんです。

そんな時に、「ボディケアJAPAN」というイベントを共同主催していた仲間から、コロナ禍になりオンラインで学びたい人が増えているなかで、日本初の大学レベルのオンラインスクールを作ろうと。技術を高めるために、zoom授業とリアル施術授業も組み合わせた最高のカリキュラム、それが2021年10月に開校した「マッサージセラピー・インスティテュート(MTI)」でした。

筋解剖学を使いこなす「ヘルス・プロフェッショナル」を育成したい

取材をしたのは開校前の2021年9月。
講座の準備のための資料は、医学的な専門知識満載!

——「MTI」の構想について教えてください。

仲間とミーティングをしていくなかで、近年ではセラピストも筋肉について学ぶようになってきたのに、なぜそのセラピストの施術レベルが変わらないのかと疑問を持つようになりました。そこで気づいたのが、筋肉を個別に勉強することと、「筋解剖学」という体系だった学問を勉強するのは、まったく違うということ。

日本のセラピストに多いマニュアル式の型のある施術で、そこに筋肉の知識を取り入れるだけでは、技術は上がらない。それだけでは、サロンから独立して自分の力でサロンをつくったり、確実な実力でお客さんを取ったりするのは難しいんです。そして、結局は、また自信がなくなって、お金を使って何かを勉強する・・・従来の悪循環に戻ってしまう。

私が短期間で、トップセラピストになれた秘密はズバリ「教育」です。中途半端な学びを幾つ組み合わせても技術はアップしません。私は特別に頭が良かったわけでも、人より優れているわけでもなく、ただ最高の教育を選んで、最初から、本格派のプロになれる勉強をした。だからこそ、大学卒業後すぐに、キャリアほぼゼロで帰国した時にも、日本で20年以上のキャリアがある人より上の立場に立てた。それは、私が、他のセラピストが知らない専門的な勉強をしたからなんです。

筋解剖学によって不調の原因が特定でき、ソフトタッチ〜深い圧の施術まで自由自在使いこなし、実際にクライアントの体が変わっていく。それが世界的な視点で見たオイルマッサージの在り方です。でも日本では、そのような専門性の高い教育制度がまだ確立されていなかった。

日本初の大学レベルのオイルマッサージのスクールを作りたい。私が受けた様な教育を、日本のセラピストに学んで欲しい!それが「MTI」の構想のベースです。エステティックやアロマセラピーの施術とはまったく別の、マッサージセラピーのスクール。日本のオイルマッサージの治療家の職業基準を決める学校を作っている感じです。

——セラピストの地位向上にもつながりそうです。

何をしたらもっと上に行けるのかわからないまま、さまざまな型のある施術を学ぶセラピストは多いです。

でも、私は、抽象的な癒しのセラピストではなく、「ヘルスプロフェッショナル(健康の専門家)としてのセラピストを育成したい。セラピストが膝をついておしぼりを渡すような接客業の働き方をなくしたい。セラピストというのは「医療従事者の次のポジション」になり得る仕事なんだというのを知って欲しいんです。

もちろんそのためには、プロフェッショナルになるための勉強が必要です。専門性の高い勉強をして、説得力のある技術を身につけたら、絶対に自立できる。手に職をつけるというレベルではない、「セラピストがプロになれる仕組み」を作り、「自分が頼れる自分」を作る。そんなこれまでにない視点からのセラピスト教育を、「MTI」では全国どこからでもオンラインで受講できます。


セラピストが社会的地位を確立していくための教育制度を立ち上げた國分さん。その根底には、國分さんが持つ仕事への考えがあります。「仕事は1に自己表現、2に経済的な基盤を作るもの。それができたら3つめは、仕事を通して社会にどう貢献できるか」と語る國分さん。そんな仕事に対する姿勢について、次回はお話しいただきます。

取材・文/山本二季
撮影/高嶋佳代

Imformation

マッサージセラピー・インスティテュート
https://massagetherapy.jp/

この記事をシェアする

編集部のおすすめ

関連記事

【関連記事】
精神保健福祉士とは