どんなときも公正公平で適切なリハビリをする 介護リレーインタビューVol.7【理学療法士 三野弘樹さん】#1
介護業界における職種や仕事内容について詳しくご紹介するべく、実際に介護現場で働く方々にインタビューする本連載。
介護業界を支えるリハビリ職種の一つ、理学療法士。今回取材に伺ったのは、在宅復帰に向けたリハビリを行う介護老人保健施設「プラチナ・ヴィラ 青葉台」(ツツイグループ)で、主任理学療法士として働く三野弘樹さん。前編では、介護業界にたどり着くまでのお話や、理学療法士の仕事に必要なこと、後編では、主任の役割や部下への接し方、後輩への熱いメッセージをお聞きしました。病院よりも施設で働く方が向いていると話す三野さん。リハビリは毎回、自分にとっての100%で臨むことが鉄則のようです。
《プロフィール》
三野弘樹さん(36歳)…高校卒業後、専門学校の理学療法科に進学。新卒でツツイグループの病院に入社。7年前に同グループの介護老人保健施設に異動。現在は宮前と青葉台の2つの施設でリハビリ科の主任を務める。
介護業界に入ったきっかけ
スポーツトレーナー=理学療法士だと思っていた
――介護業界に入ったきっかけを教えてください。
理学療法士という職業を知ったのは高校生のとき。毎日野球に明け暮れていたのですが、ある日部活で手首を痛めてしまったんです。うちの高校は強豪校だったので、当時スポーツトレーナーが付いていたんですね。「お前手首どうしたんだ」と気づいてテーピングをしてくれたんですが、全く痛みを感じなくなったんですよ! さっきまであんなに痛かったのに「何だこの仕事は!」と感動して調べ出したのがきっかけです。実は、そのときのスポーツトレーナーが今のツツイグループの職員なんです。
――理学療法士への入り口はスポーツだったんですね。
当時は、スポーツトレーナー=理学療法士だと思っていたので、いざ学校に入って勉強してみたら、やれ骨折、やれ中枢、やれ麻痺…え? スポーツのことは? って違和感を持ちながらやっていたんです(笑)。ところが、勉強していくうちにだんだんと興味が沸いてきて、専門学校卒業後に病院に就職することができました。
――もともとスポーツトレーナーを目指していたとのことですが、シニアの方と接する仕事に戸惑いなどはありましたか?
学生の頃は、まさかシニアの方のリハビリにがっつり携わることになるとは全く思っていませんでした。けれど、相手が子どもでも、50代の方でも、90代の方でも、そのリハビリで自分は何をするべきかをきちんと理解できていれば、結局相手が誰でも一緒だと思うんですよね。リハビリの実施時間は施設や病院によって異なりますが、やる内容や必要性はどの場所でも共通なんです。病院でも介護老人保健施設(以下老健)でも訪問リハビリでも、我々のやるべきことは変わりません。だから、こういう人のリハビリじゃないと嫌! ということにはならないんじゃないかな。80、90代の方だってしっかり回復しますからね。
理学療法士の仕事内容と老健の役割
施設を地域に知ってもらう意味がようやく分かった
《ある一日の仕事の流れ》
――それでは、三野さんの業務内容を教えてください。
2つの施設に籍を置いているので、交互に不在にしていた間の情報収集をすることから始まります。僕はリハビリ部署を統括している立場なので、利用者様の状態変化や職員トラブルなどについて把握しておく必要があるんです。全体朝礼、リハビリ職員とのミーティングが終わったら、リハビリを行いつつ時間を見て管理業務を行います。お昼になったら午前中の特記事項や報告に答えて、もし答えられない内容であれば情報取集をしたり調べたり。夕方もまた同じことの繰り返しです。
――病院から老健に異動されてみて、どう感じていますか?
老健は自由度が高いなと感じています。入所・通所・訪問リハビリなど色々なリハビリスタイルがあるので、正直病院にいた頃より充実しています。介護が必要となったとき、やっぱり「病院に行きたくない」「知らない人を家に入れたくない」という気持ちを抱く方もいるじゃないですか。実は、うちでは予防介護事業として月2回、地域で健康体操の教室を開いているんです。
背景として、参加者たちがゆくゆくは要介護・要支援となったときに、「病院以外にもこういう施設があるんだよ」と知ってもらうきっかけになればという想いがあるんです。いざ介護が必要になったときに、理学療法士という資格や介護施設の種類などわからなくても、「あのときの体操のお兄ちゃんだ!」と知っている顔があれば、それだけで安心しますしね。
「老健とは地域に根差した施設であること」と国で定められていますが、若い頃は何で地域に知ってもらわなければいけないのか分からなかったんです。でも、今となってはその意味を実感しているところです。老健は地域の方々に柔軟に対応できるのが良いところですよ。
リハビリ職種に求められること
「一人では無理です」と言えることが大事
――こちらの施設には何名のリハビリスタッフがいらっしゃるのですか?
この青葉台には13人在籍しています。理学療法士が6人、作業療法士が5人、言語聴覚者が2人働いています。
――リハビリ職種は男女比はどのようになっていますか?
僕の肌感ですが、理学療法士は男性6割、女性4割で、作業療法士は男性4割、女性6割かな。リハビリ職種は、わりと男女の割合は半々だと思います。
――男女半々なんですか! リハビリ職種は体力ありきの職業だと思っていました。
例えば、300キロの人を動かしてくださいと言われも無理ですよね。でも、80、90キロの人を動かしてと言われたら多分みんな頑張っちゃうと思うんです。「移乗動作に必要なのは技術と力のどちらだと思いますか?」とよく新人に質問をするのですが、大半は「技術」に手を挙げるんですよね。実は、答えは「両方」。
経験の浅いスタッフほど「理学療法士なんだから一人でこなせて当たり前」と思って一人で頑張ろうしてしまいがちなんですよ! だから、まずは自分のキャパを把握することからですよ、「無理です」と言うことは恥ずかしいことじゃないですよと僕は教えているんです。とくに女性スタッフの場合は、無理だったら声を掛けるように口をすっぱくして言っています。みんな忙しいからと遠慮してしまうと、体を故障して辞める原因になりますからね。
――これまで介護従事者の方々に取材をしてきて、みなさん共通して口にされるのが「信頼関係」。三野さんなりの信頼関係の築き方を教えてください。
日々の行動だと思っています。リハビリは僕らからすると数多い中の1、2回ですが、利用者様にとっては週に1、2回の貴重な機会なんです。どの利用者様にも分け隔てなく公正公平に適切な対応を常にできているかだと思うんですよね。僕らだって人間ですから、体調が悪い日もありますが、そんなときでも相手を敬ってそのときに出せる全力でリハビリに臨まなければいけません。それを日々できていれば自然と関係性が生まれてくると思うんです。だから、先に関係性づくりを意識しているのであれば、それは順序が違うのかなと。
――なるほど。仕事に対するまじめな姿勢の積み重なりが信頼を生むんですね。
僕達の仕事は、適切なリハビリテーションを提供することです。利用者様が「あれ?」という顔をしたときは「これはこういう目的でやっています」、「苦しい」と言ったら「頑張ったらこうなりますよ」と説明することが大事になってきます。ただ「頑張れ! 頑張れ!」ではなく、上から目線な言い方かもしれないけれど「あなたのためにやっています」と伝えることがとても大事なんです。関係性づくりに悩んでいる人がいるなら、自分のやっていることに自信をもって相手に説明できていれば、向こうも自然に心を開いてくれると思いますよ。
――どんなときにやりがいを感じますか?
地域の方々がこの施設を選んでくれたり、利用者様が在宅復帰されるとなったときに「退院してもここでリハビリを続けられますか?」という質問をいただいたりすると、やっぱり嬉しい! 利用者様の8割は前に病院に通われていた方々なのですが、病院に戻るのではなく、またうちでリハビリを続けたいと言っていただけると、正直「勝った…!」と思いますね(笑)。
目の前の利用者様に常に全力を尽くすこと、それが三野さんが考える信頼関係の築き方なんですね。利用者様に誠実であるためには、技術力だけでなく、説明する力と、ときには勇気を出して周囲に助けを求めることも必要なのだと教えていただきました。次回は、主任としての役割や部下への想いをお聞きします!
▽後編はこちら▽
自分の限界までやっていることが大事! 介護リレーインタビューVol.7【理学療法士 三野弘樹さん】#2>>
取材・文/佐藤咲稀(レ・キャトル)
撮影/山﨑裕一
Store Data
プラチナ・ヴィラ青葉台
住所:神奈川県横浜市青葉区鴨志田75-1
電話:045-963-0056
URL:http://www.platinum-villa.jp/aobadai.html