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特集・コラム 2019-07-30

【介護の教科書】プロの介護士として必要なこと

介護士はプロ意識が欠落している!?

インターネット上のページやQ&Aサイトのコメント、雑誌の情報によると、介護職の地位はかなり低く見られています。昔で言うところの3K(キツイ、汚い、危険)+低賃金の代表格のように扱われているわけですから、介護とは無関係の人たちからは「他にできる仕事がなかったから、仕方なく介護職をしている人」と思われることがあります。

もちろん実際は、「高齢者が好きだから」「人の役に立てる仕事がしたいから」など、望んで介護職に就いている人がほとんどなのですが、なかなかそうは思われていないのが現実です。

そして、更に介護スタッフが思われているのが「介護士はプロ意識が欠落している」です。しかも、これは介護に無関係な人たちからだけではなく、実際に介護を受けている利用者のご家族など、関係者の意見でもあるのです。

「仕方なく介護職をしている人」と思われているだけなら「勝手に思わせておけばいいよ!」と、放置することもできますが、「プロ意識の欠落」は介護業界全体の衰退にも関わってしまいます。「安心して親族を預けられない」という意見のご家族が増え、「介護士になりたい」という人が減る、その他にも介護業界の未来に多くの悪影響を及ぼす可能性もあります。

介護士はプロ意識が低いと思われる理由

では、なぜ「介護士はプロ意識が低い」と思われるのでしょうか。そもそも、そう思われる星の下にある職業なのでしょうか。その原因はいくつかあると考えられ、介護業界人はその意見をフィードバックする必要があります。

ニュースにもなっている多くの事件や事故

超高齢社会の現代の日本で、ニュースでも大きく取り上げられる、「介護施設での認知症患者に対する虐待・暴行」「介護士が利用者の金銭を窃盗」「デイサービス 送迎中の交通事故」「介護報酬の不正受給」などの事件や事故が大きな原因でしょう。もちろんこれの事件や事故は200万人近くいる介護従事者のうちの一部の人たちによる行為ではあるのです(もしかすると氷山の一角かもしれません)が、一般の人たちには「これが介護業界全体の実情」と感じられても仕方がないのかもしれません。

本来、人のためにあるべきはずの介護士が、結果的に人を貶める・人の命を奪う行為をしているわけですから「介護士はプロ意識が欠落している」「プロとしての心構えができていない」「本気で人の役に立ちたいという気持ちが無い」と思われることは容易に想像ができます。

改善努力をしなくても経営が成り立つ業界という勘違い

飲食店経営の場合、当然死に物狂いの経営努力をしなければなりません。例えばラーメン店を開いたとしても、商品が美味しくなければ客は来ませんし、店が汚い場合も同様です。そして価格も来店数に大きく影響します。駅前にもう一軒ラーメン屋があった場合は、そのラーメン屋との差別化を図る必要も出てくるのです。

介護事業所は「経営努力が必要ない」なんて意見はもちろん勘違いですし、勝手なイメージです。他との差別化など経営努力をしている介護施設はたくさんありますし、逆に経営不振により潰れてしまっている介護施設も多くあります。

一般の人の思い込みが「介護士はプロ意識が低い」という認識に繋がるポイントなのです。

無資格でも働ける

介護士の仕事として食事介助・入浴介助・排泄介助などがありますが、どれも人間が豊かな生活を送るために重要なサービスと言えます。しかし、これらのどの介助をするにも資格は必要ないのです。

資格を得ることにより、自覚・責任感・プライドなどが芽生えます。例えばプロボクサーのライセンスを取得すると「自分の拳は武器だ」という思いに続き、プロとしての自覚が生まれますし、医師資格を得ると「この技術でたくさんの人の命を救う」という熱意と同時に「医療ミスなどは決して許されない」という恐怖も意識付けされるでしょう。それは、介護職の代表的な資格である介護福祉士やケアマネジャー(介護支援専門員)を取得しても同じで、専門家としての責任感や自信が生まれます。

介護福祉士の資格を取得したところで法令的に「携われる仕事が増える」ということはないのですが、同じ仕事をするにしても無資格の人と国家試験に合格して介護福祉士の資格を持っている人とであれば、プロ意識の違いは歴然です。

誰でもできる仕事

「介護の仕事は無資格でも働ける」という事実が前提にあり、そこから「誰でもできる仕事である」と誤解されることが多いようです。『誤解』と書いてしまいましたが、実際は誤解かそうでないかを断言することできません。職業差別をするつもりはまったくありませんが、例えばコンビニやファミリーレストラン、ファストフード店や居酒屋の店員などは一般的に見て「誰にでもできる仕事」と考えられることが多い職業です。そういった店で働く人を見て「やっぱりコンビニ店員は居酒屋の店員に比べてプロ意識が高いなぁ!」などという話にはならないでしょう。つまり、介護職も同じように一般的に「誰でもできる仕事」と思われている時点で、プロ意識云々という目では見てもらえないのです。

しかし、同じ女性コンビニ店員でも、元気で愛想の良い小林さんと、無愛想でボソボソと何を言っているのかわからない今泉さんがいて、お客さんに「小林さんと今泉さんでは、どっちが仕事ができそうに見えますか?」と聞くと、ほとんどの人が小林さんに投票するでしょうし、実際に仕事ができるのは小林さんでしょう。つまり、誰にでもできる仕事の中にでも『仕事ができる人』と『できない人』がいて、『プロ意識が高い人』と『プロ意識の低い人』がいるのですが、実際はなかなかそういった目では見てもらえないのです。

介護士の待遇

介護業界の待遇にも問題はあります。「不十分な教育体制で、入社後2日ほどで一人前の介護士として働かなければならない」のような環境ではプロ意識が生まれる前に一線で働かなければいけませんし、しっかりした研修制度でプロ意識持った上で働き始めても「仕事内容の割には給料が低い」「劣悪な人間関係」のような環境では、プロ意識も心もすぐに折れてしまいます。

環境の悪い職場が多いことも、プロ意識が低い原因と言えるのです。

そもそもプロとは??

前項では「プロ意識の低さ」について述べてきましたが、「プロ意識」とは何なのでしょう。そのまま読み解くと「プロとしての意識」なのですが……そもそも「プロ」とは??

プロ【professional】:①専門職 ②本職(商売となる職、生業とする職) ③玄人

インターネット上の辞書によると、「プロ」を上記のように説明しています。この辞書の②の理屈で言うと「介護で生計を立てている人は介護のプロ」ということになります。将棋の棋士であっても、カート選手であっても、それで生計を立てていればプロでしょう。もちろん間違っているとは思いませんし、その通りだと思います。が、「賃金を貰っているのだから、その賃金に見合う仕事をする」という意識が「プロ意識」だとすると、賃金が低いとプロ意識も低いということになってしまいます。ここで言う「プロ意識」とは少し違いますよね。

③の「玄人」というのは仕事ができ、師匠と呼ばれるくらいの達人のようなイメージです。介護職では「スムーズに入浴介助ができる」「おむつ交換が早い」などが“仕事ができる”ということなのかもしれませんが、作業スピードなんてものは所詮技術であり、経験を積めばできるのは当たり前です。もちろん介護技術は大切なことには違いないのですが……そうすると経験を積めば誰でもプロであり、仕事をスムーズに進める意識が「プロ意識」なのかというとそれも違います。

「プロ意識」というのは元々、プロスポーツや芸能の世界で使われ始めた言葉であり、「プロ野球選手が、スタジアムに来てくれたお客様に最高のパフォーマンスを見せる」「歌手や俳優が、舞台やライブ、テレビを見てくれる人に最高の演技を見せる」「ファンのみなさんに満足してもらえるように、常に鍛錬しておく」「最高のパフォーマンスを見せるために、本番に最高の体調になるように調整する」などの意識を持った人を「プロ意識がある(高い)」と言うようです。

つまり、介護業界にあてはめると、お金を払ってくれる人(ここでは「利用者」や「その家族」)が満足してくれるために常に努力することを「プロ意識が高い」というのではないでしょうか。

プロ意識を持つために

「プロ意識とはそもそも何なのか」「なぜ介護職員はプロ意識が欠けているのか、またはなぜそう勘違いされているのか」について考えてきましたが、これが最後です。「介護職員がプロ意識を持って働くにはどうすれば良いか」についてまとめることができればすべて解決です。

一般の人の勘違いについては一度保留にしておいて、それ以外について考えて行きます。
前述しましたが、「資格がなくても働ける仕事」というのはプロ意識を持つための大きな弊害になっています。やはり、介護職という人の命を預かる仕事に携わるわけですから、最低でも「介護職員初任者研修(旧:ホームヘルパー2級)を所持していないと介護の仕事に携わることができない」のような決まりを作ることにより、プロ意識を持つことに繋がるとは思うのですが、こればかりは国が法律を変える必要があるので個人の力ではどうすることもできません。そこで介護の仕事に従事するみなさんに言えることは、できる限り介護職員初任者研修や介護福祉士などの資格を取得してください。実績と自信、責任感を得ることにより、それがプロ意識に繋がります。

入社してからの研修・教育内容も問題です。新人研修や新人教育の場で、プロ意識の大切さを教えるべきでしょう。しかし、残念ながらプロ意識を教わらずに育った教育係が新人の教育をしているのが現状ですので、教育を受けた新人がプロ意識を身に付ける道理はありません。介護業界全体として、抜本的な改革が必要と言えるでしょう。

どうすれば、介護業界全体がプロ意識を持つことができるのかと言うと、前述したように、スポーツ選手や芸能人のような考えを持つことです。スタジアムのお客様は利用者やその家族です。常に、その方々に満足してもらえるようなパフォーマンスを心掛けることです。それにより、介護業界全体がプロ意識を持って働く団体になることを期待します。

さて、最初に保留しておいた、周りの一般人の勘違いについてですが……放っておいて良いと思います。介護職員一人ひとりがプロ意識を持って働くことにより事件・事故は減り、それにより自ずと周りの介護業界を見る目も変わるからです。
介護職員の意識が変わることにより、周りの勘違いは無くなります。介護職員が変われば周りの世界も変わるのです。

仕事ができるかを測るものさし

介護業界で働き、知識を身に付け実績を積むことにより、資格を取得する人はたくさんいます。しかし、現行の資格制度では不足している部分があるのです。それは「実際に現場で何がきできるのか?」を判断する基準です。介護における現状の試験・資格で本人の知識を判断することはできるのですが、実践的スキルで言うとなかなか判断するのが難しいと言えます。

それを補うために「わかる(知識)」と「できる(実践的スキル)」の両面からの評価するする制度があります。厚生労働省が介護職員資質向上促進事業として普及促進している「介護プロフェッショナルキャリア段位制度」がそれです。

企業や事業所によって異なった基準である職業能力評価を、「キャリア段位制度」という共通のものさしを導入することで、認定レベルによって誰が見ても知識やスキルを判断できるようにしたものです。

認定レベルによる知識とスキル

では、知識やスキルによって認定されるレベルを確認しましょう。

レベル分野共通の考え方介護プロフェッショナル
Lv.1エントリーレベル
職業準備教育を受けた段階
初任者研修により、在宅・施設で働く上で必要となる基本的な知識・技術を習得
Lv.2一定の指示のもとに、ある程度の仕事ができる段階一定の範囲で、利用者のニーズや状況の変化を把握・判断し、それに応じた介護を実践
基本的な知識・技術を活用し、決められた手順等に従って、基本的な介護を実践
Lv.3指示等がなくとも、一人前の仕事ができる段階利用者の状態像に応じた介護や他職種の連携等を行うための幅広い領域の知識・技術を習得し、的確な介護を実践
Lv.4一人前の仕事ができることに加え、チーム内でリーダーシップを発揮することができる段階チーム内でのリーダーシップ
(サービス提供責任者、主任等)
部下に対する指示・指導
※このレベル以上の者が「アセッサー(評価者)」になれます。
Lv.5プロのスキルに加えて、特定の専門分野・業種における更に高度な専門性を持つ、あるいはその人の独自の方法が顧客等から認知・評価されている段階多様な生活障害をもつ利用者に、質の高い介護を実践
介護技術の指導や職種間連携のキーパーソンとなり、チームケアの質を改善
Lv.6
Lv.7その分野を代表するトップ・プロフェッショナルの段階

キャリア段位制度による職員・事業所のメリット

[職員]
・現場で何ができるかを証明できる。
・評価を受ける中で、自身の介護技術を見直すことができる。
・やりがいや処遇改善の材料につながる。
・転職の際のデメリットを軽減できる。

[事務所]
・サービス水準をアピールできます。
・評価を職員へのOJTとして活用できる。
・職員のやりがい等を引き出し、定着率の向上につながる。
・新規採用時に応募者の能力が明確になる。

アセッサー(評価者)とは

アセッサーとは、事業所・施設内において介護職員のキャリア・アップを推進・支援していく役割を担う人材をいいます。アセッサーは、介護職の管理的立場の人であり、被評価者である介護職員の「できる(実践的スキル)」の度合いを評価(アセスメント)するとともに、職場における被評価者のスキルアップのための具体的な方策を被評価者と一緒に検討を行い、スキルアップの支援(OJT=On the Job Training)を行う役割があります。アセッサーになるためには以下の条件が必要です。

1. 介護キャリア段位制度レベル4以上の者
2. 介護福祉士として3年以上実務に従事した経験があり、かつ、介護福祉士実習指導者講習会を修了した者(介護福祉士養成実習施設実習指導者Ⅱの要件を満たす者)
3. 実技試験に係る介護福祉士試験委員の要件に該当している者。具体的には、以下のいずれかに該当する者。
①介護福祉士、保健師、助産師又は看護師の資格を得た後10 年以上実務に従事した経験等を有する者
②介護福祉士養成施設等(社会福祉士及び介護福祉士法第39 条第1号から第3号までに規定する学校又は養成施設)において介護の領域の科目を5年以上教授又は指導した経験を有する者
4.介護福祉士、保健師、助産師又は看護師の資格を得た後5年以上実務に従事した経験等を有し、介護技術講習指導者養成講習を修了した者(介護技術講習指導者の指導者の要件を満たす者)
5.サービス提供責任者、主任等(チームやユニットを管理・運営し、部下に対して指導・助言を行う役職に就いている者)又は介護部門のリーダー(課長(係長)、フロアリーダー等)

段位の評価方法

段位の評価は「実践的スキル(できる)」と「知識(わかる)」の両面から行います。

【実践的スキルの評価】
・介護サービスを提供している事業所・施設において、一定の要件を満たした「アセッサー(評価者)」と呼ばれる人が、介護職員の日頃の仕事の様子や業務の記録等を実際に見て評価することとしています。(内部評価)
・併せて、事業所・施設において評価が適切に行われていることを第三者機関が評価することとしています。(外部評価)

【知識の評価】
・既存の介護福祉士資格など国家資格との関係を明確にすること、資格との関係を複雑にしない観点から、原則として、介護福祉士養成課程、介護職員初任者研修等の講義を修了したことで、評価することとしています。

まとめ

介護士のプロ意識が低い、または低いと思われている問題には様々な理由があります。

・ニュースにもなっている多くの事件や事故
・改善努力をしなくても経営が成り立つ業界という勘違い
・無資格でも働ける仕事である
・誰でもできる仕事である
・介護士の良くない待遇

これらが、現状の問題の引き起こしており、それらを解決するためには業界全体として、介護士のプロ意識を育てていく必要があります。
現在、介護職員として働いているみなさんも、自分がプロ意識を持って働いているか、改めて見直す良い機会にしていただきたいと思います。

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